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第008話 魔王城


「ルーカス!! なぜ殺したのですか!?

 すでに彼に敵意はなかった。

 命まで奪う必要は無かったはずです!!」

 

「はぁ!? なに生ぬるいこと言ってんだランセル。

 ガーゴイルは魔族だぞ!?

 情報を引き出したらもう用済みだろうが。

 生かしておく意味がねえ。

 昔のおまえなら俺と同じ行動をとったはずだ」

 

 激昂するランセルに対し、ルーカスは苛立ち混じりの声で反論してきた。

 帝国から旅立って以来ずっとルーカスとは意見が合わない。

 同じ年齢だと思えないほど性格が乱暴過ぎるのだ。

 握り拳にグッと力を込め言い返そうとしたその時――

 ハクアが間に割って入ってきた。


「ちょっと!!

 身内で喧嘩してる場合じゃないでしょ!!

 ふたりとも頭を冷やして!!

 あと、ルーカスは先走って行動しすぎ。

 少しはリーダーであるランセルの意見を先に聞くべきじゃない?」


 ハクアに詰められるとルーカスは不貞腐れたようにそっぽを向く。

 またこのパターンだ。

 ルーカスと言い合いになるとハクアが仲裁に入りパーティー内の溝が深まる。

 これでは誰がリーダーなのか分からない。


「ちっ! もういい!! 俺は先に行くぞ」


 ルーカスは吐き捨てるようランセルに告げ、魔王城に向けてひとり歩きはじめた。

 その背中をじっと眺めていると不意にハクアの手が肩に置かれる。


「気にしなくてもいいわ。

 ルーカスの態度が問題なだけだから」


「いえ、私にも落ち度があります。

 言い方が悪かったのでしょう……今後は気をつけます」

 

 暗い顔で俯き吐露するランセルにハクアが心配そうな眼差しを向けてくる。

 帝国の頭脳と称されるルクソール公爵家の長女ハクア。

 傲慢な貴族が多い帝国内でも彼女は珍しく常識人だ。

 ルクソール家の家訓である『常に誠実であれ』を頑なに守っているのだろう。

 よく比較されるライオネット公爵家の長兄ルーカスとはあまりにも対照的な性格だった。


 ルーカスのあとを追うように5つ目の塔の集落を出発し、魔国領の中心部に向かうと広大な城下町が見えてくる。

 魔王軍のための町だ。

 もちろんここにも魔族の姿はない。

 新しい魔王マキナにやられてしまったのだろう。


 周囲を警戒しながら石畳みの街道を進んでいくと、白銀の柵に囲まれた魔王城がぼんやりと姿をあらわす。

 煌びやかな門の奥には枯れた庭園が広がっており、不気味な雰囲気を漂わせていた。

 そのまま、まっすぐ庭園を突き進むと巨大な鉄製の城門が目の前に立ちはだかる。

 開かれた城門には何故か可愛らしいピンクのボードが吊られていた。


『勇者一行、ウェルカム・トゥ・魔王城』


 明らかに魔王城の外観に似つかないボードだ。

 作為的に後から付けられたせいか、魔王城の不気味な雰囲気に驚くほど合っていない。

 城門の前で立ち止まり怪訝な顔で見上げていると、隣にやって来たハクアがぼそりと呟いた。


「どういう意味かしら?

 まるで私たちを歓迎するかのような書き方だけど……」


「私にも分かりません。

 新しい魔王はいったい何を考えているのか。

 こちらを欺く策略なのかもしれないですが……ひとまず警戒しつつ中に入りましょう」


 ランセルが意を決して城門をくぐると、城内の壁には蔦状の植物が張り巡らされ、青臭い香りが辺り一帯を満たしていた。

 等間隔に配置された燭台のロウソクの灯りがチラチラと揺らめき、足元に広がる大理石の床をぼんやりと照らしている。


 さらに奥へ進むと煌びやかな装飾の施された広間が見えてきた。

 広間の奥には玉座が設置され誰かが座っている。

 おそらく――あれが新しい魔王マキナ。

 両隣にはふたりの側近を侍らせていた。

 魔術師のローブを纏った銀髪の男性と民族衣装のような上衣を着たピンク髪の少女。

 ふたりともガーゴイルから聞いていた通りの容姿だ。

 そのまま玉座に向かっていくと魔王の服装がドレスなことに気付く。


「えっ……」

 

 予想外の光景に思わず間抜けな声が漏れた。

 見間違いかと思い目を細めてみるも結果は変わらない。

 新しい魔王は女性だった。

 しかも我々と同じ16、7歳くらいの年齢に見える。

 まだ顔に幼さの残る美しい顔にルビーを彷彿とさせる真っ赤な髪。

 燃えるような真紅のドレスを着こなしたその姿は帝国内でも類を見ない美女だ。


 ガーゴイルの話しを聞いて魔王は男だと思い込んでいただけに驚きを隠しきれない。

 よくよく考えてみればマキナという名前の響きから女性であってもおかしくはなかった。

 魔王マキナは腕と足を組んだ姿勢で玉座に座り、無表情でこちらをじっと見つめているのだった。

 

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