第12話:忘れられた古代竜の聖域
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意気揚々と『バグズ・ネスト』を旅立ち、数歩。
見渡す限りの紫色の荒野で、俺は、根拠もなく自信満々に前方を見据えた。背後では、初めての本格的な旅に、ミアが目を輝かせている。
「ヴァル様、すごいね! どこまでも続いてる!」
「ああ。だが、俺たちの目的地は一つだ。東の果て、『世界の背骨』山脈…!」
俺がビシッと指を差した先を、ミアはきょとんとした顔で見つめ、そして無邪気に尋ねた。
「ヴァル様、東ってどっち?」
「……え?」
「だから、ひがしはどっち?」
「は、はっはっは。ミア、東といえば、太陽が昇る方角に決まって…」
俺は言いかけて、ハッとした。
魔界にも夜は長いが昼夜はある。しかし、太陽が東から昇るとは限らない…
(しまった! 前世の常識、通用しないのかよ…!)
ノクテリオンたちの前で、「東を目指す!」と高らかに宣言してしまった手前、今更「道が分かりません」とは口が裂けても言えない。リーダーとしての威厳が、音を立てて崩れ去ってしまう。
「ふ、ふん。ミア、いいか。本当の冒険者というものはな、方角なんかに頼らない。自らの力で、進むべき道を見出すものなのだ…!」
俺は苦し紛れにそう言ってごまかしつつ、ミアにバレないように、こっそりと《コード・アナライザー》を発動させた。
(対象:この世界の環境情報。地磁気の流れ、魔素の濃度分布、二つの月の重力バランスから、前世の『東』に相当する座標軸を算出…っと)
脳内に、膨大な環境データと計算式が流れ込む。数秒後、俺は一つの方向を特定した。
「こっちだ!」
何事もなかったかのように、俺は確信に満ちた足取りで歩き出す。
「わーい! ヴァル様はなんでも知ってるんだね!」
背後で聞こえるミアの尊敬に満ちた声に、俺はただ冷や汗を拭うことしかできなかった。
そんなこんなで旅を続けていると、前方に荒廃した遺跡が見えてきた。
そこで休憩を取ることにし、腰を下ろした時、透き通るような光沢を放つ、身の丈5メートルはあろうかという人型の魔物が突如、出現した。
慌てて俺は、《コード・アナライザー》を発動。
【オブジェクト名:ブロンズ・ゴーレム】
【特性:純粋な魔力エネルギーによって構成された攻撃を無効化する。】
【弱点:物理法則に則った、化学的な変化(溶解、腐食など)】
「純粋な魔力攻撃が無効…? ならば、《火炎ブレス》はダメか」
俺は試しにブレスを放つが、炎はゴーレムの体に触れることなく霧散してしまった。
「だが、こいつならどうだ!」
俺は《酸液飛ばし》を放つ。それは純粋な魔力エネルギーではなく、魔力によって生成された「物質」だ。案の定、酸液はゴーレムの分厚い装甲に着弾し、ジュッと音を立てて表面をわずかに溶かした。
『グ、オ…ッ!』
ゴーレムが、初めて明確な反応を示す。しかし、ダメージは浅い。奴の自己修復機能が、溶解した箇所をすぐに元通りにしてしまう。
「自己修復機能付きか! しかも硬すぎる! これまでの戦い方では、ジリ貧になるだけだ!」
ゴーレムが、巨大な拳を振り上げて突進してくる。
俺は接近戦を挑むが、その一撃はあまりに重い。《外殻強化》で防御しても、全身に衝撃が走り、吹き飛ばされそうになる。
「ミア! そいつの足元を狙え!」
「う、うん!」
俺がゴーレムの注意を引きつけている間に、ミアは俺の指示を聞き、自分の影に意識を集中させた。
「影さん、お願い! あの人の足を、捕まえて!」
彼女の足元の影が、まるで黒い沼のように広がり、ゴーレムの足首に絡みつく。
『グ、オオ…!?』
足を取られ、ゴーレムの動きが一瞬鈍る。その隙を、俺は見逃さない。
(ダメだ!《酸液飛ばし》の威力が足りない! もっと高濃度で、持続的なダメージを与えないと、自己修復に追いつけない!)
俺は、戦闘の最中、思考をフル回転させる。
(《外殻強化》は俺の体を硬化させるスキル、《酸液飛ばし》は体外に酸を生成するスキル…。別々に使うからダメなんだ。もし、この二つのスキルプログラムの根幹にあるロジックを再結合し、俺の腕そのものを、強酸性の刃に変えたら…!)
俺は《コード・アナライザー》を、初めて自分自身に向けた。
(防御力と、高濃度の溶解能力を併せ持つ、攻防一体の刃を構築する!)
「うおおおおっ!」
俺の右腕が、緑色のオーラを放つ硬質のブレードへと変形する。
これが、俺が編み出した最初のオリジナルスキル――《アシッド・ブレード》!
ゴーレムの拳を、変形した腕で弾き返す。甲高い金属音。そして、その勢いのまま斬りつけると、刃が触れた箇所が、自己修復が追いつかないほどの速度でジュウジュウと音を立てて溶けていく!
『グオオオオオッ!?』
苦痛に呻くゴーレムに、ミアが追撃を加える。
「えいっ! えいっ!」
彼女は《シャドウ・ポケット》から、道中で拾った鋭い石を次々と射出し、ゴーレムの関節部を的確に狙い撃っていた。
俺とミア、初めての完璧な連携だった。
目の前には、輝きを失い、ただの巨大なガラクタと化したブロンズ・ゴーレムの残骸が転がっている。
ミミズ時代なら、これに触れてチマチマと分解・吸収するしかなかっただろう。だが、今の俺には、より効率的な方法がある。
「さてと…ごちそうの時間だ」
俺は、崩れ落ちたゴーレムの胸部に手を置いた。そこには、俺が《アシッド・ブレード》で貫いた核が、かろうじて形を保っている。
「《悪食》、発動」
俺がそう呟くと、手のひらから黒い靄のようなものが溢れ出し、ゴーレムのコアに絡みついた。
シュウウウウウ……!
まるでデータを吸い出すかのように、コアから光の粒子が、奔流となって俺の腕へと流れ込んでくる。ミミズ時代のように、身体全体で受け止める受動的な吸収ではない。この「手」で、狙った対象から、その本質を直接引きずり出す、能動的な捕食。
《対象:『ブロンズ・ゴーレム』の情報を分解します》
《純粋な魔力エネルギーに対する耐性情報を抽出…》
《スキル《魔法抵抗》を獲得しました》
《自己修復機能に関する情報を抽出…》
《スキル《HP自動回復》を獲得しました》
脳内に、次々とスキル獲得のログが流れる。特に《HP自動回復》は大当たりだ。これがあれば、戦闘中の細かい傷は、MPを消費せずとも勝手に治っていく。生存率が格段に上がるだろう。
「よし、上出来だ」
情報の大部分を吸い出され、ゴーレムの残骸は砂のようにサラサラと崩れていった。
俺は、新たに得た力と、レベルアップによる全回復した体調に満足しながら、自分のステータスを確認した。
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【種族】ヴルム・ドラコ(竜蟲)
【個体名】ヴァル
【レベル】3
【HP】 250 / 250
【MP】 180 / 180
【攻撃力】130
【防御力】160
【素早さ】95
【魔力】140
スキル:悪食(Lv.4)、火炎ブレス(Lv.2)、アシッド・ブレード(Lv.1) new!、麻痺耐性(Lv.2)、酸耐性(Lv.2)、火炎耐性(Lv.2)、毒耐性(Lv.1)、電撃耐性(Lv.1)、外殻強化(Lv.3)、物理抵抗(Lv.2)、魔法抵抗(Lv.1) new!、HP自動回復(Lv.1) new!、隠密(Lv.1)、言語理解
固有スキル:コード・アナライザー、竜の因子
称号:竜の記憶を継ぐ者
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(ふぅ…、スキル欄がどんどん長くなっていくな)
俺は、充実したステータスに一人ごちると、ミアが笑顔でこっちに向かってきた。
「えへへへ、私もレベルアップしたよ!」
【個体名】ミア
【レベル】2
【スキル】《シャドウ・ポケット》(Lv.1)、《シャドウ・トラップ》(Lv.1) new!
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「やったな、ミア」
「うん! やったね、ヴァル様!」
俺たちは、ハイタッチを交わして勝利を分かち合った。
あらためて、ゴーレムが現れた方角を確認すると、洞窟を発見した。
この一体だけが、ポツンとこの場所にいたとは思えない。この先に、何かがあるはずだ。
俺とミアは、警戒しながら洞窟の奥へと進んでいく。
洞窟は、やがて人工的に切り拓かれた通路へと変わっていった。壁には、風化してほとんど読み取れない古代の文字が刻まれている。
そして、通路の突き当たりに、俺たちは巨大な石の扉を見つけた。
扉には、人の背丈ほどもある精巧なレリーフが施されている。それは、天を翔ける雄大な竜の姿だった。
「…竜の神殿、か?」
俺がそう呟いた瞬間、胸にある『竜の涙』が、扉のレリーフに呼応するように、脈打つような光を放ち始めた。
ゴゴゴゴゴ……!
光に呼応し、千年は閉ざされていたであろう石の扉が、重々しい音を立ててゆっくりと開いていく。
扉の向こう側から、ひんやりとした、澄んだ空気が流れ出してきた。
「まさか…これも、あんたの導きだって言うのか…ヴァルス・アステラクロン…」
俺は、天を仰ぐように呟いた。ただの偶然とは思えない。まるで、見えざる竜の意志が、俺たちをこの場所へといざなっているかのようだ。
「ヴァル様…」
ミアが、不安そうに俺のローブを掴む。
扉の奥は、どこまでも続くかのような、深い闇に包まれた下り階段になっていた。
俺は《コード・アナライザー》で、その遺跡の扉を解析する。
【オブジェクト名:忘れられた古代竜の聖域】
【状態:開錠状態。竜の魔力と因子によって認証】
【種別:半自律型ダンジョン】
それは、未知の危険と、まだ見ぬお宝が眠る、ダンジョンの入り口に他ならなかった。
「どうやら、とんでもないものを見つけちまったらしい」
俺の口元に、自然と笑みが浮かぶ。
恐怖よりも、好奇心が勝っていた。この先に何が待っているのか、確かめずにはいられない。
俺たちは、新たなる力をその身に宿し、古代の竜が遺した謎のダンジョンへと、その第一歩を踏み入れたのだった。
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新しい物語の幕明けにドキドキ・ワクワクするような気持になるように、特に力を入れて書きました。皆さんの心に響いていたら嬉しいです。
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