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女装魔王と男装勇者  作者: 柳カエデ
第四章 帝国生誕祭
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第073話 帝国の剣聖


「朝っぱらから学院でドンパチしおって!

 しかも魔法まで行使するとはどういうつもりだ?」


 低く押し殺したクレアの声が響き、周囲の空気がぴしりと張り詰めた。

 鬼の形相を浮かべ、腕を組んだままこちらをギロリと睨みつけてくる。

 まさに仁王立ちだ。


「ち、違います!!」


 俺は慌てて声を張り上げ、カリナの顔面を思いっきり指さした。


「こ、この女にいきなり襲われたんです!!

 むしろ私は被害者です!」


 必死に弁明する俺にキョトンとした目を向けるカリナ。

 すると、なにかを察したのか急に頬を引きつらせ、あわあわと両手を振りはじめた。


「お、お久しぶりです、クレア先生!

 私はその、模擬戦闘のつもりでしたが……ここでは禁止されてるのでしょうか?」


「当たり前だ!!

 ここは帝都のガルディア学院だぞ?

 中等部の騎士学校と同じなわけないだろ!」


 ドスの利いた怒号が響き、カリナの肩がびくんと跳ねる。

 どうやら本気でビビったらしい。

 ていうか「お久しぶり」ってなんだよ?

 知り合いなのかこいつら?

 俺がふたりを交互に見比べていると、クレアは短いため息をつき肩を落とした。

 

「スカーレットは初対面だと思うが、この子はガンダルディア帝国の剣聖だ」


「――帝国の剣聖?」


「ああ、それも歴代一と称されるほどのな」


 淡々と告げてから鋭い目をカリナに向ける。


「……で、カリナ。

 おまえは何しにここまで来たんだ?」


 クレアが改めて問うと、カリナは観念したようにおずおずと口を開いた。


「……ル、ルーカス兄さまから興味深い話を聞いて来たんです」

 

 俺の目をちらりと見て、真剣な顔になる。

 

「ガルディア学院に在籍している魔王はとんでもない身体強化魔法を使うって。

 兄さまの大剣を指先だけで受け止めたと聞きました。

 そんな芸当、普通の身体強化魔法でできるとは思えない。

 だから、自分の目で確かめようとここまで来たんです」


 一拍置いたあと、カリナは急に顔を輝かせ羨望のまなざしを俺に向けてきた。


「――結果は本物でした!

 私の剣を指先だけで受け止め、魔法剣すら通じない。

 あんな身体強化魔法、私でもはじめて見ました。

 さすが当代の魔王です。

 スカーレット様、いえ、お姉さま!!

 私をあなたの弟子にしてください!!」


 ――は?

 途中まで「うんうん」と頷いていた俺だったが、急転直下の展開に思わず頭が固まる。

 お、俺に弟子入り? 

 なにいってんだこいつ?


「今の私には強力な身体強化魔法が必要なんです!

 クレア先生なら分かってくれるでしょ?」


 真剣な顔でぐっと前に踏み出すカリナ。

 しばしの沈黙のあと、クレアは腕を組み直し、深いため息をついた。

 

「おまえの事情は分かった。

 だが、学院の規則を破ったことを有耶無耶にするわけにはいかない。

 そうだな……よし! 決めた!

 カリナにはバツとしてスカーレットと同じ補習を受けてもらう」


「……補習?」

 

 カリナが露骨に眉をひそめるも、クレアはその反応を楽しむように口角を上げた。

 

「おまえも来年、この学院に入学する予定だろう?

 今のおまえの学力ではスカーレットと同じように赤点をとるのが目に見えてる。

 それを放っておくわけにもいかないからな」


「……勉強なんて今の私には必要ないです」

 

 カリナが視線を落とし、吐き捨てるように呟いた。

 そんなカリナの横顔を俺はちらりと見やる。

 おそらく今まで勉強とは無縁の環境で剣の才だけで突っ走ってきたんだろう。

 そう考えると俺と似たようなもんか。

 クレアはそんなカリナをしばし見つめたあと、少しだけ声を和らげた。


「そう言うな。

 カリナにとっても悪い話じゃないはずだ」


 そういって、クレアが俺に向き直る。

 

「スカーレット。

 悪いがノブリージュ活動の一環として、カリナに勉学を教えてやってほしい。

 どうやって勉強してるのか分からんが、最近のおまえの学業成績は右肩上がりだからな。

 カリナも弟子入りしたいならちょうどいいだろ?

 まさに一石二鳥ってやつだ」


 ……へ?

 今度は俺がぽかんとする番だった。

 なんで俺がこいつの教育係をやらなきゃいけないんだよ。

 そもそも俺の頭が良くなったんじゃなくて、テイレシアスに答えを聞いて誤魔化してるだけだってのに。

 そんな俺の本音を見透かしたのか、クレアは意地悪く口角を吊り上げた。

 

「ふふ、スカーレットにとってもちょうど良い機会のはずだぞ?

 もうすぐ中間試験がある。

 スカーレットも今のうちから対策を講じた方がいい」


「――――中間試験?」


 聞き覚えのない言葉に思わず声が裏返る。

 なにそれ、初耳なんですけど?

 そんな俺をみてクレアが呆れ顔を浮かべた。


「なんだ知らなかったのか?

 この学院では毎年秋に中間試験を実施する。

 ここで赤点を取ったら生誕祭にも出られないんだぞ?」



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