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女装魔王と男装勇者  作者: 柳カエデ
第二章 呻きの洋館
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第023話 筆記試験


 俺が自己紹介を済ませると急に周囲が騒がしくなった。

 どうやらここにいる全員が俺のことを知ってるわけではなかったようだ。


「なるほど……どうりで。

 ちなみに先ほど披露してもらった武術だが、私には甲冑を軽く小突いただけに見えた。

 それなのになぜあれほどまでの衝撃が生まれたのだ?

 できれば原理を教えてもらえないか?」


 ついさっきまで目を丸くしていたクレアが興味津々な口調で尋ねてくる。

 原理って言われてもなぁ。

 どう答えればいいんだ?


「少々説明が難しいのですが、先ほどお見せした武術は発勁といいます」


「――発勁?」


「はい。

 発勁とは全身運動により衝撃を伝達させる技法です。

 力は骨より発し、勁は筋より発する。

 つまり地面からの力を反作用的に足・腰・肩・腕に伝達させ末端である拳にて爆発させています」

 

 ちなみに先ほど見せた発勁は寸勁と呼ばれるものだ。

 一寸ほどのわずかな隙間で拳を加速させ衝撃を伝える技術である。

 さらに俺は内功を体内に巡らせ威力を何十倍にも増幅させているため、衝撃を受けた相手はただでは済まない。

 結果として甲冑は壁にめり込む形で突き飛ばされたわけだ。


「なるほど……そんな武術の技法があったとは。

 魔国領には素晴らしい徒手武術があるのだな」


 満更でもない顔でそう呟くとクレアは手にしたボードになにかを書き込んだ。

 おそらく実技試験の結果でも書き込んでるんだろう。


「ありがとうございます。

 それでは私はこれで」


 これ以上の厄介ごとを避けるため、ドレスの裾を軽くつまみ上げ会釈すると、急いでその場から離れる。

 ひとまず実技試験はうまくいったようだ。

 あの様子から見て俺の高評価は間違いない。

 初日から幸先のいいスタートだぜ。

 心の中でほくそ笑みながら次の試験会場へと足を運ぶ。

 その途中、またあの令嬢トリオの姿が目に入った。

 いつものヒソヒソ声でなにやら囁き合っている。


「とんでもない怪力女ですわ……

 貴族の令嬢が暴力を振るうなど言語両断ですのに」

「こ、声が大きいですわよ! また睨まれますわ!

 立場は向こうが上なことお忘れでして?」

「確かスカーレット家ですわよね?

 どうして辺境伯の爵位を魔国領の魔王などに……」


 誰が怪力女だあいつら。

 暴力と武術を一緒くたにするなっての!

 ちなみにスカーレットという家名は皇帝が俺に授けたものだ。

 爵位持ちの領主である以上、家名がなくては不便だという理由で授けられた。

 そのため今ではマキナ・スカーレットという名前で帝都暮らしをしている。

 なんでも辺境伯ってのはかなり階級の高い爵位らしい。


 だけど問題はここからだ。

 次の一般教養を問う筆記試験ってのが気になる。

 勉強とは無縁だった俺にも分かる内容なのだろうか。

 一抹の不安を抱きつつ学院内に入ると、長机の並べられた広間に案内された。

 机には数枚の試験用紙と万年筆が等間隔に配置されている。

 あそこに座って待ってばいいのか?

 他の学生にならい椅子に座って待っていると会場にクレアが入ってきた。


「さて、実技試験の次は筆記試験だ。

 試験内容だが君たちの基礎的な教養を問う問題になっている。

 ちなみに平均点の半分以下をとった者は補習を受けてもらうぞ」


 壇上から学生を見渡しニヤリと笑うクレア。

 補習という単語に思わず生唾を飲みこむ。

 筆記試験に補習があるなんて俺は誰からも聞いてないんだが。

 大丈夫なのかこれ?

 

「ふふ、心配しなくてもいい。

 この学院が設立されてからそんな点数をとった者はいないからな。

 それでは現時刻をもって筆記試験を開始する!」


 クレアの号令と共に一斉に紙を捲る音が部屋に響いた。

 周囲の空気に圧倒されるも、ゆっくり試験用紙を捲り、最初の設問に目を通す。


『商人のリカルドは銀貨10枚が原価である商品に40%の利益を見込んで定価をつけた。

 だが、思ったより売れなかったので定価の20%引きの価格に変えた。

 この商品の利益はいくらになったか求めよ』


 なんだよこれ?

 原価とか定価とか何言ってんのか全然分かんねぇよ。

 俺は簡単な足し算くらいしか出来ないってのに。

 冷や汗をかきながら、とりあえず適当な数字を書き込んでおく。

 落ち着け! とりあえず次だ次!


『馬車の荷台に商品を乗せた商人のアレックスは時速5キロメートルで家を出発した。

 その30分後、弟のマジットは時速10キロメートルで走り兄を追いかけた。

 マジットは何分後に兄に追いつくか求めよ』


 だめだ……さっぱり分からん!

 そもそもなんで一緒に出発しねぇんだよこいつら?

 兄弟のくせにややこしいことしやがって!

 頭を抱えながらこの設問にも当てずっぽうな数字を書き込む。

 そのあとも同じような設問がずらりと続いた。

 税金の計算問題や確率に関する問題、地域別の人口割合を算出させる問題まで。

 解ける設問がひとつもなく徐々に頭が痛くなる。

 そのまま制限時間となり、呆然と天井を見上げる俺の前から無情にも試験用紙が回収されるのだった。

 

 

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