第002話 オペレーション・クロスドレッシング
魔王城には100を超える部屋がある。
客室に談話室、大規模なダイニングルームに数万冊の蔵書を誇る図書室まで。
先代魔王サタンに仕える魔王軍が万を超えていたからだろう。
その魔王サタン軍を俺とルシウス、リアンの3人で鎮圧したのがちょうど一週間前。
いわゆる下克上ってやつだ。
そのため今はほとんどの部屋が使われていない。
とある部屋の前で立ち止まった俺はドアに掛けられたピンク色のネームボードをジト目で眺める。
『リアンの部屋。勝手に入るなアホ共』
変なボード付けやがって。
な〜にがアホ共だ。
少なくともお前にだけは言われたくないっての。
ルシウスがドアをノックし中に入ったため、俺もあとに続き部屋へ入る。
「なんだよこれ……」
部屋に入った瞬間、思わず声が漏れた。
部屋中の壁という壁に大小様々なポスターが貼られていたからだ。
ただのポスターであればここまで驚かなかっただろう。
問題はポスターに描かれている絵だ。
どのポスターにも屈強なサイクロプスたちの抱擁シーンが描かれている。
しかも皆一様に恍惚とした表情を浮かべているのだ。
ひとつ目の巨人が野太い腕で絡み合っている姿に四方を囲まれ思考が追いつかない。
愕然と立ち尽くしていると椅子に座って本を読んでいるリアンと目が合った。
セミロングのピンクの髪に魔族特有の赤い瞳。
丈の長い真紅の上衣と長ズボンを組み合わせた姿のリアンがキョトンとした顔を向けてくる。
「お〜誰かと思えばマッキーとルシウスあるか」
「俺たち3人以外に誰がいるんだよ。
それより、なんだよこの大量のポスターは!?」
「ん? 見て分からないあるか?
サイクロプスのポスターあるよ」
「いや、それくらい見りゃ分かる!
俺が言いたいのはなんでサイクロプス同士で抱き合ってるポスターが至る所に貼ってあるんだってこと!」
若干顔を赤らめつつ俺が早口でまくしたてるとリアンはパタンと本を閉じ深いため息をついた。
「マッキー、サイクロプスは雌雄同体あるよ。
互いの力を認め合ったオス同士が徐々に惹かれあい片方の性別がある日メスへと転換する。
受けも攻めもこなす素晴らしい種族あるね。
そんなことも知らなかったあるか?」
やれやれとリアンは首を左右に振るとバカにしたような眼差しを俺に向けてきた。
くそ、一般常識みたいな口調で言いやがって。
こちとらサイクロプスの生態に興味なんて微塵もねえっての。
他人の趣味趣向にとやかく言いたきゃないが、せめて人目に触れない場所に隠しとけよな。
「まぁいいや、それで?
これから向かってくる対勇者用の秘策ってのはなんなんだ?」
「いい質問あるね。
この作戦の成否はマッキーの手腕に掛かってるあるよ。
名付けてオペレーション・クロスドレッシングある!」
ドヤ顔で作戦名を明かしたリアンに俺の頭が混乱する。
「クロスドレッシング?
サラダのドレッシングでも交換するのか?」
「全然違うある!!
はぁ〜これだから全身筋肉お化けは……
マッキーは脳みそまで筋肉で出来てるあるか?」
「誰が筋肉お化けだ!!」
「魔王様、ここからは私が説明します。
まずクロスドレッシングとは異性の衣服を身につけることです。
主に男装や女装をする時に使います」
異性の衣服を身につける? どういうことだ?
それが対勇者に向けた秘策となんの関係がある。
意味が分からず眉をひそめているとリアンがニヤニヤしながら横槍を入れてきた。
「要するにマッキーが女装して勇者に色仕掛けするってことあるよ。
まさか魔王が女装してるなんて勇者パーティーは思いもしないはずあるね。
我ながら素晴らしいアイデアある」