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女装魔王と男装勇者  作者: 柳カエデ
第三章 霧に紛れた病い
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第042話 未知の病い


「新しい依頼?」


 あまりに唐突な話しに思わず眉をひそめる。

 しかも補習なのに喜べってどういう理屈だよ。

 俺が呆れた顔をしていると、クレアが急に表情を引き締めた。

 それまでの軽口とは打って変わり、張り詰めた口調で喋りはじめる。


「ガンダルディアは知ってるかもしれんが、ミストラル公国のフォーリッジ領で未知の病いが流行っている。

 帝国の医師団が懸命に調査にあたっているが、今のところ分かっているのは人から人に感染しないことだけだ。

 おそらく、土地固有の何かが原因なのだろう。

 だが、厄介なことに隣にいるフォーリッジの母親もその病いを患ってしまってな。

 学院の図書室に籠って文献を読み漁っていた彼女をたまたま私が見つけてここに連れてきたというわけだ」


 原因不明の病いねぇ。

 となると、フィオネがグループからハブられた理由はこれか。

 おそらく、病気が移るなんて根も葉もない噂を誰かが流したんだろう。

 だけど今回ばかりは俺にもどうにもできねぇぞ。

 呻きの洋館の時は犯人をとっ捕まえるだけで良かったが今回は医学の知識が求められる。

 医者でも学者でもねぇ俺に病いのことなんて分かるはずねぇからな。

 そんなことを考えていると、クレアの口元がふっと緩んだ。

 

「なーに、私もなにからなにまで君たちが解決できると思っていないさ。

 今回の依頼は前回と違って専門性が求められるからな。

 ただ、フォーリッジだけであれこれ調べ回るより、3人で知恵を絞った方がなにかと捗るだろ?

 それに当代の魔王であるスカーレットなら魔族の視点から分かることもあるかもしれない。

 ちなみに病気の原因を解明した者には帝国から金貨1000枚もの報酬が支払われるそうだ」


 き、金貨1000枚だと!?

 あまりに桁違いの報酬に思わずのけぞりそうになる。

 俺が無理でもテイレシアスならあるいは。

 原因の解明まではいかずとも、足掛かりくらいなら掴めるかもしれない。

 ってことは、俺が報酬をかすめ取れる可能性もゼロじゃねぇわけか。

 俺がやる気を取り戻していると、クレアが見透かしたようにニヤリと笑った。

 

「ふふ、スカーレットの反応をみるに快く引き受けてもらえそうだな。

 病いの詳細はフォーリッジに聞いてくれ。

 症状や発症時期、関連のありそうな病例まで詳しく教えてくれるはずだ。

 それじゃあ、あとのことは任せたぞ。

 私も学院の残務に追われてなにかと忙しいのでな」


 そう言い残すと、クレアは俺の肩をポンと叩き部屋から出て行ってしまった。

 急に部屋に取り残され、俺と勇者が手持ち無沙汰に顔を見合わせていると、フィオネが一歩前に出て深々と頭を下げた。


「ご、ごめんなさい。

 急に私の問題に巻き込んでしまって……」


「いえ、そんなに畏まらなくても大丈夫ですよ。

 補習代わりにノブリージュ活動をやらされてるだけですから。

 まぁ勇者殿はなし崩し的に巻き込まれたようなものですけど」


 俺がなだめるようにフォローすると、フィオネがおずおずと尋ねてくる。

 

「ノ、ノブリージュ活動ですか?

 ごめんなさい。

 それはどういった活動なのでしょうか?

 あまり聞き馴染みがなくて……」


「……………どうって、え〜っと、あれ?

 なにを目的にした活動でしたっけ?」


 口ごもる俺に代わって、勇者が静かに口を開いた。


「高い社会的地位や優れた能力を持つ者はその力を社会に還元する義務を伴います。

 この奉仕精神をノブレス・オブリージュといい、ガルディア学院では補習という活動を通してこの考えを学ぶそうです。

 ノブレス・オブリージュ活動。

 略してノブリージュ活動というわけです」


 こいつすげぇな。

 なんでこんなわけわからん活動の内容を一字一句覚えてんだよ。

 俺なんてほぼ忘れかけてたのに。

 勇者の記憶力に唖然としていると、今度はフィオネの方が目を輝かせはじめた。


「な、なんだか楽しそうな活動ですね!」


 いや、この子はこの子でどうしてそんな感想がでる!

 ちょっと感性が変わってる子なのか?

 それとも俺がおかしいだけなのか……


「ふふ、そうですね。

 想像していたよりもやりがいはあります。

 さっそくですがフォーリッジ領で流行っている病いについて私たちに教えて頂けますか?」


 勇者が穏やかに切り出すとフィオネの表情がさっと曇る。

 先ほどまでの輝きは消え、陰りを帯びたまなざしで、ぽつぽつ語りはじめた。


「……お父様の話では、だいたい2、3ヶ月ほど前から発症する者が現れたと聞いています。

 症状は軽いもので頭痛や発熱、吐き気、嘔吐。

 重度になると平衡感覚を失い歩けなくなったり、幻覚に悩まされるそうです」


 2、3ヶ月前ってことは俺が魔王サタンに下剋上を果たしたあたりか。

 症状だけ聞くと、アメーバ系の魔物に寄生された事例によく似ている。

 だけど、アメーバなんて人間の領にいるわけないし……奴らは水質の悪い土壌を好むからな。

 それこそ魔王城近辺に広がる汚ねぇ沼地みたいな。

 俺が魔族の視点から原因を考察していると、フィオネが何かを決意したように顔を上げた。


「――私が説明するより症状を見てもらった方が早いかもしれません。

 これから帝都で療養しているお母様の元にお見舞いに行くのですが、ランセル様とスカーレット様も、私とご一緒して頂けませんか?」




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