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女装魔王と男装勇者  作者: 柳カエデ
第二章 呻きの洋館
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第026話 ノブリージュ活動


 ここって……昨日俺が連れて来られた場所だよな。

 勇者に部屋まで案内された俺はドアをじっとみつめ昨日のことを思い出す。

 なんでまたこの部屋なんだ?

 説教の時はこの部屋だと決まっているんだろうか。

 首を傾げていると勇者がドアをノックし中に入ったため俺もあとに続く。

 部屋の中ではクレアが椅子に座って本を読んでいた。

 いつもと同じ白いカッターシャツ姿だ。

 俺たちに気付いたクレアはニヤリと口角を上げ、どこか良からぬことを考えていそうな笑みを浮かべる。


「ふふ、問題児たちが揃ったみたいだな」


「問題児って……これまで真面目に講義を受けてきたつもりでしたが、何か目につくことしましたっけ?」

 

「ふふ、昨日私を突き飛ばした奴が言うセリフとは思えんな。

 なんで昨日は突然逃げ出したんだ?

 まずは弁明を聞いてやろうじゃないか」


「…………いえ、昨日はその……やむにやまない事情というか、この場では言えない事情がありまして」


「やむにやまない事情ねぇ……まぁよい。

 おおかた小便でも我慢してたのだろ。

 恥ずかしがらず素直に打ち明ければいいものを」


 クレアは呆れた顔で手にした本を閉じると近くの椅子に座るよう促してきた。

 くそ、小便とか勇者の前で口にするなよな。

 あんたと俺は女同士でも勇者は男だってのに。

 まぁ俺は男だから別に気にしないけどよ。

 

「話しが逸れてしまったが、私は君を責めるためにここへ呼んだわけじゃない。

 ただ筆記試験の補習について説明したかっただけだ。

 スカーレット。

 君の補習だがとある活動をして貰うことに決めた。

 このガルディア学院で伝統のあるノブリージュ活動だ」


「…………ノブリージュ活動?」


 聞きなれない言葉に思わず間抜けな声が漏れてしまう。

 

「そうだ、高い社会的地位や優れた能力を持つ者はその力を社会に還元する義務を伴う。

 この考えをノブレス・オブリージュと呼ぶ。

 スカーレットにはこの素晴らしい精神を補習を通して学んで貰おうと思ってな。

 ノブレス・オブリージュ活動。

 略してノブリージュ活動というわけだ」


 クレアがドヤ顔で主旨を説明するも俺の頭がついていかない。

 そもそもこれって筆記試験の補習のはずだろ?

 なんでそんな活動をする必要があるんだよ。

 ノブリージュ活動とか訳分らん造語作りやがって。


「え~っと、筆記試験の補習との関係性が見えないのですが……私の気のせいでしょうか?

 てっきり再試験に備えてクレア先生から試験の解き方を教わるものだと思っていたのですが」


「…………まぁ、そういうな。

 どうせなら何時間も机に拘束されて勉強するより都民の役に立つ活動の方がいいだろ?

 補習という名の一種のクラブ活動だと思ってくれ。

 正直、私もそっちの方が楽だからな」


 おい! 最後の一言に本音が紛れ込んでるぞ!

 ただ単に俺の補習に付き合うのが面倒くさいだけじゃねーか!


「あとは……そうだなぁ。

 活動拠点としてこの部屋を自由に使ってくれ。

 良さげな依頼が舞い込めばすぐに君たちに通達する。

 講義が終わったあとは毎日欠かさずこの部屋まで通うように。

 補習の内容は以上だ。なにか質問はあるか?」


 腕を組み俺と勇者を交互に見つめるクレア。

 拒否権など一切受け付けない雰囲気だ。

 すると今までずっと黙っていた勇者がここにきてはじめて口を開いた。


「…………あの、すみません。

 もしかしてその活動に私も含まれてませんか?

 私の筆記試験は問題なかったはずですが……」


「ん? もちろん含まれてるぞ。

 スカーレットひとりだけに活動させるなんて流石に可哀そうだと思わんか?

 補習とは関係なく人助けだと思って参加してほしい」


 クレアの無茶苦茶な申し出に勇者がポカンと口を開く。

 いや、そんな訳分からん活動に巻き込まれる勇者の方がもっと可哀そうだろ。

 

「ちなみに私も学生だった頃、定期テストの補習で同じような活動をさせられてな。

 その時の教員が今は亡きレベッカ様だったんだ」


「レ、レベッカ様!?

 それはライラ第一皇女の母上でしょうか?」


「ああ、そうだ。

 レベッカ様はガルディア学院の教員を務めていた時期があってな。

 私も筆記試験が苦手だったからよく補習の代わりにこの活動をさせられたものだ」

 

「…………レベッカ様が学院の教員を?

 は、はじめて聞きました。

 当時のレベッカ様はどのようなお方だったのでしょうか?」


「なんだ、やけに食いついてくるな。

 そんなにライラ第一皇女の母親が気になるのか?」


 なかば興奮気味に尋ねる勇者にクレアはニヤリとほくそ笑んだ。

 どこか探りを入れる目つきである。

 すると先ほどまで嬉々とした表情を浮かべていた勇者が急にしおらしくなった。

  

「…………いえ、そういうわけでは。

 単にライラは私の妹でしたので少々母上のことが気になっただけです」


 普段の口調でそう呟くとそっぽを向く勇者。

 なんだあの勇者の変わりよう。

 それに先ほど一瞬だけ見せた嬉しそうな笑顔。

 普段の勇者じゃ絶対に見せない表情だ。

 俺がそう思うのにも理由がある。

 学院内では愛想良く振る舞う勇者だったが心の奥底では笑っていないことに俺は気付いていた。

 どこか無理して作っているあの笑顔。

 それは俺自身が朗らかな笑顔を作る訓練をしていただけによく分かる。

 

 てっきり狂人ぶりを隠すために身に付けた表情なのだと考えていたが、実は別の理由でもあるのか?

 ライラの母親となにか関係があるのかもしれない。

 勇者の様子を横目でチラチラ観察しているとクレアが気まずい沈黙を切り裂くよう口を開いた。

 

「よし!

 ではさっそくだが最初の活動の依頼を説明しよう。

 君たちには帝都にある呻きの洋館の謎を調査して貰いたい」

 

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