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1-11 青の侵略者の懺悔

 高身長がコンプレックスの私は、二つ年上の先輩に恋をしていた。

 でもお互いの幼馴染である超美少女も、先輩に恋をしている。俗に言う三角関係だ。


 先輩の本当の気持ちを、私は知っている。だからって諦めきれない。でも告白する勇気も無い。

 そんな事をしていたら、夏祭りの日に先を越されてしまった。


 次の日、憂鬱な私の目の前に現れたのは世界連邦政府の役人。そのまま即連行。

 

 え? なにごと? もしかして、勇気を出さなかった刑に処される?!

 ごめんなさいー!


《本作に登場する名称、機関は全てフィクションです! 念のため!》

 私は父親を恨んでいる。何故かと言えば背が高いから。


「雫お姉ちゃん、パンツ丸見えだよ」


「うるさい、見るな、お子様が」


 父親に似たせいで、私は身長が190センチオーバー。母親に似ていれば、150センチも無かっただろうに。ぶっちゃけコンプレックスだ。でも今はその身長に助けられている。


「もう少し、もう少し!」


 ド田舎の山の中。近所の子の付き添いで昆虫採集に来た高校生こと私、榊原(さかきばら) (しずく)は、木の上から降りれなくなっている子猫を見つけてしまった。

 母猫らしき姿が周囲にないため、はぐれてしまったんだろう。このままでは鳥の餌だ。自然は弱肉強食なのだから仕方ないと、まあ普通の人は言うだろう。でも私はその言葉が大嫌いだ。この世界で勝ち残る為に必要なのは弱肉強食ではない、多様性だ。出来るだけ多くの環境に対応する事が生き残る秘訣。


「あ、落ちちゃう!」


「春樹! 離れて!」


 五メートルくらいあるだろうか。子猫が枝から足を踏み外し、そのまま地面へと自由落下! 私は思い切り飛んだ。木登りの途中で、思い切り体を伸ばして、木を蹴って。

 届く……! この手の平に、子猫を……! 


「雫お姉ちゃん……? 大丈夫?」


 高校の制服姿のまま、私は猫を手で包みながら地面を顔面スライディング。よく考えたら、これ身長あっても無くても変わらなくない? 父親が全て悪いという事にしておこう。


「雫お姉ちゃん?」


「……だいじょうぶ」


 するとハムっと子猫が私の指を甘噛み。そのまま放すと、一目散に草むらへと走って行く。今の甘噛みは一応お礼のつもりなのだろうか。それとも「早く放せニャ!」とか言ってたんだろうか。次にあったら肉球を揉みしだいてやる。


「いっちゃった」


「春樹、ほら、これ」


 私はスカートのポケットの中から、木登りの途中で見つけたクワガタ虫を取り……だせない! こいつ、噛みついてやがる! 


「え、何?」


「ああ、もうっ! この!」


「って、何で脱いで……うわぁぁ! お姉ちゃんの変態!」


「うるさいうるさい!」


 季節は夏。クソ暑い、ド田舎の町が私の住まう地。

 総人口300人ちょいの、平和な……港街。



 《西暦2045年 8月 夏休み》

 

 世界はAIによる暴走を期待していたみたいだが、今のところミサイルが勝手に発射されたり、アンドロイドが暴走したり、ましてや猫型ロボットがネズミを退治するために、錯乱して惑星破壊爆弾を取り出す事態は起きていない。


「お風呂いただきましたぁー……って、ぎゃぁぁ! なんで先輩がここに!」


「なんでって……実はここ、俺の家なんだ」


 共に昆虫採集に行った春樹の家で、一緒にお風呂を頂いた私。今台所でかき氷を作っている男は春樹の兄上、私の先輩。


「わーい、夏樹お兄ちゃん、僕いちごがいいっ」


「ちょっと待っててな。雫は? 何味がいい?」


「練乳……」


 どうしよう、まさか先輩がかき氷を作ってるなんて! てっきり部屋に籠って勉強してるのかと思ってたのに! 今私、短パンにTシャツ姿! 無茶苦茶部屋着! 普段からこの姿で近所を闊歩してるけど、先輩の前では嫌なの! 乙女だから!


 先輩が作ってくれたかき氷を受け取りつつ、縁側で並んで頂く私達。

 くぅ……頭がキーンとするっ。

 

「雫、編入試験合格したんだってな。俺が行く大学の付属校だって?」


「ブフ……っ!」


 思わず咳き込んでしまった。何故知っている!

 

 私と先輩が通う高校は総生徒数三十人そこそこ。今年で廃校予定。なので卒業する先輩はそのまま東京の大学に進学。そして私はその付属高校に編入する。


「なんで、知ってるんすか……」


「凛に聞いた」


 相月(あいづき) (りん)! 犯人は奴か!

 もうお気づきの方も居ると思うが、私は先輩に絶賛初恋中。もう中学生の時から。凛ちゃんは私と先輩の幼馴染だ。ちなみに凜ちゃんも先輩に恋をしている。凜ちゃんは先輩と同い年だし、私にとっては姉のような存在だが、中学生の時に宣戦布告はしておいた。


『私も先輩のことが好きだから! 凜ちゃんに負けないんだから!』


『あらー、可愛いライバルの登場ね!』


 全く相手にされていない感も否めないが、まあ三角関係という奴だ。


「勉強終わってるなら、ちょっとこれ読んでみてくれ」


 先輩は私のコンタクトレンズ型スマホに何やら送ってきた。なんだコレ、小説? もしかして弟の世話を私に焼かせている間に、小説を書いていたのだろうか。全然構いませんけども!


「今度、書き出し祭りっていうSNSのイベントがあってな、それに出そうと思ってるんだ」


「へー。先輩、文才もあるんですね」


 文武両道、才色兼備、それに加えてノルウェー人の父親を持ち、自身も金髪ハーフ顔のイケメン。私が勝っているのは身長くらい。ちなみに春樹はお母さんっ子で、女の子みたいな顔立ちをした男の子。


「二十年以上前からあるイベントで、エルガリオっていうIT企業の主催でな。そこの社長が書き出し祭りの生みの親らしい。全世界で開催されて、それぞれ翻訳されて世界一も決めるそうだ。ちなみに世界一になると月面基地のサーバーに永久に保存される」


「え、凄っ」


 その時、ゆうやけこやけがド田舎の町に鳴り響いた。

 げげ、もうこんな時間か!


「やばい! たこ焼き屋手伝えって、お父さんに言われてるんだった! 先輩ごめん、もう行くね!」


 そう、今日は夏祭りの日。朝から祭りの準備をしている父から、始まる前までに来いと言われていたんだった。


「雫お姉ちゃん、たこ焼きやるの? 僕もいきたいー」


「先輩と一緒に来てねっ。じゃあ先輩、小説読んどくんで!」


「おう。気を付けてな」




 ★◇☆




 髪をポニーテールにして、いざ戦闘準備完了。港町唯一の神社で、高身長の親子がたこ焼きを焼きまくる。それだけで凄い迫力だろう。なんか自分で言ってて悲しくなってきた……。


 祭りが始まり、近所の川で花火が打ち上がる。まさに夏の風物詩。


「たこ焼きくださーい」


 花火に目を取られていた私と父親。お客さんの声に反応して目を向けると、そこにも夏の風物詩が。


「お、凜ちゃん、べっぴんさんになったなぁ」


「やだぁ、おじさんったら」


 相月 凛! 私の幼馴染にして先輩を取り合う、ザ・ライバル!

 髪をお団子にして、アサガオ柄の浴衣。おもわずその白いうなじに齧りつきたくなってくる。


「あ、おじさん、雫ちゃんちょっと借りていい?」


「おう、もういいぞ、雫。ラッシュは終わっただろ」


「あ、うん」


 たこ焼き屋から解放され、お土産に三パック程受け取る私。相変わらず私はTシャツに短パン姿だ。


「雫ちゃん、はい、おごり」


「あ、ありがと……」


 キンッキンに冷えたコーラを渡される私。さっそく開けてがぶ飲み。汗だくでたこ焼き焼いてたから……うめぇっ! 溶けちまう!


「ちょっと静かな所行こっか」


 私が男だったら、今の一言で落ちてたかもしれない。凜ちゃんと共にたこ焼きを食べ歩きしつつ、本当に静かな、少し祭り会場から離れた場所に。そこは花火を見るには穴場だった。ちょうどよくベンチも開いている。他にもカップルが数組いるようだ。


「雫ちゃん、ごめんね」


「え、何いきなり」


「私、今日、夏樹に言おうと思ってる。自分の気持ち」


 グシャ……っとアルミ缶を握りつぶしそうになるのを堪えつつ、私は平静を保とうとする。

 中学生の時に宣戦布告した。私と凜ちゃんはライバルだって。今まで自分の気持ちを先輩に伝える事はいくらでも出来た。勇気を出せなかった自分の自業自得だ。


「そう、なんだ」


「うん。でも雫ちゃんの事も同じくらい好きだから……実はまだ少し迷ってるんだ」


 私は知っている。私が勇気を出せなかったのは、先輩が凜ちゃんの事を好きだって、知ってるから。

 大学も、先輩が凛ちゃんに合わせたんだ。先輩は最初、別の大学を第一志望にしていた。


 私は凜ちゃんの背中を、少しだけ押した。


「え、何?」


「……私、負けないから。凜ちゃんの告白が成功したからって、先輩を諦める気なんて……無いから」


 途端に凜ちゃんの顔が明るくなる。おい、どうしてそうなる。


「ありがと、雫ちゃん。じゃあ、行ってくるね」


「武運を祈る」


 凜ちゃんの背中が見えなくなるころ、私は一人ベンチでたこ焼きを食べる。

 頬に流れる涙を感じながら。

 

 もっと身長が低くて可愛ければ、なんて思いたくないのに思ってしまう。

 悪いのは自分なんだ。勇気を出せなかった、自分が全て悪い。

 とりあえず、父親のせいにして、私の甘酸っぱい青春の幕を……そっと下ろそう。



 ★◇☆


 

 『月面基地のサーバーに不正アクセス? そんな馬鹿な』


『エルガリオからNASAを経由して……既に警告済みでエルガリオからは回線を遮断したと返答がありましたが……止まりません』


『ダミーです。エルガリオのアクセス権が乗っ取られています。全く別の場所から……複数の家庭用のPCや携帯端末を使って……。こんなの、人間技じゃ……』


『負荷をかけて時間稼ぎしろ、AIだ。思考迷路を展開、正体を割り出せ』


『ダメです、回避されました! サーバーに……到達? 中身が抽出されています! 書き出し……祭り?』


『……! 止めろ! NASAに緊急! サーバーへのアクセスを物理的に遮断しろ!』


『犯人の身元が割れました! 高校生……? 榊原 雫、十六歳?!』

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[一言] タイトル: 懺悔。どんな後悔があるんだろう。 侵略者やからねえ あらすじ: タイトルとあらすじのギャップがすごいぞと思ったら最後に何が起きた!?!? ひと言感想: あらすじにある本作に登…
[一言] 【タイトル】これまたタイトルから内容が思い浮かぶタイプではない。「侵略される星が青い」ならよく見る表現だが「侵略者が青い」とはどういうことなのか。 【あらすじ】本当にどんな話なんだ。青春的な…
[良い点] ところどころで唐突に入る「近未来設定」は、あらすじの「世界連邦政府」との絡みですが、それ以外はほのぼのな田舎の夏~という感じで郷愁を誘います! この先に壮大なSFが待ち構えていると思うの…
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