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第11話:置き土産と旅立ちの誓い

いつも読んでくださりありがとうございます!


最新話をお届けします。

楽しんでいただけると嬉しいです。


明日も7:00と20:00に2話、更新予定です(*^^*)


それでは、どうぞ!





旅立ちを決めたものの、すぐに出発するわけにはいかなかった。


ミアを連れていくという俺の言葉に、彼は安堵の表情を浮かべたが、すぐに現実的な問いを投げかけてきた。


「ヴァル様が決意されたのであれば、我らは心よりお見送りいたします。ですが…差し出がましいようですが、一体どちらへ向かわれるおつもりで?」


「それは…」


俺は言葉に詰まった。そうだ。旅に出ると息巻いたはいいものの、俺には何のあてもない。


この広大な魔界で、闇雲に歩き出したところで、遭難するのが関の山だ。


「…情報が、あまりにも不足しているな」


俺は頭を掻きながら、思考を整理し始めた。元システムエンジニアの脳が、課題解決モードに切り替わる。


「唯一の手がかりは、ゼノンが残した言葉。そして、ノクテリオンが教えてくれた伝承だ」


俺は焚き火の前の地面に、棒で簡単な図を描き始めた。


「ゼノンは言っていた。『世界の境界は固く閉ざされている』。そして、『人間界から流れ着く武具や技術がある』と。この二つは矛盾しているようで、重要なヒントだ」


ノクテリオンが、真剣な眼差しで俺の言葉に耳を傾ける。


「つまり、完全に閉ざされているわけじゃない。どこかに『綻び』や、あるいは人工的な『ゲート』のようなものが存在する可能性が高い。そして、ゼノンのような高位の魔人ですら噂レベルでしか知らないということは、その場所は魔界の中心地から離れた、忘れ去られた辺境にあると考えるのが自然だ」


俺は、ノクテリオンに視線を移す。

「あんたが言っていた、人間界の伝承。何か、地理的な特徴はなかったか?」

俺の問いに、ノクテリオンは顎の髭を撫でながら、記憶の糸をたぐり寄せるように言った。


「そういえば…一つ。光の世界は、この魔界のはるか東、天を衝くほどの巨大な山脈を越えた先にある、という一節がございました。その山脈は、あまりに巨大で険しいため、誰も越えたことがなく、いつしか『世界の背骨』と呼ばれております」


「東の果ての、『世界の背骨』…」


その言葉に、俺の中で霧が晴れていく感覚があった。信憑性は低いかもしれない。だが、闇雲に歩き出すより、よほどマシな道標だ。


「よし、決めた」


俺は地面に描いた図の中心から、東に向かって一本の線を引いた。


「まずは東を目指す。その道中で情報を集め、最終的に『世界の背骨』山脈を越える。これが、俺たちの最初の旅のロードマップだ」


具体的な目標が定まったことで、俺の心に迷いは消えた。


さあ、やるべきことは山積みだ。

俺は、この巣に残していく置き土産の準備に取り掛かることにした。


まずは俺がこの巣を離れても、彼らが自分たちの力で生き延び、成長していける基盤を整える必要がある。いわば、プロジェクトの最終納品と、運用マニュアルの引き渡しだ。


「まず、ノクテリオン。あんたを、俺が不在の間の『虫の巣(バグズ・ネスト)』代表代行に任命する」

俺がそう告げると、ノクテリオンは「身に余る光栄」と深く頭を下げた。


「だが、あんた一人の負担を重くするつもりはない」


俺は、数日かけて書き上げた粘土板を彼らの前に置いた。そこには、俺が定めた巣の基本的なルール――**『バグズ・ネストの憲法』**が刻まれている。


内容は「食料はみんなで分ける」「当番はサボらない」「もめ事は暴力ではなく、ノクテリオンの前で話し合う」といった、ごく簡単なものだ。


「そして、これが一番の置き土産だ」


俺は、希望したインプたち全員の前に立った。

「これから、お前たち一人一人の『適性』を診断する。自分が何に向いているのか、知りたいやつは前に出ろ」


インプたちが、興味と不安が混じった顔でざわめく。


俺は《コード・アナライザー》を使い、彼らの魂の構成要素を読み解いていく。


「お前は、体は小さいが魔力の流れを捉えるのがうまい。罠の設置と解除を極めれば、最高の斥候になれる」


「あなたは、辛抱強く細かい作業ができる。薬草の調合や、道具の修繕をやらせたら右に出る者はいないだろう」


「君は、誰よりも頑丈だ。盾の扱いを覚えれば、仲間を守る最高の壁になる」


俺が告げたのは、単なる診断結果ではない。彼ら自身も気づいていなかった可能性の言語化だ。自分の役割と進むべき道を示されたインプたちの目は、みるみるうちに自信と誇りの光を宿していった。


「最後に、これだ」

俺は、数枚の粘土板に描いた設計図の束をノクテリオンに渡した。

「これは…?」


「今後の巣の発展計画だ。まず、これは用水路の設計図。少し離れた水源から水を引けば、農業の効率が格段に上がる。こっちは防御壁の強化案。そして、これは衛生管理のための共同浴場と汚水処理の仕組みだ」


俺はそれぞれの設計図の意図を簡単に説明する。


「今すぐ全部作るのは無理だろう。だが、巣が大きくなれば、必ず必要になる。優先順位をつけて、できることからやってみてくれ」


巣全体の引き継ぎと並行して、俺はミアの訓練にも力を入れた。


ミアの「闇」の才能を本格的に訓練する。

きっかけは、数日前のミアとの何気ないやり取りだった。


ミアが自分のステータス画面をぼんやりと眺めながら、しょんぼりと呟いたのだ。


「ヴァル様はスキルがいっぱいでいいな…。ミアは、なーんにもない…」


彼女が指差す自分のステータスウィンドウには、確かにスキル欄が空っぽだった。この世界の誰もがそうであるように、彼女もまた、このウィンドウに表示されるものが自分の全てだと思い込んでいる。


「そんなことはない」

俺は、彼女の頭を撫でながら言った。


「そのウィンドウに見えているものが、全てじゃない。ミア、試しに、自分の影に意識を強く集中させてみろ。何か、変わるかもしれない」


「かげに…?」

「ああ。俺のスキルで見た限り、お前の魂は『闇』とすごく仲がいい。ステータスにはまだ出ていないだけの、隠しパラメータみたいなものだ」


俺の言葉に、ミアは半信半疑ながらも、こくりと頷いて焚き火のそばで自分の影と向き合い始めた。


その時だった。ミアが遊んでいた手元の小石が、ふとした瞬間に彼女の足元の影に「ポチャン」と沈むように消えたのだ。


「「あれっ!?」」


俺とミアの声が、同時にハモった。


「い、石が…消えちゃった…」


ミアが自分の影とおろおろと見比べている。


俺は、その現象を見逃さなかった。すかさず彼女の背後からステータスを《コード・アナライザー》で覗き込む。


【ルート】

 ┣【オブジェクト名:ミア(インプ)】

 ┃ ┗【魂の構成要素コア・アトリビュート

 ┃   ┗【属性親和性アフィニティ:闇(半覚醒状態)】

 ┃     ┗【未習得スキルリスト】

 ┃       ┣ 《シャドウ・ポケット》Lv.1 →《シャドウ・ストレージ(ロック)》

 ┃       ┣ 《シャドウ・ウィップ(ロック)》

 ┃       ┗ 《ブラインド(ロック)》


(…なんだこれは!? 未習得スキルリストだと!?)


《コード・アナライザー》は、ミアの魂に眠る「スキルの芽」とも言うべき可能性すら可視化していた。


さっきの現象は、彼女の才能が無意識のうちに《シャドウ・ポケット》の片鱗を発現させたものに違いない。


その時、ミアが「あ!」と声を上げた。


彼女がもう一度自分のステータスウィンドウを見ると、先ほどまで空っぽだったスキル欄に、新しい文字が浮かび上がっていたのだ。


【スキル】: 《シャドウ・ポケット》(Lv.1)


「ヴァル様! スキルが、スキルが出た!」


ミアは、信じられないといった様子で目を丸くし、そして満面の笑みを浮かべた。初めて自分の「才能」が形になった瞬間だった。


「ほらな、言っただろ?」


俺はにやりと笑う。

「お前には、闇と友達になれる特別な才能がある。そのひとつが《シャドウ・ポケット》だ。さあ、今度は自分の意思でやってみるぞ。そのポケットは、お前だけの宝箱なんだからな!」


俺のポエミーな説明に、ミアはこてんと首を傾げながらも、素直に訓練に打ち込んだ。


最初は小石一つを隠すのがやっとだったが、彼女の才能は本物だった。数日後には、俺の背丈ほどの丸太すら、影の中に音もなく吸い込ませることができるようになった。


「すごいぞ、ミア! これで旅の荷物は心配ないな!」

「えへへー!」

これで旅の準備は整った。




◇◆◇◆◇◆◇◆


そして、旅立ちの前夜。


俺は一人、ヴァルス・アステラクロンの骸の前に立っていた。その巨大な骸は、静かに眠りながらも、この巣の全てを見守っているようだった。


「…あんたが何者で、何を思ってここで眠っているのかは知らない。だが、これも何かの縁だ。あんたの想いは俺が引き継ぐ。約束だ」


俺が心の中で静かに誓いを立てた、その時だった。


竜の巨大な眼窩の隅から、ぽつり、と一滴の黒い雫がこぼれ落ち、地面でコツンと小さな音を立てた。


俺はそれを拾い上げ、《コード・アナライザー》で解析する。


【オブジェクト名:竜の涙】

【属性:不明】

【解析:高純度の魔力結晶体。持ち主の魔力に微かに共鳴する性質を持つ。】


それは、長い年月をかけて竜の魔力が凝縮し、結晶化した宝石――**『竜の涙』**だった。


「…きれいだな。」

便利なアイテムではない。だがこの旅路において、何か力になってくれると直感した。

俺はその宝石を革紐に通して、自分の首に掛けた。



◇◆◇◆◇◆◇◆



翌朝、俺とミアは、巣の入り口でインプたち全員に見送られていた。

「ヴァル様、ミア! 必ず、ご無事で!」

ノクテリオンが、目に涙を浮かべて叫ぶ。


「土産話、期待してるからなー!」

「怪我すんなよー!」


若いインプたちが、覚えたての槍を掲げて手を振る。


「ヴァル様、これ!」

ミアが、何かを差し出す。それは、彼女が昨日、こっそり作っていたらしい、少し歪んだ干し肉だった。


俺はそれを受け取ると、彼女の頭をくしゃりと撫でた。

「そろそろ行くか、ミア」

「うん!」


手を振る仲間たちに背を向け、俺たちはまだ見ぬ「東の果ての、『世界の背骨』」を目指し、未知の魔界へと最初の一歩を踏み出した。だがしかし...最初の数歩で、さっそく計画が崩れたのは、さすがに聞いてない。

今回もお読みいただき、本当にありがとうございましたm(_ _)m


虫の巣はこのあとはどのように発展していくのでしょうか...?今後の続報を楽しみにお待ちください(^_^)v


今後の展開に向けて、皆さんの応援が何よりの励みになります。


「面白かった!」「続きが気になる!」と思っていただけたら、ぜひ**【ブックマーク】や【評価(★★★★★)】、リアクション、そして【感想】**で応援していただけると嬉しいです! 誤字脱字報告も大歓迎です。


皆さんの声が、私の創作活動の大きな原動力になります。


次回更新も頑張りますので、引き続きお付き合いいただけますと幸いです!

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