第0話:転生したらミミズだった
数ある作品の中から、本作をお選びくださり、本当にありがとうございます。
物語の全体プロットは完成してますが、書き始めたら、キャラが勝手に喋り始めるわ、動き始めるわで作者自身驚いてます笑
作者の思惑通り、話が進んでいくのか、みなさまと一緒に楽しんで書き進めていけたらなと思っています。どうぞ、お付き合い頂けますと幸いですm(_ _)m
※毎日更新予定です
それでは、どうぞ!
それは泥水の中から、無理やり髪を掴んで、引きずり出されるような、暴力的で不快な覚醒だった。
「――ぅ、あ……」
喉から漏れたのは、意味をなさない呼気だけだった。思考が定まらない。俺は誰だ?
ここはどこだ?そうだ、俺は確か――。
◇
『相馬くん、この仕様書通りに実装してくれるだけでいいんだ。クライアントの要望だからね』
『でも、このままではユーザー側に致命的な不利益が……』
『――いいから、やるんだ。これは、決定事項だ』
脳裏に蘇るのは、無機質な会議室の光景。
上司の冷たい声。
ディスプレイに映し出された、歪んだプログラムの設計図。
そうだ。
俺は、相馬 透。三十五歳。
下請けの下請け、孫請けともいうべき零細IT企業に勤める、しがないシステムエンジニア。
あの日、俺はまた「歯車」になることを選んだ。会社の利益のために、ユーザーを欺くシステムの一部を、この手で組み上げた。
胸に澱のように溜まっていく罪悪感。それを無視して、いつものように終電間際の駅へ向かう。
――そして、目の前に滑り込んできた電車のヘッドライト。背中を押されたような、あるいは足がもつれたような、曖昧な感覚。
それが、俺の最後の記憶。
肉体が砕け散る瞬間、思考だけが異常な速度で回転した。
《…イレギュラーな魂を検知しました…》
《…リジェクト・ゾーンへ転送を試みます…》
なぜだ。なぜ俺は、あの時も声を上げなかった?
システムの欠陥も、人の心の痛みも、本当は全部『分かっていた』はずなのに。知らないフリをした。
《…魂の状態に基づき、スキルを生成…》
《…スキル『解析』を生成…》
あの理不尽な要求の、本質に気づいていながら。
俺はそれを、全部“飲み込んだ”。
《…魂の状態に基づき、スキルを生成…》
《…スキル『悪食』を生成…》
『もし、やり直せるなら――』
『もし、俺に本当の力があったなら――!』
《…エラー個体を生成…スキル生成にリソースが割かれたため、最低限のリソースで生成。個体ワームを生成…》
叫びは声にならず、魂を焦がすだけの業火となった。その時だった。
目の前に、ありえない光景が広がった。
青白い光の線が、無数に俺の身体――
いや、魂とでも言うべき中心点を貫き、複雑な幾何学模様を形成していく。
まるで、未知のプログラムがインストールされるような感覚。そして、冷たい機械音声のようなものが、頭の中に直接響いた。
《…エラー個体を隔離…リジェクト・ゾーンへ転送します…》
意味不明の単語の羅列。
拒絶?何を言っているんだ?
俺は――。
◇
思考はそこで途切れ、俺の意識は深い闇へと突き落とされた。
次に目覚めた時、俺は、ぬめぬめとした粘液に覆われた、細くて長い、ナニカになっていた。
手がない。足がない。
俺の四肢はどこ!?
周囲には、見たこともない奇怪な植物が瘴気のようなヤバい光を放ち、湿った土の匂いと腐臭が混じり合った空気が肺――いや、それに代わる器官 (たぶん)を満たす。
「……これ、ミミズかよ!」
あまりにも皮肉すぎる結末に、逆に声が出た(気がした)。
地を這うようなコードを書いていた俺が、ガチで地を這う生き物になるとか、どんなブラックジョークだ! 神様、ちょっと面談よろしいか? 労基に訴えるぞ!
ゴロゴロと、低い地鳴りのような音が響く。見れば、俺のすぐ側を、トカゲにカマキリの鎌をくっつけたような、悍ましい化け物が通り過ぎていく。
なんだアレ!? トカゲとカマキリの悪魔合体!?
おいおい、この世界のデザイナー、正気か?
コンセプト会議絶対荒れただろ!
混乱の極みに達したその時、不意に、俺の視界の端に半透明のウィンドウがポップアップした。ARか!?
《スキル《解析》が起動しました》
《対象:粘菌『ルミネラ・モドキ』を解析》
《表示:この粘菌は微弱な魔素光を発するが、栄養価は皆無。しかし、体内に特定の酸性成分を蓄積する性質を持つ。推奨アクション:摂食は非推奨》
「……なんだ、これは」
幻覚か? ゲーム?いや、まるでプログラミング画面だな。
あの時聞こえたスキル生成ってやつか。まさか俺の後悔が、こんな能力に? 俺は試しに、すぐそばで青白く光るキノコに意識を向けた。
《対象:キノコ『アシッド・キャップ』を解析》
《表示:傘に強酸性の溶解液を含む。危険度:高。接触により、対象の体組織は98%の確率で溶解する。推奨アクション:即時離脱》
あ……っぶねぇえええええ!!
さっきまで「腹減ったし、とりあえずあのキノコでも食うか」とか考えてたぞ! 食べてたら俺、ミミズ汁になってたじゃん! このスキル、生命線すぎる! これなしで放り出されてたら開始5分でゲームオーバーだったぞ。鬼畜ゲーか!
「……だったら、もう一つのスキルは」
あの時聞こえた『解析』と『悪食』。俺は『悪食』スキルについて、解析を念じてみた。
《対象:『悪食』を解析》
《表示:どんなモノでも美味しいと感じ、食べることができる。推奨アクション:摂食》
うわ、味覚の強制書き換え機能付きかよ! しかも推奨アクションが「摂食」って、ゴリ押ししてくるなこのシステム!
俺は試しに、死んで間もない小虫の死骸に、おそるおそる口器 (らしき部分)を触れさせた。
《スキル《悪食》が起動しました》
《対象:『クリスタル・ビートル』の死骸を摂食しますか? YES/NO》
「……YES (おそるおそる)」
選択した途端、微弱な光の粒子が死骸から俺の身体へと吸い込まれていく。
「おっ、実食しなくていいタイプか! よかったー! 虫の死骸をムシャムシャとか、いくらスキルで美味しく感じるとか言われても、元日本人としてのプライドが許さん! 」
《スキル《解析》が起動しました》
「ん?」
スキル起動と同時に、その虫の生態情報――硬い外殻の組成、好む餌、天敵などの詳細なデータが、俺の脳内にライブラリ化されていく。
《条件を満たしました。対象:『クリスタル・ビートル』のスキル《硬化》をコピーします》
「なるほど! GETリクエスト(摂食)で詳細なJSON(生態データ)が返ってきて、さらに特定の機能 (スキル)をライブラリ(俺自身)に追加できる、と。完全にAPI(連携された仕組み)じゃねえか! 理解はしたが、俺は一体どうなったんだ!?」
《スキル《解析》がLv.2に上がりました。》
「おお…レベルアップもか! こういうのはテンション上がるな!」
すると先ほど現れた半透明のウィンドウがポップアップし、俺のステータスが表示された。どれどれ、俺様の華麗なるステータスは……っと。
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【種族】ワーム
【個体名】トオル ソウマ
【レベル】1
【HP】 5 / 5
【MP】 3 / 5
【攻撃力】3
【防御力】5
【素早さ】1
【魔力】0
スキル:解析(Lv.2)、悪食(Lv.1)、硬化(Lv.1)
固有スキル:
称号:
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「……いやこれ確実に死ぬやつでしょ!!」
HP『5』!? 攻撃力『3』!? 防御力『5』!?
待って、スライムより弱くないかこれ!?
ちょっとそこの粘菌に体当たりされただけで死ぬぞ!? 初期装備が『絶望』ってレベルじゃねえ! リソース不足で生成されたって言ってたけど、不足しすぎだろ! メモリ1KBのPCで、最新OS動かせって言ってるようなもんだぞ、これ!
ここがどこだか分からないが、ひとつ確かなことがある。この場でいま最弱なのは、間違いなくこの俺だということ。
……だが、俺には前世で培ったプログラミング的思考と、このスキルがある! こうなったら、このクソゲーみたいな世界で、なんとしてでも生き延びてやる!
……まずは、あのトカゲカマキリにバレないよう、そーっと移動するところから始めようか……。
あ、素早さ『1』だったわ。無理ゲーだこれ。
お読みいただき、本当にありがとうございましたm(_ _)m
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