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女装魔王と男装勇者  作者: 柳カエデ
第三章 霧に紛れた病い
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第041話 新たな依頼者


 学院の昼休み。

 俺はいつもの裏庭であぐらをかき、味気ないパンを頬張っていた。

 木々の隙間から差し込む暖かい日差しが心地よい。

 誰にも邪魔されず、ひとりで考えごとをするには、もってこいの場所だ。

 ときおり鳴り響く小鳥のさえずりを耳にしていると、自然と勇者とジャクリットのふたりに考えが向かった。

 

 仮に勇者が口を割らなかった場合、ジャクリットの方に矛先を向けることになる。

 だけど、どうやって奴から情報を引き出すべきか。

 少なくともジャクリットは俺のことなど微塵も覚えていないはずだ。

 なにせ、あの男は部下の魔族をすべて番号で管理するほど他人に興味を示さない。

 冷酷無慈悲にして魔王軍随一の知将。

 例え味方であろうと役に立たなければ平気で切り捨てる。

 そんな奴だ。すると


 ――ガサ、ガサッ


 不意に木の葉を踏む、かすかな音が聞こえてきた。

 誰かが近づいてくる足音だ。

 慌ててあぐらを解き、令嬢らしい座り方に戻す。

 誰だよ、お昼時だってのに。

 こんな場所に来るなんて庭師くらいなもんだが。

 眉をひそめ様子を伺っていると、木影から学生の令嬢がひょっこり姿を現した。

 ウェーブのかかった艶のある茶髪にヒマワリを彷彿とさせる黄色のドレス。

 腕には蓋付きのバスケットをかかげ、いかにもピクニックに来ましたといわんばかりの姿だ。

 俺と目が合うと、なぜか頬を赤らめ無言で立ち去っていく。


 なんなんだよいったい。

 確かあの子って――最近、令嬢グループから距離を置かれはじめた女の子だよな?

 名前はフィオネ・フォーリッジだったっけ?

 学院での人間観察が日課になっていた俺は令嬢グループのカーストがだいたい分かるようになっていた。

 基本的にどのグループも伯爵家以上の令嬢がトップに立ち、そいつの後ろを下位の令嬢が金魚のフンみたいについてまわる。

 

 おおかたグループ内で昼食をとるのが気まずくなり、ひとりで過ごせる場所でも探していたんだろう。

 なにがあったのか知らんが今まで懇意にしてた身内を切り捨てるなんて、ジャクリットみたいな奴もいるんだな。

 まぁ、こんなとこで安物のパンを口にしてる俺がぼやく話しでもないが。

 残ったパンくずを口に放り込むと、重い腰を上げ午後の講義室に向かう。


 午後の講義中もフィオネはひとりだけグループから離れて席に座っていた。

 どの令嬢もグループ単位でまとまっているためひと目で分かる。

 それに、フィオネの属していたグループが同学年で最大カーストだったのも目立つ要因のひとつだ。

 そのグループのボスがベヨネッタ・グリニッジ。

 帝国でも名の知れた侯爵家の娘らしい。

 朱色の髪が目立つ気の強そうな見た目の令嬢だ。

 

 それにしても、フィオネはグループでなにをやらかしたんだろうか。

 急に誰かに嫌われるような子ではなさそうだが。

 どちらにせよ見ていて気持ちのいいものではない。

 ベヨネッタの取り巻きたちがヒソヒソ囁きながらフィオネを一瞥しているのを眺めていると、講義の終わりを告げる終礼が鳴り響いた。

 

 学生たちがガヤガヤ騒ぎながら講義室から出ていく。

 俺も急いでレポートを片付けると、いつものようにノブリージュ活動の部屋に向かった。

 呻きの洋館の依頼を解決したあとも、俺は勇者の要望通り、毎日あの部屋に通っていた。

 とはいっても、なにか活動をするわけではない。

 これといった新しい依頼がないからだ。

 そのため、俺も勇者もあの部屋で静かに読書をすることが毎日の日課になっていた。


 俺が部屋の中に入ると、いつもの場所に座っていた勇者がニコリと微笑んでくる。

 俺も無言で微笑み返すと、向かいの椅子に腰を下ろして読みかけの本を開いた。

 不思議なことにお互いに無言でも気まずくない。

 慣れというのは怖いものだ。

 武術の指南書以外の本を読むなんて昔の俺では考えられなかったのに。

 すると


 ――コンコンコン


 誰かがドアをノックする音が響いた。

 誰だよこんなとこに。

 俺が顔を上げると、勇者がそっと本を閉じ、ドアに向かってどうぞと声をかける。

 ガチャリと音を立てて入ってきたのはクレアだった。

 その後ろに、ちらりと顔を覗かせる小柄な影――フィオネ・フォーリッジだ。

 俺と目が合うとなぜか頬を朱に染めた。


「お久しぶりですクレア先生。

 今日はどうされましたか?」


 勇者が先に声をかけると、クレアは軽く髪をかきあげ喜々とした表情を浮かべる。


「ちゃんと揃ってるじゃないか!!

 てっきり誰もいないと思っていたぞ。

 うむ、感心感心!」


 いや、あんたが毎日来いって言ったんでしょ!

 ずっとサボってると思われてたのかよ。

 俺がジト目を向けていると、クレアは後ろで縮こまっていたフィオネの背中を軽く押し、部屋の中心に立たせた。

 

「ふふ、喜べふたりとも!

 久しぶりに新しい依頼を持ってきてやったぞ!」



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