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女装魔王と男装勇者  作者: 柳カエデ
第四章 帝国生誕祭
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第074話 新たな依頼


 午後の講義。

 俺は机に肘をつき、教科書の文字を眺めながら必死に睡魔と戦っていた。

 というより、今朝のクレアとのやり取りが脳内をぐるぐる回って、正直講義どころではなかった。

 中間試験とはどんな内容なんだろうか。

 しかも赤点を取れば生誕祭に出られないというペナルティー付きだ。

 危うく計画がおじゃんになるところだったぜ。

 ってか、なんでそんな大事なことを誰も教えてくれないんだよ。

 俺は隣の席のフィオネに助けを求めるよう視線を送ると、フィオネは小さく咳払いしてから体を寄せてきた。


「――どうされましたか?」


「え、ええ……中間試験なるものが近々行われると耳にしまして。

 どんな内容なのかフィオネは知ってますか?」


「なるほど。

 スカーレット様はご存知なかったのですね」


 フィオネは少し目を丸くしたが、すぐに理解した様子で小さく頷いた。


「中間試験は上半期に習った講義全般を網羅した筆記試験です。

 範囲は広いですが、講義の要点さえ押さえておけば十分対応できますよ」


「……よ、要点?」

 

 思わず不安げに眉をひそめる。

 なんだよそれ。

 全部理解してるやつ前提の言い方じゃねえか。

 今までの講義内容なんて、俺はほとんど覚えてないってのに。

 とはいえ、よく考えてみると俺の場合はそこまで心配しなくていいのかもしれない。

 なにせ俺にはテイレシアスがいる。

 テイレシアスの知識があれば答案の半分くらいは簡単に埋められるはずだ。

 ……たぶん。


「大丈夫ですよ。

 スカーレット様の成績は最近右肩上がりですし。

 心配なら私も自習をお手伝い致します。

 ベヨネッタ様もきっと力になってくれるはずです」


 そう言って、にっこりと微笑むフィオネ。

 あのヘンテコ決闘の一件依頼、いつの間にかフィオネとベヨネッタは仲が良くなっていた。

 なんでも『俺に心を操られている』などと疑ったことをベヨネッタが正式に謝罪したって話だ。

 しかも、俺がいるため周囲の取り巻きたちも迂闊にちょっかいを出せない。

 今ではグループ内の中心的な人物になり、ベヨネッタのお茶会に招待されるほど親密な関係になっているんだとか。

 なんだかんだで、あの決闘があって良かったな。

 俺は窓の外に視線を向けながら、ふと気になっていたことをフィオネに尋ねた。


「そういえば、フィオネは帝国の剣聖をご存知ですか?

 カリナ・ライオネットという者なんですが」


「――カリナ様ですか?

 もちろん知っています。

 むしろ知らない者の方が少ないのではないかと。

 カリナ様は帝国史上最年少で剣聖の称号を授けられた方ですし」


「そ、そうですか……」


 驚くフィオネを尻目に俺の頭の中では別の感情がじわりと広がる。

 なんかおかしくないか?

 そんな帝国の誇る天才が、どうして俺を討伐する勇者のパーティーに入っていなかったのか。

 確か勇者のパーティーには俺に突っかかってきたカリナの兄、ルーカス・ライオネットが加わっていたはず。

 今朝の戦闘を思い返してみても明らかにカリナの方が剣の腕前は優れていた。

 なにか事情でもあるのだろうか。

 

 講義を終える鐘が鳴り響き、俺は疑念を抱えたまま席を立った。

 鞄をまとめ、フィオネに軽く手を振ると学院の正門へ足を運ぶ。

 今日からカリナをノブリージュ活動の部屋まで案内しないといけないからだ。

 正門前では今朝と同じ帝国騎士の官服を身にまとったカリナが背筋を伸ばして立っていた。

 涼しい風が茶髪のポニーテールをわずかに揺らしている。


「お待たせしました。

 えぇ〜っと――」


「カリナと呼んでくださいお姉さま」


 なんだよお姉さまって……調子狂うな。

 元々が男だから違和感しか感じない。


「それではカリナ。

 ノブリージュ活動の部屋まで案内するので着いてきてください」


「ありがとうございます!」


 どこか嬉しそうな表情を浮かべるカリナに歩調を合わせ首を傾げる。

 なんでこいつ嬉しそうなんだよ。

 これから補習なの分かってんのか?


「ところで、お姉さま?

 弟子入りの件ですけど、いつになったら私に身体強化魔法の手ほどきをしてくれるのでしょうか?」


 ……嬉しそうなのはこれが原因か。

 弟子入りなんて俺は認めた記憶ないんだが。

 まぁ武術の話は俺も嫌いじゃないし別にいいか。


「私はいつでもいいですけど……特に忙しいわけでもありませんし。

 ただ、私のバフィカルは一般的な身体強化魔法とは少し異なります。

 具体的に説明すると、気力を高めるのと同時に気力と魔力を混じり合わせ、体内で内功を生み出しているのです」


「…………な、内功ですか?」


「そうです。

 内功とは魔力と気力を合わせることで生み出せる第3の隠れた力。

 内功を全身の経絡に巡らせた武闘家は運動能力を飛躍的に向上させ、今朝の模擬戦のように素手で剣を受け止めることも可能になります」


「す、すごい!!

 つまり、筋力を強化できると思えばいいんですよね?」


 き、筋力?

 合ってるような違ってるような。

 まぁ一応間違ってはいないか。


「――そ、そう思って貰えればよいかと。

 ただし、誰もが内功を扱えるわけではありません。

 元々の才能にも左右されるので」


「分かりました!

 それで、その内功とやらはどうすれば習得できるのでしょうか?」


「ど、どうって言われても……」

 

 不安げなカリナの瞳が俺の顔をまっすぐ射抜いてくる。

 エミス曰く、俺は最初っから内功を身に付けてたみたいだし、どうやって習得するかなんて知らねーぞ。

 聞くとすればイレーネやルーシーくらいか。

 キョンシー族はみんな内功を扱えるから、後天的に身に付ける方法を知ってるかもしれない。

 そんなことを考えていると、ノブリージュ活動の部屋の前までたどり着いた。

 扉を開けると、金糸のようなブロンドをひとつに束ねた勇者が窓際の椅子に座って本を読んでいる。

 青と白の官服。

 いつもと同じ、空と雲を思わせる清楚な姿だ。


「勇者ランセル……」


 後ろでカリナがぼそりと呟いた。

 あからさまに嫌悪の籠もった声だ。

 まあ、無理もないか。

 例の“町娘の首を刎ねた”って噂もあるくらいだし、帝国の剣聖として見過ごせないところもあるんだろう。


「勇者殿。

 クレア先生からノブリージュ活動の新しい依頼を受けました。

 朝から学院の規則を破った罰として、この子に教養を叩き込んで欲しいと」


 俺がそう告げると、勇者は読んでいた本を閉じ、小さく微笑んだ。


「クレア先生から私も聞いています。

 なにをすればいいか色々考えていました」



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