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女装魔王と男装勇者  作者: 柳カエデ
第三章 霧に紛れた病い
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第050話 決闘


 一瞬にして学生たちのざわめきが消えた。

 全員がピシリと背筋を伸ばす。

 クレアはゆっくりと教壇まで進み、俺たちに鋭い視線を向けてきた。


「で? 誰が事情を説明してくれるんだ?」


「クレア先生、私から説明します」


 真っ先に口を開いたのはベヨネッタだった。


「スカーレットさんがセリアに暴力を振るったのです。

 セリアの胸ぐらを掴み、突き飛ばしたと。

 その衝撃でセリアはバランスを崩し足首を捻ってしまいました」


「ふむ……スカーレットがそんなことを?」

 

 クレアが眉をひそめ俺に目を向ける。


「事実無根です。

 私は彼女に触れてすらいません。

 そもそも、私が彼女に危害を加える理由などありませんから」


「それは、あなたがフィオネをたぶらかそうとしたのをセリアが止めようとして――」


 ベヨネッタが声を張り上げたところで、クレアが手を伸ばし制した。


「分かったから少し落ち着け!

 セリア、お前の話しを聞こう。

 こういう時は当事者の証言がなにより重要だからな」


 突然指名されたセリアは目を丸くするも、涙を浮かべたまま弱々しく頷く。


「…………裏庭でフィオネと話しているスカーレットさんの姿がたまたま見えたのです。

 隠れて耳をそばだてていると、なにやら怪しげな会話が聞こえてきて。

 フィオネを騙そうとしていると直感で感じました。

 魔王令嬢は魔法で人心を操れると耳にしていたので。

 それで私が止めようとふたりの間に割って入ったら、急に胸ぐらを掴まれて……突き飛ばされて……」


 ピンクのドレスの袖をギュッと掴み肩を震わせるセリア。

 よくもまぁ、こんなにすらすら口から出まかせが出るもんだ。

 詐欺師の血でも流れてんのかこいつ?

 俺も女の振りして学院に忍び込んでるから人のことは言えないが、こいつの演技力には感心さえ覚える。


「それで足を捻ったと?」


「は、はい……」


「ふーん」


 クレアが腕を組み、じっとセリアを見つめる。

 こんな人でもガルディア学院の学年主任だ。

 流石にセリアの主張がおかしいことくらい分かるだろ。

 そもそも、身体強化魔法しか使えない俺が人間の心など操れるわけがない。

 そんなことを考えていると、急にベヨネッタがバンッと机を叩き声を張り上げた。


「クレア先生!!

 魔王令嬢は即刻退学に処すべきです!!

 そうしなければ私たちの身にも危険が及びます!!

 これ以上、同じ講義室で勉学を共にするなんてできません!!」


 は!? なんで俺が退学に!?

 ふざけんな、意味わかんねーよ!!

 

「さ、流石に理不尽が過ぎます!!

 むしろ、あなたの方こそ私への名誉毀損で学院から出ていってください!!」


 我慢ならず俺も語気を強めてベヨネッタの顔面に指を突きつける。

 ガルディア学院に通うことは和平条件のひとつだ。

 ここで退学になどなったら、あの皇帝がなにを言い出すか分かったもんじゃない。

 お互いに睨み合い、緊張感がピークに達したその時――急にクレアがくくっと肩を揺らしはじめた。

 

「ふふ、おもしろくなってきたじゃないか!!」


 ――お、おもしろい?

 予想外の反応に思わず呆気に取られてしまう。


「なーに、意見がぶつかるのは悪いことじゃない。

 むしろ喧嘩するほど仲がいいって言葉もあるほどだ。

 対立するからこそ生まれる友情もある。

 ――よし、決めた!

 こういう時に白黒はっきりさせる方法は昔から決まっている。

 決闘だ!!」


「…………け、決闘ですか?」


 ベヨネッタが唖然とした顔で繰り返した。

 むしろ当然の反応だろう。

 どちらの主張が正しいか決闘で決めるなんて魔国領の魔族と変わんねーじゃねーか。

 人間社会は秩序の上に平和が築かれてるんじゃなかったのかよ。

 

「みんなも知ってると思うが私は帝国随一の武闘派貴族であるグラファイト家の出身だ。

 我が家では意見が対立した時、どちらの主張が正しいか決闘で決める。

 原始的な方法だが、あとくされがなくていいぞ?

 正々堂々、勝負した上で白黒つければみんなも納得するだろうしな」


 握り拳に力を込め熱弁を振るうクレアに俺の頭が痛くなる。

 ここはあんたの家じゃなくて学院だぞ?

 この教師に常識なんて期待した俺がバカだった。


「で、ですがクレア先生!

 決闘はさすがに無理があるかと。

 私が魔王令嬢に勝てるはずもありませんし」


 ベヨネッタの顔がみるみる青ざめていく。

 そりゃそうだ。

 こいつが相手なら俺はデコピンだけでも勝てる。

 流石にちょっと可哀想だぞ。


「もちろん、お互いに殴り合う決闘をしろなんて言うつもりはない。

 当代の魔王にグリニッジが勝てるはずないからな。

 かといって、学力勝負もフェアではない。

 筆記試験歴代最下位のスカーレットではグリニッジに歯が立たないだろう。

 そこでだ。

 おまえたちには商才の観点で勝負をしてもらう!」


「…………商才?」


 聞き慣れない言葉に間抜けな声が漏れた。

 商才ってなんだよ。

 俺が首を傾げるとクレアがにっこりと微笑む。

 

「そもそも、なぜこの学院が設立されたかおまえたちは分かってるか?

 領民を統治する方法を学ぶため?

 領地運営の基礎を学ぶため?

 確かにそれも貴族として大事な役割だ。

 だが、一番大事なことは他にある。

 それは、いかにして帝国に富をもたらすか、だ!」


 クレアは講義室を見渡し堂々と続ける。

 

「帝国からすれば富を産み出せる貴族がもっとも偉い。

 だからこそ商才をこの学院で磨く必要がある。

 勝負の題材に戻るが、ちょうどフォーリッジ領からヒノキの角材がふたつ届いた。

 スカーレット、グリニッジ。

 おまえたちにはこの角材から価値のある商品を生み出してもらう。

 より価値のある商品を製作できた者が今回の勝者ってわけだ」



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