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女装魔王と男装勇者  作者: 柳カエデ
第四章 帝国生誕祭
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第082話 魔王城の宴(前編)


 魔王城に戻り、ダイニングルームの扉をくぐった俺は思わず息を飲んだ。

 長いテーブルの上には銀の燭台と磨き上げられた食器がずらりと並び、湯気を立てた豪華な料理がところ狭しと並んでいる。

 白身魚の香草焼きに脂の乗った鹿肉のロースト。

 彩り豊かな温野菜。

 どれもかつての魔王城にはなかったメニューだ。

 ギガントードの丸焼きや芋虫の素揚げといった、いつものゲテモノ料理が一切ない。


「すごい……これが普段の魔王城の食事なんですか!?」


 カリナが目を丸くし、皿の上のロースト肉を指差している。

 

「んなわけねーだろ。

 魔国領の財政はいつだって火の車なんだぞ」


 そう言いつつ周囲を見渡すと、こちらに一直線に向かってくるルシウスの姿が見えた。


「ま、魔王様!?

 ジッポウから話を聞きました!

 元の姿が人間にバレてしまっていると!

 いったい、どういうことですか!?」


 早口で捲し立ててくるルシウスに釣られ、リアンやキョンシーたちが野次馬のように集まってくる。

 くそ、ジッポウの野郎――

 もうこんなに吹聴し回ってたのか。


「落ち着けって、お前ら!

 大丈夫だ。

 カリナは俺と同じくらいアホだが、俺たち魔族を人間に売るような奴じゃねえ」


「――ア、アホ?

 まぁいいです……ご安心ください!

 騎士の誇りに賭けて、この事実は私の墓場まで持っていきます!」

 

「いや、お前が死ぬまで帝国で女装したかねーよ……」

 

 俺が呟くと、リアンがクスクス笑い、他の連中も半ば呆れたように苦笑を漏らす。

 

「それよりルシウス。

 こんな晩飯の食材どこで仕入れたんだ?

 俺たちにカネなんてねぇだろ」


 俺が問いただすと、ルシウスは穏やかな笑みを浮かべて答えた。

 

「すべて魔王城裏の森で採れた食材です。

 最近では川に魚が泳ぎはじめ、鹿や野鳥も豊富に住み着いております」


「まじかよ……?」

 

 信じられねぇ。

 昔は雑草すら生えない腐った沼地だったのに。

 それが今じゃ魚と鹿の楽園かよ。


「なんでもいいけど早く飯にするあるよ!

 せっかくの料理が冷めちゃうある!」


「あ、ああ、そうだな……」


 リアンに急かされカリナと共に席につく。

 

「そういえば、お姉さま?

 今後の呼び方はどうしましょう?

 お姉さまは変ですから……兄貴?

 それとも師匠?」

 

「いや、もうお姉さまでいい。

 これ以上ややこしくしたくねぇ。

 学院とここで使い分けるとボロが出そうだからな」

 

「分かりました!

 では、お姉さまがランセル殿下に惚れられるよう、私も全力でサポートしますね!」


 目を輝かせて身を乗り出すカリナに、俺は思わず眉をひそめた。

 

「……おまえ、なんでそんなに楽しそうなんだよ?」

 

「え?

 だって、あの女たらしの勇者が女に化けた男の魔王に惚れるんですよ!?

 惚れた女が実は男だと知った時の殿下の絶望する顔。

 想像するだけでも最高じゃないですか!」


 そのサディスティックな笑みに、リアンが興味津々で割り込んでくる。

 

「カリナちゃん、いい趣味してるあるね!

 私と気が合いそうある!」

 

 こいつら妙なところで意気投合するな。

 まぁ秘密を共有してる奴が学院で増えるのは俺としても助かるが。


「――でも、なんでそんなに勇者を陥れようとするんだ?

 それに、さっき勇者廃止論って言ってたよな?

 勇者廃止論ってなんだよ?」


 俺が興味本位で尋ねると、カリナはひざの上に手を置き、背筋を正した。

 

「お姉さまは最近帝国に来たばかりですからね。

 ご存じないのも無理はありません。

 では、少し長くなりますが――

 かつてのガンダルディア帝国は軍事力に突出し、トップに女性を据えた女帝が統治する国家でした。

 ですが、先代女王陛下が病で亡くなり、臨時でコルキス皇帝陛下が即位してから流れは大きく変わりました。

 魔族たちと争っている場合ではない。

 産業を育てなければ帝国に未来はない、と。

 そう宣言したコルキス皇帝は近隣の砂塵の王国や遠方のフロストウォール共和国から知識人を招き入れ、帝国の産業を急速に発展させていったのです。

 ――お姉さま?

 ガルディア学院の実技試験でどこか違和感を覚えませんでしたか?」

 

「…………違和感?

 やたら貴族の魔法のレベルが低かったことか?」

 

「そうです。

 今のガンダルディア帝国では武力など必要ないという考えが貴族の間でも広まりつつあります。

 経済成長こそが帝国の未来を支える、と」


 カリナはワインの注がれたグラスの縁に指を沿わせながら、さらに声を落とした。

 

「そして、その流れの中で生まれたのが――勇者廃止論です」

 

「勇者廃止論……」

 

「はい。

 勇者がいるから争いが生まれる。

 魔族や他国との衝突の火種になる。

 だから、勇者を生み出す聖剣を廃棄し、その存在を歴史から抹消する。

 そうすれば真の平和が訪れ、今よりもさらに外交が円滑に進むだろう。

 そう主張する者たちが後をたたないのです」


「さ、さすがにそれは極論すぎねぇか?」


「ええ、もちろん反対する者もいます。

 ですが、魔族を理由に反対していた者たちも魔国領を支配下においた今、勇者廃止論を唱える者たちに押され気味になりつつあるのです。

 近隣諸国の知識人を招いたようにジャクリット卿のような魔族の知識人とも交流を増やせ。

 武力衝突よりも話し合いを、と」


「なるほど……だから昔より魔族に対して強く当たる奴がいなかったわけか。

 ずっと、おかしいと思ってたんだよ。

 帝国の商業区を歩いていても睨んでくる人間がほとんどいなかったからな」

 


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