第9話:巣作りプロジェクトは炎上中?
いつも読んでくださりありがとうございます!
実はこの物語は主人公が元システムエンジニアということで、システムのバグと虫を掛けてたりします。
気づいた方、いらっしゃいますかね?^ ^
どうでもいいような、どうでもよくないような裏設定です笑
俺たちの巣作りプロジェクトが始まって、数日が過ぎた。
その進捗は、一言で言って「カオス」だった。
「ヴァル様! 壁の補強が終わりました! これで巨大な魔物が突進してきても…って、うわっ!?」
「馬鹿者! そこは昨日掘った落とし穴だぞ!」
ドッスーン! という鈍い音と土煙。俺たちの生活は、今日も元気なコントから始まる。
食料と安全が確保されたインプたちは、有り余る元気を斜め上の方向に発揮し始めていた。
「ノクテリオン、この新しい罠の仕掛け、悪くないんだが…なんでトリガーを踏むと、上からタライが落ちてくる仕様にした?」
「はて…? 古来より、不意打ちの基本は頭上からと相場が決まっておりますが…」
「その常識はどこの世界の常識だ!?」
俺が持ち込んだのは、あくまで基本的な設計思想だ。それに、彼らのフリーダムすぎる発想が加わり、俺たちの巣は日々、珍妙な魔改造が施されていく。もはや、俺の当初の計画は見る影もない。プロジェクト、絶賛炎上中である。
俺の主な役割は、火消しと仕様の再々々々修正。そして、《コード・アナライザー》を使ったトラブルシューティングだ。
「ヴァル様ー! このキノコ、食べられますかー!?」
「待て、それを食ったら三日三晩サンバを踊り続けることになるぞ!」
「ヴァル様ー! この石、キラキラして綺麗ですー!」
「寄るな! それに触れると全身の毛が抜け落ちる呪いの石だ!」
「ヴァル様ー! ミアが川に流されましたー!」
「それはただの水浴びだろ!」
毎日がこんな調子で、俺のツッコミスキルだけが、むやみにレベルアップしていく。
そんなある日、探索から帰ってきたミアが、目を輝かせながら駆け寄ってきた。
「ヴァル様、見て見て! 黒くてフニフニしてる!」
彼女の手には、なんとも言えない見た目の、黒い苔が握られている。
「よしよし、よくやったなミア。だが、次はもう少しマシなものを頼む…」
俺は苦笑いしながら、その苔に《コード・アナライザー》を向けた。
【オブジェクト名:シェイド・モス】
【属性:闇】
【解析:食用には不向き。ただし、乾燥させて粉にすると、優れた止血剤になる。注意:生のまま嗅ぐと、幻覚胞子が出る】
俺はミアから苔をそっと取り上げ、子供たちの手の届かない場所に保管した。薬にはなるが、今の彼らに渡したらろくなことにならなそうだ。
その日の夕食後、俺は「このままでは俺の胃に穴が開く」という切実な理由から、ミアの才能開花訓練を前倒しすることにした。少しでも戦力(まともな判断力を持つ人材)を増やしたい。
「ミア、少し訓練をするぞ」
「くんれん? おやつはでる?」
「……成果次第だ」
俺は焚き火の光が生み出す、壁の濃い影を指差した。
「いいか、あの影と友達になるんだ。いっそ、お前自身が影になるくらいの気持ちで…」
俺のポエミーな指示に、ミアはこてん、と首を傾げた。
「影とおともだち?」
「そうだ! さあ、念じるんだ!『我こそは影! 影こそは我!』みたいな感じで!」
正直、俺にもよく分かっていない。完全にノリと勢いである。
ミアは、俺の適当な指示に、なぜか素直に「うん!」と頷くと、影に向かって小さな手をかざした。
「われこそは、かげ…! かげは、おともだち…!」
すると、信じられないことが起きた。
壁の影が、もにゅん、とまるでスライムのように盛り上がり、ミアの形を真似て、可愛らしく手を振ったのだ。
「「「か、影が動いて挨拶したぁーーーっ!?」」」
遠巻きに見ていたインプたちが、今日一番のパニックを起こす。
俺も、想像の斜め上を行く結果に、思わずあんぐりと口を開けた。
「え、何そのファンシーな現象…俺の想定ではもっとこう、禍々しい感じになるはずじゃ…」
ミア自身も、自分の影が挨拶してきたことに大喜びだ。
「わーい! おともだち!」
彼女がぴょんぴょん跳ねると、影も一緒にぴょんぴょん跳ねる。可愛い。実に可愛いが、俺が求めていた戦力とはベクトルが違う!
「はぁ…はぁ…」
数分後、MPが切れたミアがその場にへたり込むと、影も力なく元の壁にべちゃっと戻っていった。
「ヴァル様…おやつは…?」
「…ああ、やる。よくやった。うん、すごく…可愛かったぞ…」
俺は、なんだかどっと疲れた気分で、ミアに木の実を渡した。
そんなドタバタな日々を経て、数週間後。
俺たちの巣は、なんとか形になった。
入り口には頑丈そうな門(なぜか開けるたびにファンファーレが鳴る仕掛け付き)が設置され、周囲には巧妙な罠(時々、開発者自身が引っかかる)が張り巡らされている。洞窟内部は、一応、居住区や貯蔵庫に分かれていた。
俺は、完成したばかりの監視台の上から、自分たちの巣を見下ろしていた。
「まあ、なんだ。色々あったが…悪くないな」
「ヴァル様!」
下からミアが手を振っている。彼女の足元の影が、それに合わせて元気よく手を振っていた。
「うん、やっぱり悪くない」
俺は、この珍妙で愛すべき巣に、名前をつけることにした。
「ここを『バグズ・ネスト』と呼ぼう。『虫の巣』だ」
そう、ここは、仕様書通りにはいかないけれど、なぜかちゃんと動いている、バグだらけで、ちっぽけな存在の俺たちの、最高に楽しい巣なのだ。
と安心したのも束の間。厄介ごとは、向こうから笑いながら歩いてくるタイプだった。
今回もお読みいただき、本当にありがとうございましたm(_ _)m
たいぶ、コミカルなほのぼの回として描いてみました。
ご満足いただけたでしょうか…?
教えていただければ幸いです。
ここからまた物語が動き始めます!
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