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女装魔王と男装勇者  作者: 柳カエデ
第一章 魔王と勇者
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第017話 ハクアの語る勇者


「まだ私が魔王サタン軍に居た頃、他の魔族経由で知りました。

 勇者の女癖や素行が良くないといった噂です。

 極めつけは帝都に暮らす町娘の首を刎ね、辻斬りランセルと呼ばれていることまで。

 ただ、どれも勇者の印象とはかけ離れているので私も戸惑っているのです。

 なにが真実でなにが虚偽なのか。

 ハクア様にも一度尋ねてみたくて」

 

 それっぽいことを適当に捻り出し、ハクアの顔をまっすぐ見据える。

 別に変なことは言ってないはずだ。

 咄嗟に作った言い訳にしては良くできている。

 しばしの沈黙のあと、ハクアは短いため息をつき口を開いた。


「――なるほどねぇ。

 まさか魔国領にまでランセルの噂が広まってるなんて。

 私が隠したところで領民に聞けば分かるから教えるけど、まずランセルが町娘の首を刎ねたのは事実よ。

 あの時は帝都でも大騒ぎになったわ。

 私もお父様から『第一皇子は何をしでかすか分からんから絶対に近づくな』とよく言われたくらいだし。

 魔王討伐に向けて帝都を旅立ってからも、ちらほら女好きの片鱗は見せてたわね。

 旅の途中で宿屋に泊まる際もルーカスと同じ部屋じゃなくて、私と同じ部屋に泊まろうとするのよあいつ。

 嫌がる素振りを見せると悲しい表情を浮かべるから仕方なく了承してたんだけど。

 結局、夜になっても私に手を出してくることは一度も無かったわ。

 同じ部屋に泊まろうとする癖に私を襲う度胸はなかったみたい」

 

 物思いにふけりながら淡々と話すハクア。

 最後の部分に関しては単にハクアの姉御に色気がなかっただけでは? とは口が裂けても言えない。

 ただ、ここまではジッポウの情報と概ね一致する。

 まじで勇者の本性がクズ野郎だったってことかよ。

 俺の人を見る目もいつの間にか曇っちまったみたいだ。


「――そうですか。

 いまだに信じられませんが、ハクア様が仰るのであれば事実なのでしょう」


「そうね。

 私も旅立つ前に聞いてた情報とランセルの印象が掛け離れてたから最初は戸惑ったわ。

 心変わりしたにしては人格が変わり過ぎているもの。

 巷の噂ではコルキス皇帝陛下にひどく咎められたのと、懇意にしていたライラ様の逝去が関係しているみたいだけど」


「…………ライラ様?

 え~っと、それはどなたでしょうか?」


「ライラ様はランセルの異母妹に当たるコルキス皇帝陛下の婚外子よ。

 私も直接お会いしたことはないわ。

 ただ、ランセルの容姿によく似ていたみたい。

 だけど今から数年前、帝都の離宮で暮らしていたライラ様は魔族の襲撃にあい命を落とした。

 それ以来、ランセルは魔族に復讐するため再び剣の稽古に取り組むようになったと聞くけど……」


 どういうことだ?

 ハクアが教えてくれた情報に俺の頭が混乱する。

 ガンダルティア帝国の婚外子を襲う計画などサタン軍に居た頃の俺は聞いていない。

 下位層の魔族には通達されていない極秘任務だったのだろうか。

 ただ、ハクアの姉御の口ぶりでは襲撃は成功したように聞こえる。

 仮に極秘任務だったとしても作戦が成功した暁には全ての魔族に共有されるはず。

 どうにも何かがおかしい。


「その襲撃した魔族ですが、どのような容姿を——」

 

 俺が襲撃した魔族について探りを入れようとしたその時――

 突如、一羽の鳩がバサッと音を立てながら部屋の中に飛び込んできた。

 全身が白い羽毛に覆われた美しい鳩だ。

 そのまま机の上に舞い降りると、ハクアに脚を突き出す素振りをしきりに見せる。


「あら?

 ランセルの伝書鳩かしら?」


 ハクアが伝書鳩の足に括りつけてあった手紙を外し中身を確認すると、そばにいた俺にも文面を見せてきた。

 そこには勇者の書いたものと思しき達筆な文字が綴られていた。


『ハクアへ

 コルキス皇帝陛下との謁見の準備が整いました。

 正午までにマキナ殿を王城までご案内願います』


 手紙を読んで思わず心の中でガッツポーズする。

 ひとまず謁見の許可がおりたのはでかい。

 勇者の奴がうまいこと丸め込んだのか皇帝が乗り気だったのか知らんが、ここまでは良い流れで来ている。

 順調な滑り出しにほっと胸を撫で下ろしていると、ハクアは伝文をくるくる丸めローブの内ポケットにしまった。


「予想よりだいぶ早かったわね。

 南区以外の案内はまた別の機会ということで。

 早速だけど、北区のガルディア城に向けて出発するとしますか」


 

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