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女装魔王と男装勇者  作者: 柳カエデ
第四章 帝国生誕祭
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第071話 帝都のお祭り


 灼けつくような夏の陽射しが過ぎ去り、涼やかな秋の風が街中を吹き抜けるようになった。

 気がつけば帝都に来てからもう半年も経っている。

 あれこれと忙しく立ち回ってはいるものの、問題は依然として山積みのままだ。

 肝心のレベル上限を突破する方法は未だに勇者から聞き出せていないし、金貨一万枚という法外な税金に対しても対策を打ち立てられずにいた。

 このまま、ずるずる時間だけが過ぎていくのは非常にまずい。

 

 ただ、勇者の口を割らせるのも簡単なことではなかった。

 毎日ノブリージュ活動で顔を合わせてはいるが、そこからどうやって距離を縮めればいいのか見当もつかない。

 同じ部屋にいてもお互いに本を読んでるだけで、言葉らしい言葉を交わしてねぇからな。

 このままでは埒が明かない。

 いっそのこと、ジャクリットの野郎にターゲットを切り替えるしかないのだろうか。


 そんなことを考えながら、俺は魔王城の評議室へと向かった。

 重厚な扉を押し開けて中に入ると、漆黒の円卓にはすでにルシウス、リアン、そしてイレーネの3人が集まっている。

 俺が事前に声をかけておいたからだ。


「悪いな、急に呼び出して。

 今後の方針をおまえらと相談したかったんだ。

 なんだかんだで、帝都に来てからもう半年も経っちまったからな」


 俺が円卓の椅子に腰を下ろすと、ルシウスが姿勢を正して口を開いた。


「そうではないかと思い、私の方でひとつ案を準備して参りました。

 近々、帝都で生誕祭が開催されるそうです。

 その催しものを活用されるのはいかがかと」


「……生誕祭?」


 俺が眉をひそめると、ルシウスが頷く。


「はい。

 帝国暦を制定した初代皇帝の誕生にちなんだ記念日だそうです。

 年に一度の大規模な祭典らしく、民衆から貴族にいたるまで多くの者が集う祝祭だと耳にしています」


「なるほど……帝都のお祭りってわけか。

 だけど、魔王サタンが復活したってのに随分とのんきな話だな」


 俺の皮肉めいた言葉にルシウスも肩をすくめた。

 サタンの復活を報告してからというもの、帝国側の反応は驚くほど鈍い。

 むしろ、何事もなかったかのように毎日が続いている。

 おそらく、帝国の連中はこう思っているのだろう。

 どんな魔王が蘇ろうとも勇者がいれば問題ないと。

 だが、サタンもすでにレベル上限を突破している可能性がある。

 そうなれば、今の勇者ですら歯が立たない可能性だってあるはずだ。

 帝国には平和ボケしている奴しかいないのだろうか。

 そんな中、イレーネが静かに眉根を寄せた。


「……どうにも引っかかるのです。

 魔王サタンの転生という話が」


「――ん? なにか気になることでもあるのか?」


「はい。

 全身に火傷を負う程度の代償で転生ができるなんて私には信じられません。

 呪術と魔術は考え方が似ていますので。

 私の直感ですが――包帯の巻かれた火傷は“代償”ではなく、“事故”だったのではないかと思えます」


「事故……?」


「はい。

 転生ほどの奇跡を引き起こすには、通常、必要な触媒の入手や術後のケアなども含め、入念に準備を整えた上で実施します。

 それなのに、サタンは火傷を負ったあと、わざわざ樹海まで鱗粉を求めに向かった。

 本来なら転生前に用意すべきものを、後から集めに向かうなんて不自然極まりません」


 イレーネが言葉を区切ると円卓に沈黙が満ちる。

 確かに言われてみればおかしい。

 サタンほどの策士が準備を怠るとも思えない。

 にもかかわらず、後から鱗粉を取りに向かうなんて。

 つまり、全身の火傷はサタンにとっても予期せぬ事態だったってことか?

 それが、俺を殺さず生かした理由に繋がっているのかもしれない。


「……サタンが何を企んでいるのか。

 そっちの調査も並行する必要がありそうだな」


 俺の言葉にルシウスが深く頷いた。


「同感です。

 ただ、優先すべきはやはりレベル上限の突破法の確保かと。

 生誕祭では王宮主催の舞踏会が開かれ、勇者も間違いなく顔を出します。

 魔王様にもぜひ、この機会を活かしていただきたい。

 うまくいけば、あの口の堅い勇者も心を開いてくれるかもしれません」


「舞踏会ねぇ。

 だけどダンスなんて俺は一度も踊ったことねーぞ?」


「それならご安心を。

 私が全力で指導いたしますので」


 にっこりと笑うルシウスの顔に妙な自信が滲む。

 やけにやる気満々だが、こっちは不安しかない。

 だが、この機を逃せば次はいつになるかも分からない。

 あの口の固い勇者を攻略するには、そうとう思い切った作戦が必要だからな。

 やるしかねぇか。

 俺は小さくため息をつくと、椅子の背にもたれかかるのだった。

 


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