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女装魔王と男装勇者  作者: 柳カエデ
第一章 魔王と勇者
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第018話 謁見の間


 勇者からの伝文を受け取った俺はハクアに案内されながら北区の城下町を歩いていた。

 だけど、コルキスってのはどんな奴なんだ?

 顔も知らないだけに少しずつ気になりはじめる。

 ジッポウから聞いた話しでは選民思想を拗らせたヤバい奴らしいが、そんな奴が俺たちと和平を締結する気などあるんだろうか。


 そんなことをぼんやり考えていると、ふと周囲の住民から注がれる無数の視線に気付いた。

 俺が魔族だからだと思っていたが、どうにも様子がおかしい。

 明らかに敵意の込められた視線ではないからだ。

 むしろ、どこか好意的ですらある。

 怪訝に思い周囲を見渡すと、人間の男だけが俺の顔を目で追っていることに気付いた。


 うげぇぇ……!

 まさかこいつら、俺の顔に見惚れてやがんのか?

 くそ、まじで勘弁してくれよ。

 男の熱い視線なんか、これっぽっちも嬉しくねぇってのに。

 気付いてしまったことに後悔しつつ、すれ違う男どもの視線を必死にやり過ごしていると、帝都の象徴であるガルディア城の門が姿を現した。

 城門の前には勇者の姿が見える。


「案内ありがとうございますハクア。

 それではマキナ殿。

 コルキス皇帝陛下の元に向かいましょう。

 謁見の間までは私が案内します」


 城門の前で合流するや否や俺たちにそう告げる勇者。

 ここでハクアとは一旦お別れらしい。


「うまくいくといいわね。

 あとでどうなったか教えてちょうだい」

 

 鼓舞するようハクアに背中を押された俺は、勇者と共にガルディア城の中へ足を運んだ。

 城内に入って、まず目に飛び込んできたのがどでかいエントランスホールだ。

 天井には眩い光を放つシャンデリアがいくつも吊り下げられ、床一面に敷かれた暗褐色の絨毯が雄大な内観を演出している。

 ホールの中央には重厚感溢れる手すりの付いた階段が広がり、白い城壁に沿うよう上へ上へと続いていた。

 すげぇな……どんだけ金と労力かけてんだよ。

 薄汚ない魔王城のエントランスホールとは雲泥の差だ。


「ガルディア城はどうですか?」


 周囲をキョロキョロ見渡しながら階段を上っていると勇者が俺に尋ねてきた。


「とても華やかな内観ですね。

 蔦の張り巡らされた魔王城とは大違いです」


「それは良かったです。

 1000年以上前に初代皇帝が建造した歴史あるお城なんですよ」


 自虐気味に答えると、勇者の微笑みが向けられついドキリとしてしまう。

 くそ……まじでなんなんだよ。

 さっきまで男の視線に吐き気を催してたのに、こいつだけは大丈夫なんだよな。

 顔が女みたいな(つら)してるからか?

 視線をそらしてやり過ごそうとした矢先、ふと昨夜の作戦が頭をよぎった。

 ルシウスから提言された上目遣い。

 今がそれを試す絶好のチャンスなのでは?

 皇帝と謁見する前に勇者の気を引く最後のチャンスでもある。

 ただ、上目遣いの経験などもちろん俺にはない。

 こんなことなら昨晩、鏡の前で練習しておくんだったぜ……!


「どうしました?」


 急に黙り込んだ俺に勇者が不思議そうな顔を向けてくる。

 いや、もう迷っている場合じゃない。

 今やらなきゃ、もう後はないんだ。

 ――大丈夫。

 リアンも言ってたが、今の俺の顔面なら多少ヘタな上目遣いでも充分通用するはず!

 覚悟を決めた俺は目元に力を込めると、勇者を下から見上げるよう覗き込んだ。

 渾身の“上目遣い”ってやつだ。

 

 すると目が合った瞬間――なぜか石像のように硬直する勇者。

 まるで時間が止まったかのように俺と顔を見合わせたまま微動だにしない。

 わけが分からず困惑していると、勇者はなぜか悲しげな表情を浮かべはじめた。


 いや、ちょっと待て……!

 どういう反応だよこれ?

 ルシウスから聞いてた話しと全然違うんだが。

 くそ、ルシウスの野郎……俺にハッタリかましやがったな!?

 な~にがギャップ受けだ、あんちくしょう!! 


「…………突然どうされましたか?」


「いえ! ちょっと目にゴミが!!

 い、今のは気になさらないでください!!」


 慌てて勇者から視線を外し、手櫛で髪を整えるフリをする。

 横目で勇者の顔色を伺うも、俺に魅了されている様子は微塵もない。

 むしろ苦悶の表情さえ浮かべている。

 まじかよ。

 俺の上目遣いってそこまでドン引きされるほど酷いのか?

 それはそれで、ちょっと凹むぞ……

 なんとも言えない沈黙の中、ようやく階段を上り終えると、延々と続く長い廊下の先にひとつの重厚な扉が見えてきた。

 その前で勇者が立ち止まり、静かに告げる。


「着きました。ここが謁見の間です」


 促されるまま扉をくぐると、中には暗褐色の長い絨毯が敷かれ、その両脇にローブ姿の魔導師や甲冑に身を包んだ騎士たちが立ち並んでいた。

 万が一に備え、俺を拘束する準備は万全のようだ。

 そして、絨毯の先――黄金に輝く玉座にコルキス皇帝と思しき金髪の男が肩肘をついて鎮座していた。

 

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