第10話:虫たちの祝宴と外の世界の足音
おかげさまでまずは10話を迎えられました(o^^o)
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『バグズ・ネスト』が完成して数週間。
俺たちの巣は、驚くべき速度で一つのコミュニティとして機能し始めていた。洞窟の入り口には見張りが立ち、内部では食料の備蓄が進み、子供たちの笑い声が響く。ミミズだった俺が、まさかこんな光景の中心にいるなんて、人生とは分からないものだ。
その日、俺たちは初めての収穫を祝して、ささやかな宴を開いた。
焚き火を囲み、焼いた肉と木の実を分け合う。インプの子供たちは、見よう見まねで覚えた歌を歌い、ぎこちない踊りを披露していた。ミアは影の友達と一緒に楽しそうに踊り、その姿にみんなが笑顔になる。つかの間の、しかし確かな平和がそこにはあった。
宴が最高潮に達した時、長老のノクテリオンが立ち上がり、静かに天を仰いだ。
「おお、神よ! このような過酷な魔界にあっても、我らを見捨てず、レベルとスキルという祝福を与えてくださり感謝します!」
その言葉に、他のインプたちも祈りの体勢に入る。
「そして何より、我らを導くヴァル様との出会いを与えてくださったこと、重ねて御礼申し上げます!」
「神様、ありがとう!」「ヴァル様、ありがとう!」
その光景を見た瞬間、俺の心に冷たい水が差し込んだ。
(いやいやいや、待て待て待て!)
俺への感謝は、まあ…素直に嬉しい。だが、なぜそこで神様が出てくる? 俺をここに遣わしたのは神様だとでも言うのか?
この世界の誰もが当たり前のように信じている『レベル』や『スキル』というシステム。それは本当に、手放しで感謝できるような「祝福」なのだろうか。
(俺にはどうもそうは思えない…)
脳裏に、前世の記憶が蘇る。
理不尽な仕様、歪んだ人間関係、それを盲目的に受け入れ、「給料が貰えるだけマシ」と自らを納得させていた社畜時代の自分。
目の前のインプたちの姿が、あの頃の自分と重なって見えた。彼らは、自らを縛る世界の理不尽さに、まだ気づいていない。
自分への感謝と、神への無自覚な感謝が同列に語られることに、俺は言いようのない気持ち悪さを感じた。
「……少し、風に当たってくる」
俺はそう呟き、宴の輪からそっと離れた。
「ヴァル様?」
ミアが心配そうに後をついてくる。俺が何も言わないのを察してか、彼女も黙って隣を歩いた。
巣の外は、二つの月が紫の大地を照らし、静まり返っていた。
俺がこの世界の「神」という存在に、漠然とした、しかし確かな疑念を抱き始めた、その時だった。
ガサッ、と。
近くの岩陰で、何かが崩れる音がした。
俺は咄嗟にミアを庇い、音のした方へ視線を向ける。
「…誰か、いるのか?」
返事はない。俺はミアに「下がっていろ」と合図し、ゆっくりと岩陰に近づいた。
そこにいたのは、ボロボロの黒い鎧を身につけ、血を流して倒れている一人の男だった。
尖った耳、浅黒い肌。インプとは明らかに違う、屈強な肉体を持つ存在だ。
俺は即座に《コード・アナライザー》を発動させる。
【ルート】
┣【オブジェクト名:ゼノン(魔人)】
┃ ┣【物理パラメータ】
┃ ┃ ┣【状態:重傷、魔力枯渇寸前】
┃ ┃ ┗【装備:高品質の魔鋼鎧(破損)、魔力伝導性の高い長剣】
┃ ┗【精神パラメータ】
┃ ┗【状態:強い警戒心、深い疲労、屈辱】
(…ただの流れ者じゃない。装備に明らかな文明の発達を感じる)
俺は警戒しつつも、彼を見捨てることはできなかった。
俺と数人のインプで、気を失ったゼノンを巣へ運び込む。インプたちは、初めて見る「強者」の姿に怯えていたが、俺は冷静に彼の傷の手当てを指示した。
翌朝、ゼノンは意識を取り戻した。
目覚めてすぐ、彼は周囲のインプたちと俺を見て、鋭い眼光で警戒を露わにした。
「…ここはどこだ。貴様らは何者だ?」
「俺はヴァル。ここはいわば、行き場のない者たちの巣だ。あんたはそこで倒れていた。それだけだ」
俺の淡々とした態度に、ゼノンは少しだけ警戒を解いたようだった。
彼が語った話は、俺が想像していたよりもずっと、この魔界が複雑であることを示していた。
現在、魔界には絶対的な王はいない。古き魔王が没して以降、力ある者たちが次代の覇権を狙い、各地で争いを繰り広げている。まさに、戦国時代。
ゼノンは、その魔王候補の一人である、知将と名高い『深淵の魔女』に仕える側近らしい。
しかし、敵対する最大勢力――武力と恐怖で魔界を支配しようとする『死王』の軍勢との戦いに敗れ、殿を務めた彼は、部隊とはぐれ、追われる身となったのだという。
「死王は、力こそが全てだと信じている。奴が覇権を握れば弱者は、ただ搾取されるだけの奴隷か、塵芥だ」
ゼノンの言葉に、インプたちが息をのむ。
「あんたたちの巣は、興味深い」
ゼノンは、傷ついた身体で巣の中を見回し、ポツリと呟いた。
「弱き者たちが、知恵と協力で、これほどのコミュニティを築き上げている。…あるいは、これこそが、我が主が目指す世界の、一つの形なのかもしれん」
彼は、俺が知りたかった情報も教えてくれた。
「『人間界』か…確かに、そんな世界があると聞く。死王の軍ですら、そこから流れ着くという武具や『技術』には、一目置いている。だが、その境界は固く閉ざされ、誰も越えられぬ」
数日後、傷が癒えたゼノンは、旅立ちの準備を始めた。
「ヴァル、と言ったか。この御恩は忘れん。いつか必ず、我が主と共に、この借りは返させてもらう」
「別に、借りを返してもらうために助けたわけじゃない」
「ふ…違いない」
ゼノンは不敵に笑うと、最後に一つ、忠告を残していった。
「この『バグズ・ネスト』は、いずれ死王の耳にも届くだろう。この平穏が永遠に続くと思うな。力をつけろ。でなければ、お前らの理想は、力によって踏み潰される」
ゼノンの背中が見えなくなるまで見送った後、俺は決意を固めた。
神への違和感、竜の謎、そして巣の未来。
このまま、この小さな巣に閉じこもっていても、何も解決しない。
答えは、外の世界にある。
「ノクテリオン、俺は旅に出る」
俺の言葉に、長老は驚きながらも、どこか予期していたかのように頷いた。
「ヴァル様が決めたことなら、我らは何も申しません。ですが、一つだけお願いがございます」
ノクテリオンは、俺の隣に立つミアの肩に、そっと手を置いた。
「どうか、ミアをお連れください。あの子の力は、まだ未知数ですが、必ずやヴァル様のお役に立つはずでございます」
「ヴァル様と、いっしょにいく!」
ミアが、俺のローブを強く握りしめて、真っ直ぐな瞳で訴えかける。
俺は、彼女の頭をくしゃりと撫でた。
「…ああ、分かった。足手まといになるなよ」
「うん!」
前世では、ただ流されるだけだった。
だが、今は違う。
隣には、守るべき小さな手がある。背後には、帰るべき巣がある。
行き先を決めるのは、他の誰でもない、俺自身だ。
こうして、俺とミア、二人だけの最初の旅が、始まるのだった。
今回もお読みいただき、本当にありがとうございましたm(_ _)m
第一章は折り返し地点まで来ました。
ここから、どんどん世界は広がっていきます。
そして20話目には作者イチオシのキャラクターが出てきますので、ぜひもう少しお付き合いくださいませ(^◇^)
早く登場させたくて、ウズウズしてます笑
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