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女装魔王と男装勇者  作者: 柳カエデ
第四章 帝国生誕祭
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第081話 アクシデント


「……えっ! お、男? ど、どういうこと!?」

 

 カリナが俺の顔を指差してプルプルしている。

 くそ、こいつの引き寄せた枝が俺の頭に当たっちまったのが原因か?

 直接木の棒で叩かれてなくても性転換しちまうのかよ。

 慌ててドリーに助けを求める視線を送るも、『ボクには無理です』と言わんばかりにアワアワと手を振られた。

 さ、さすがにこれは誤魔化しきれねぇか……

 

「た、頼む!!

 これはここだけの秘密にしてくれっ!!」

 

 観念した俺は祈るよう両手を合わせ、あらいざらいのことをカリナに話した。

 異次元な強さの勇者に魔国領まで攻め込まれ、性別を変えることができる特殊な尻尾を食べたこと。

 手に入れた女の外見で女たらしの勇者を味方に引き込み、帝国との和平締結までこぎつけたこと。

 そして、勇者の異次元な強さの秘密を探るため、今はノブリージュ活動を行いながら機会を伺ってることまで。

 俺が話し終えると、カリナはどこか納得した様子でふむふむと頷いていた。

 

「なるほど……そういう事情があったんですね」

 

「勇者を倒すために仕方なかったんだ。

 おまえに迷惑をかけるつもりはねぇ。

 勇者を圧倒できる力さえ手に入れば、帝国を牽制しつつ魔国領に戻る予定だからな」


 自分で言っておきながら、かなり苦しい言い分だ。

 それに相手は帝国の剣聖。

 下手すりゃこの場で斬りかかられてもおかしくない。

 くそ、せっかく不毛の大地にできたこの森を焼け野原にされたら、たまったもんじゃねぇ。

 人間なんて魔王城に呼ぶべきじゃなかった。

 自分の軽率な行いを後悔しつつ、おそるおそる顔をあげるとカリナはなぜかいつもの敬礼をしていた。

 

「分かりましたお姉さま!

 誰にも口外しないと誓います!」

 

「――――へ?」

 

 予想外の返答に思わず間抜けな声が漏れる。


「な、なんで?」


「なんでって……お姉さまが秘密にしてくれって言ったんじゃないですか」


「いや、そりゃそうだけど……女に化けた魔王が帝国に潜入してるんだぞ!?

 それも勇者を倒す手がかりを掴むために!

 どう考えてもヤバいだろ」


 俺が問い詰めるとカリナは困ったように眉尻を下げた。


「そ、そういわれても……私は考えるのが苦手なので、なにが正しいかなんて分かりません。

 だけど、私はライオネット公国の騎士です!

 騎士の誇りにかけて弟子入りを認めてくれたお姉さまや兄弟子を売るようなマネはできません!」


 こ、こいつ、アホだ……!

 それもどうしようもないほどに……

 目の前で決意に満ちた表情を浮かべているカリナを見て、思わずため息をつく。

 ――だけど、素直でいいやつでもある。

 こういう奴は俺も嫌いになれねぇ。


「あ、ありがてぇ。

 まさか、受け入れてくれるとは思わなかった」


「もちろんですよ!

 お姉さまは悪い人にはみえないので!

 それに、お姉さまが勇者を倒したところで帝国の領民たちは誰も気にしないと思います。

 今は勇者廃止論が民意として囁かれてる時代ですし」


 勇者廃止論?

 なんだそれ?

 聞き慣れない言葉に首を傾げていると、空から何かが近づいてくる気配に気付く。

 顔をあげると、狐火状態のジッポウが不機嫌そうに尾を揺らしてこちらに向かって来ていた。


『やっとみつけた!

 探すの大変だったんだぞ!?

 ってか、なんで男の姿に戻ってんだよ』


「いや、ちょっとしたアクシデントってやつだ。

 一応、穏便に済んだから気にすんな。

 それより、どうしたんだよそんなに慌てて?」


 俺が聞き返すと、ジッポウは大きな口を開けて欠伸をした。


『人間の客人を迎える準備が出来たんだ。

 ルシウスから呼んでこいと指示されてな。

 ――ったく、ちょうど昼寝中だったってのに。

 それで?

 こいつが例の来客者か?』


 ぶつぶつ文句を言いながらジッポウがカリナをじろりと睨む。

 カリナが軽く会釈を返すと、ジッポウは目を細めた。


『こいつって……確か……』


「ああ、帝国の剣聖だ。

 訳あって今は俺に弟子入りしてるけどな」


『いや、そういう意味じゃ……まぁいいか。

 早く戻るぞ。

 久々に豪勢な飯にありつけるみたいだからな』


 含みのある口調でなにかを言いかけるも、結局誤魔化すようにジッポウは炎の尾を引いてすっ飛んでいった。

 ――なんだあいつ?

 言いかけていた最後の言葉が妙に気になる。

 あいつがわざわざそう言う時は、大抵ロクなことが起きねぇからな。

 今度、問い詰めておくか。

 ジッポウの姿が見えなくなるまで空を見上げたあと、俺はカリナとドリーを引き連れて魔王城に戻るのだった。

 

 

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