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女装魔王と男装勇者  作者: 柳カエデ
第三章 霧に紛れた病い
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第051話 勝負の中身


 角材から商品を産み出す?

 俺が首を傾げていると、クレアが講義室のボードにチョークで図を描きはじめた。

 各一辺がちょうど25センチの立方体。

 サイズ的にはそこまで大きくない。

 机に載る程度の大きさだ。


「サイズはざっとこんなところだ。

 ふたりにはこの角材から価値のある商品を産み出してもらう。

 ちなみに必ずしも自分で作る必要はないぞ。

 思いついたアイデアを元に製造は職人に任せてもいい。

 要は“価値とはなにか”を考えることが重要だからな」


 クレアが一通り説明を終えると、「どうする?」と言わんばかりに俺たちに目配せする。

 木材から価値のある製品を産み出すか。

 難しいな。

 薪にするか木炭にするくらいしか思いつかねぇ。


「なるほど……おもしろそうですね。

 私は構いませんよ。

 魔王令嬢が逃げたりしなければ。

 この内容なら私が負けるはずないもの」


 顎に手を添えたベヨネッタが嘲笑するように俺を煽ってくる。

 さっきまでスカーレットさん呼びだったのに、今じゃ当たり前のように魔王令嬢呼びだ。

 舐められたもんだぜ。

 だけど、ここで尻込みして醜態を晒すわけにもいかない。

 売られた喧嘩は買うのが俺の主義だからな。


「いえ、逃げ出すのはむしろあなたの方では?

 私も決闘内容に不服ありません。

 その自信満々の鼻をへし折ってあげます」


 俺も威勢よく啖呵を切るとクレアがニヤリと笑う。


「よし! 決まりだな。

 期限は今日から一週間。

 来週のこの場に制作した商品を持参し、それがいかに価値あるものかを説明してもらう。

 私がその場で勝敗をつけてやろう。

 本来の決闘であれば勝者は敗者に要求をひとつ呑ませることができるが、今回はそこまでしない。

 なにかと証拠不十分だからな。

 ということで、勝者は謝罪させる権利を有することにする。

 それ以上の要求は無しだ。

 よし! じゃあ、みんなはやく席につけ!

 そろそろ講義をはじめるぞ!」


 クレアの号令と共に、学生たちが慌ただしく席に戻っていく。

 ベヨネッタもフンと鼻を鳴らすと俺の前から悠然と去っていった。

 くそ。

 こいつに謝罪なんて死んでもしたくねぇ。

 だけど、いったいなにを作ればいいんだ?

 制作期間を考えると今日か明日までにはアイデアを固める必要がある。

 そんなに都合よく思いつけるのかよ。

 講義が再開されるなか、ひとりで頭を抱えていると、隣に座っていたフィオネが小声で話しかけてきた。


「ご、ごめんなさい。

 私のせいで変なことに巻き込んでしまって……」


「いえ、フィオネのせいではないですよ。

 悪いのはセリアとかいうホラ吹き女ですから。

 むしろ助け舟を出してくれたフィオネには感謝しています」


「で、でも…………」


「大丈夫です!

 こう見えても私は当代の魔王ですから。

 どんな決闘であろうと負けるつもりはありません。

 逆に私に喧嘩を売ったことを後悔させるほど、ギャフンといわせてやりますよ」


 心配そうな顔を向けるフィオネに俺は精一杯の虚勢を張る。

 そのまま終業の鐘が鳴り、俺はフィオネと共に女子寮へ戻った。

 勇者には悪いが、さすがにノブリージュ部屋に立ち寄る余裕はない。

 急いで自分の部屋に戻ってアイデアを考えねぇと。

 数撃ちゃ当たるだ。

 なるべく前向きに考えつつ自室に戻ると、鏡面状態のジッポウを通してルシウスと喋っているリアンの姿が目に映った。

 俺と目が合うと、リアンが小さく首を傾げる。


「今日は早いあるねマッキー。

 顔が暗いけどどうしたあるか?」


「ああ、ちょっと厄介ごとに巻き込まれてな」


 セリアに嵌められたことやベヨネッタとのいざこざ。

 そしてお互いの謝罪を賭けた決闘。

 学院で起きたことを説明すると、ルシウスが露骨に顔をしかめた。


「魔王様に喧嘩を売るなんて、身の程知らずの人間もいるもんですね。

 勇者さえいなければ私が半殺しにしてやりますのに」


「――まぁ、そういうなルシウス。

 むしろ俺はあいつの度胸を認めてるくらいだ。

 仲間のために強者に立ち向かう。

 そういう奴は嫌いになれねぇ。

 並の人間なら俺にビビって逃げてるからな。

 まぁ今回はその仲間がとんだ曲者だったわけだが」


「――魔王様がそうおっしゃるならまぁ。

 だけど木材から商品を産み出す、ですか。

 なかなか難しい題材ですね。

 ですが、テイレシアス殿のいる魔王様なら負けることはありません。

 いくら侯爵家のご令嬢だろうと、テイレシアス殿より優れたアイデアを思いつくはずありませんから」


「いや、今回の決闘でテイレシアスに頼るのは無しだ」


 俺がそう告げるとルシウスが愕然と口を開く。


「な、なぜですか?

 テイレシアス殿に尋ねれば数分で肩がつくのに!」


「ルシウス! これは一対一の決闘だ!

 タイマン勝負に助っ人はありえねぇ!

 魔族としてのポリシーに反する!」


「な、なるほど! さすが魔王様!!

 側近でありながら当たり前のように反則を提案してしまった自分が情けないです!」


 顔を赤らめて拳を震わせるルシウス。

 ちょっと大袈裟すぎる気もするが、まぁいつものことだ。


「ああ、たとえ勝つためとはいえ、卑怯なマネはしたくねぇ。

 これは女同士の真剣勝負でもあるからな」

 

「いやいや、真顔でなにいってるあるか?

 マッキーは男あるよ」


「――うっせぇぇっ!!

 今の俺は女としてやってんだよ!!」


 顔を赤くしながら、リアンの冷めた視線に言い返す。

 するとルシウスが咳払いを一つして、改まった口調で口を開いた。

 

「それはそうと魔王様。

 魔王城の図書室に格納されている古文書からカハクに関する手がかりを見つけました」


「…………手がかり?」

 

「はい。

 カハクは帝国内に点在している神樹様のお世話をしているようなのですが、その代価として“魔力を帯びた琥珀”を授かっているそうです。

 もしその琥珀が手に入れば神樹様とやらのもと、つまりカハクの住処までたどり着けるかもしれません」


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