1-09 サモナーさんはなんか変
キメラな外見に変身する。そんな普通のサモナーさんとはまるで違う子が主人公。羊飼いを生業に、襲いかかる盗賊達を潰し、契約した子と戯れて遊ぶ。襲撃者が鬱陶しくなった主人公はやがて……
「召喚」
サモナー。それは契約した生き物を呼び出して戦うジョブ。
契約できる生き物は自分だけでどうにか出来るモノのみ。
ジョブの補正は他のジョブに比べて圧倒的に弱い。魔力量だけが多いくらいか。
「形態変化」
サモナーの召喚する生き物は実物ではない。
自分の魔力と契約個体の魔力だけで作られている。
契約個体の魔力の消費の関係上、弱い生き物の場合は1日に1度呼び出せればいい方。
限界を越えて召喚すればその契約個体は魔力喪失で死亡する。
「装着」
自力で契約できる生き物はたいがい弱く、そして弱い生き物はすぐに魔力喪失が原因で死亡する。
ジョブの補正も低く、多少本人の魔力量が多くとも攻撃魔法や回復魔法などは専門職から見ればあまりにも弱い。
最弱。それがサモナーという職業だった。
「完了」
ではこの人は何か。
ベースは犬人間とも言えるだろうか。二足歩行獣面だが、その顔はあまり牧羊犬。顔つきが優しいし目が丸いし長毛種。
しかしその背中からはゴブリンの腕が生えていた。その手は本体に比べてあまりにもあまりに大きい。
この時点でただでさえ異形だというのに、そこから蛇をお尻から生やしている。自由に動くそれは太ももと同じ太さだった。
どこぞの錬金術師に〇〇はどこに行った? と言われかねない。
「行動開始」
サモナーが呼び出す契約個体は魔力で出来ている。
つまり自分の体に融合する形に変えても問題ない。
魔力で融合させる事により、その部位を中心に契約個体から補正を受けられるというメリットもある。
もちろん相性が悪ければ補正どころかデバフにしかならないが。
「斬」
ゴブリンの腕が石を投げる。蛇の頭が背後を見る。
指先から伸びた細く鋭い爪は敵の首筋を容易く切り裂く。
人間離れしたフィジカル、聴覚や熱感知、感知範囲、行動の幅、手数、そして情報処理能力。
これらが揃った姿は最弱職とは到底言えなかった。
「こ、この、化け物がぁぁぁぁ!」
でもまぁ、控えめにいっても人間には受け入れがたい容姿でもあった。
キメラよりもキメラらしい姿をしているから。
何かしらの実験で生まれた産物としか見えない。
「お前が最後」
ゴブリンの腕や毛皮で体積や体重を増やしてはいる。
けれども変身前が150センチくらいでちょっと小柄なのが悪影響か。一撃が少し軽い。
まぁ、そんなデメリットも素早さで補っているので厄介極まりない。
「ち、畜生っ! 羊飼いの娘っ子1人をさらうだけの簡単な仕事だったはずなのになんでこんな化け物が出てくるんだよ!」
さらう対象が目の前のこの人だという事には気づきようがない。
変身シーンはこの賊には見せてないから仕方がない。
1日に1回以上は契約個体の命に関わるので無暗に変身できないし解除もできない。
「この周辺にある牧場に娘なんていないよ」
賊の顔を見てこの人は言う。またこの手合いかとため息が漏れる。
この人は変身前はけっこう女性寄りの顔をしている。だがしかし男だ。
短髪の方がいいとはうっすら思っているが、自分の事にはものぐさをしてしまうのでいつも長髪。前髪を目にかからない程度に自分で適当に切るくらいしかしない。
自分の事をめんどくさがっているせいか、羊を洗っていると一緒にゴブリンに洗われてしまうのである。
頻繁に洗われるのでこの世界の人にしては身綺麗ですらあるのはいいのか悪いのか。
変身状態の身体能力で死体を適当に担ぎ上げて街道まで運ぶ。
近場に隠してある荷車に死体を載せて、最寄りの死体置き場へと向かう。
人肉も人骨も肥料として使える。放置すれば病害虫の素、小動物やその小動物を狙って集まる肉食獣と厄介事が山とある。
死体回収業者なんてものはいない。そんなものに金を出す行政じゃない。
医者擬きの異常者が集まる医療者も真っ青な、なんちゃって死体置き場だもの。
そこにいる面々は肉の方に興味深々だ。だが金になるのは骨。
骨を焼いて骨炭にし、砂糖の脱色をしてその後肥料として利用する方が金になるらしい。
ここには倫理が足りない。
「おぅ、キメラの兄さんか。それらはいつものとこに置いてってくれ。ちなみに何体ある?」
身体強化がなければ成人男性の体を持ち上げるのは難しい。
だからここでは正体を知らせたうえで変身状態で通っている。
ここの連中は異形である事を忌避しない。変身状態を見ていると解剖したいとよく言い出すが。
そもそもここの連中は基本的に頭にズタ袋を被っているし、人の事を言えた容姿をしていないまである。
貴族大好き真っ白な砂糖を作ったり、効果の高い肥料を売ったりして、賄賂を含む運営資金に困らないらしいが、人には言えない事をしている自覚はあるのだろう。
ここにいる医者擬きに表で高名なお医者さんがいる事もあるというのが地獄か。
「今日は5。ここ最近なんか増えている気がする」
元々一人暮らし故に狙われる事が多かった。
けれどもここまではひどくはなかった。
誰かに狙われているのかもしれない。知らんけど。
「だねぇ。お、そいつそこそこ大物じゃん。賞金首だよ。ボーナスだねぇ」
処理する時は首を一搔き。余計な傷をつけない方が実験がしやすいとかで高く売れる。
下手に生きていると罪の多寡で処遇を考えないといけないから面倒らしい。
罪が重いと本部に持っていかれるし、処理した方が小さな支部では扱いが楽なんだとか。
「そう。石鹸でも買おうかな」
食用にしたくない動物性油脂分はたくさん出るし余る。灰もたくさん出てくる。
石鹸を必要とする作業もたくさんある。自作できるなら作るわけだ。
ここで出てくる石鹸は、固形ではなくほぼ液状の代物だ。灰、もといカリウム使った石鹸だから。
液状石鹸だからこそ各種調合をしやすいらしく性能はいい。自分でも使う様だから本気なのだろう。
材料が材料なのでここの職員でも使う事をいやがる人はいるらしい。まぁ、それはそうだろう。
そんな代物だからむちゃくちゃ安い。
ちなみにろうそくの類なんかもあるがこれは臭い。
たまに黒魔術師みたいな人が買うらしいが、別に降霊なんか出来るモノではない。
悪魔の召喚でもしたいのかもしれない。でも悪魔も嫌だろう。臭すぎる。
「羊を洗う時に使うんだっけ? じゃあ、左の容器を持って行っていいよ」
物心がつく前から利用していたら否が応でも慣れる。
安いからといって買ってくる親も親である。素材というか買っている場所を知って驚かされた子供心を考えろ。
ほんと「もう1人でやれる年齢だな」と言って姿を消すところまで含めて、この人の親は親と呼べない人格をしている。
そんな親だからこの人は人間を同族だと認識できなくなったまである。
「わかった。ありがとう」
この人の周囲で1番人間らしいのは契約しているゴブリンまである。
時にお兄ちゃん、時に父親くらいの勢いで接してくれる。
ただ声帯的な問題で人語は話せないのが玉に瑕。行動や背中で魅せる漢である。
お母さん役は牧羊犬。こちらも人間性高い。甘えやすい位置にいる。
人間なのに1番人間性が低いのはこの人というのは何なのか。末っ子ポジにいる。
倫理観が微妙に足りない。死体置き場と牧場で生活圏がほぼ固定されているためか。
肉も野菜も牧場で完結するし、その他の細々としたモノは死体置き場で揃ってしまうのが悪いというべきか。
羊の骨も死体置き場で売れるというのも大きい。骨炭は骨なら何でも素材に使えるから。
納税は物納と貨幣両方が必要というのが厄介である。税金を取るならもっと賊対策をしろと言いたい。
ここは子供は生まれやすく、人が死にやすい時代。倫理観は現代と比較すると酷い世界である。
人はたいがい劣悪な環境により曲がった性根をしている世界でもある。だから賊になる様な輩も多い。
1番強い賊が政府を名乗っている様な国。ほんとろくな世界じゃない。
この物語は面倒くさがりなこの子が少し頑張る物語である。





