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ニャートリー先生のエモいスローライフでJK女神もわちゃわちゃです。  作者: いすみ 静江✿
第1章 花咲けクエストBダッシュ――第1節 春は宵が似合う
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第3話 菜七も現れほわほわ花園

 さて、チュンとも啼かない朝が来た。今日は、ニャートリーは空からか。それとも、陸からか。まさか、陸、空と来たら、海神ポセイドンのように、水場から来ないよな。


「水の話をしたら、喉が渇いて来た。この世界は、お腹が空かないのでうっかりしていたが。ドラゴン放水で少しいただきたいな」

「ニャーニャー。櫻女さん、大神直人さん。グーテンモルゲン」

「ここはどこ!」


 ニャートリーには、突っ込みたいことレギュラー満タンだな。トコトコとも聞こえずに、ビシャビシャになって背後から現れた。


「種は、一日一個までニャヨ」

「ニャートリー先生の仰る通りですね。季節毎に花を楽しむのがいいと思います。ボクは、几帳面だから、春、夏、秋、冬と続いて欲しい」

「大神くん。張り切ろうね」


 ニャートリーが、畑にうずくまる。暫く力んでいたかと思うと、急に泣き出した。涙をとうとうと流したものだから、猫耳の間をチョップしてしまった。


「海亀化! ウミガメの産卵ですか」

 

 見たこともない小さな青い物体を体の下から嘴で出す。俺は、小学生の頃、飼育当番だったけれども、仕草が、鶏だよ。


総排出腔(そうはいせつこう)が、痛いんニャーン」

「実に科学的で好きな話題だ」


 飼育当番で、小動物が好きになり、好きが高じてその道の勉強に励んでいた。今は、夏休みらしいことをしたい。このエモいスローライフで目標が欲しいなあ。


「ボクの大学は、農学部なんだ」

「スローライフに、適しておりますね」

「櫻女さんとお話ができるだなんて、ボク、嬉しいです」


 ニャートリーは、まだ泣いている。あやした方がいいのかな。


「所で、ニャートリー先生。青いピンポン玉状に転がり出て来たものは、全部で十個だな。スーパーのパック入り卵みたいでいいね。JK女神十人分なの?」

「ニャー。間違えて、蔬菜(そさい)ぽんぽん種を産んでしまったニャリ」


 俺が卵を振ると、微かな音がした。


「一つの卵に一粒ずつの種が入っているようだ。種も十個ある」

「あの……。大神くん。お手伝いいたしましょうか」


 櫻女さんが胸にきゅっと手を当てて、こちらをじっと見つめる。参ったなあ。こういうのに弱いんだよ。


「ええと、恥ずかしいな。ケーキ入刀みたいに、初めて二人でがんばっちゃうみたいで。ニャートリー先生、蔬菜の前に、二人目のJK女神を召喚したいな」

「フラワー召喚もエモーショナルがあるニャ?」


 ニャートリーにもドヤ顔があるんだ。オスかな。いや待て。神様だから男神か。


「桜が舞う中、ドキドキしたよ。確かに、エモいね」

「あら、私のことですか?」


 俺は、自分の胸を親指で示す。


「本当だよ。出会いと別れを感じさせる桜が、ボクにキュンと響いたね」

「詩人だニャーン。いいことニャリヨ」


 ピンクのふわもこが、チークを赤くして、照れているのかね。


「ボク、今度の花も楽しみにしているから、一丁お願い!」

「私もここ何年もお会いしていないので、頼みます」

「ほいほい。集中するニャ」


 機嫌をよくしたニャートリーが、もう一度、土の上にうずくまる。さっきよりも産むのに時間がかかったが、ポンスケといい音がした。雪のようにふわふわした種を嘴で外へ出す。

 櫻女さんのときと同様に、俺が土を被せる。

 ニャートリーは嘴をカッと開いた。


「花園の守り神が命ずる。【ドラゴン放水】で、種に祝福を!」


 すると、来るぞ、来るぞ。

 これを菜の花色としないで、どう呼ぶか。美しく明るい、優し気な色に囲まれて、小さな花弁から、そっと顔を出した。髪の色があまりにも菜の花のようだったので、溜め息が出る程、JK女神を実感したものだ。瞳は深い緑を思わせる。制服は、セーラー服で、草汁に白いライン、黄色いタイを水色の星型ピンで留めている。

 後ろから風を感じて振り返る。ニャートリーが滑空し、すかさず啼いた。


「この女神のニャートリーノ投影!」


 ニャートリーから女神様の後ろに大きくブルースクリーンが出された。


 ◆菜の花の女神◆菜七(なな)・特技【抱菜(ほうな)


「のんびり屋でおっとりしているだろう、菜七さん」

「はい、ありがとうございます。褒め言葉だと思う」


 いい人だな。それで十分だと思うよ。俺も口癖の語尾を真似て思う。


埼玉県(さいたまけん)所沢市(ところざわし)美田(みた)高等学校(こうとうがっこう)二年二組ギター()、楽しいと思う」


 イカスな。俺もギターを齧ってた。でも、下手過ぎるし、マニアックな歌手が好きだから、内緒だ、内緒。


「ほうほう、菜七さん。ギターか。どんなのが好きなんだ」

「黒歴史を爆発させてしまうけれども、アニメソングやニューミュージックだと思う」


 来たよ。来た、来た。感性が合うかも知れない。


「浮気症が出たニャ」


 俺の肘を突っつくな。嘴尖っているぞ。大丈夫だよ、ニャートリー。俺、多少シャイだから。それ以上に進行しないから。


「感動することって、やはり歌関係かい?」

「歌声の素敵な方に惚れっぽくって、笑われていると思う」


 俯くと、大柄な感じがちょっと守ってあげたいタイプになるのだね。菜七さんのいい所がどんどん溢れて来る。


「好き嫌いとかってある?」

「牛乳かんは、ちょっと苦手だと思う」

「ははは。俺は大好きだけれども」


 おお。何と話を合わせてくださる女神様なのだろうか。櫻女さんと真逆な感じがしないでもない。け、決して悪口ではないぞ。


「大神くんは、私が最初に会いました」

「櫻女さんたら、どうかした?」


 二人の女子高生、もとい、JK女神が視線を交わしている。


「私は、二番目にお会いしたと思う」

「菜七さんも聞いてますかって思う?」


 もしかして、バチバチなのか。それとも、仲がいいのか。俺の口からも思う思うと出て来たよ。


「ニャートリーは、花園の守り神ニャリヨ。女神召喚の前に出会っているニャー」

「ぶふふ。ニャートリー先生が一番だってさ」


 吹いてしまう程恥ずかしい。だが、恋のレベルなら、ハーレムを毛嫌いする訳でもないぞ。ただ、結婚となると、一夫多妻だから悩ましい。猫鶏とは、どうにもなりませんが。


 ◇◇◇


「さて、蔬菜ぽんぽん種を育てるニャ。【散桜】と【抱菜】で、力を添えて欲しい」

「私がお手伝いをいたしますから、大丈夫です。はりきりましょう。大神くん」

「櫻女さん」


 彼女と出会って、直ぐに、見た目は可愛いと思った。そこで終わってはいけないな。内面については、しっかり者で真面目なのかも知れない。


「花園の守り神様はスクリーンをどうやって表示しているのですか? 私の特技がバレてしまいました」


 さっきから、櫻女さんはころころと種を弄っている。植物だぞ。卵じゃないからな。それで孵化されたら、たまったもんじゃない。バイオの崩壊だよ。


「ニャートリー先生の匙加減で空間に映し出されるみたいだけど」

「ぶぶぶ」


 櫻女さんが、頬を膨らませた。匙加減って言葉がおかしかったか。だからって、俺までぶすくれないよ。


「ごめんなさい」


 櫻女さんが、掌を合わせて頭を垂れる。素直な所もあるんですね。


「さっきの可愛いピンクのもこもこさんですね」

「ニャートリーだニャ」

「誰から命名されたか存じませんが、ご身分をわきまえたら如何でしょうか」


 櫻女さんは、きっちり屋さんだ。


「さて。ボクは、お腹が空いた気もするし、蔬菜を育てて食べよう」

「そうね。では、私の【散桜】から、参ります」


 真面目っ娘のがんばりは、見応えがあるな。


「大神くん。驚いてくれて、構いませんよ」


 自信家で気丈か。ぜひ、あっぱれと言わせて欲しい。

 キャンキャン喋っている間に、俺は種の準備をしていた。リアルで、家に蕎麦粉用の畑があるものな。慣れたものだ。


「十個の種は、ボクが蒔いて来た。【散桜】で、お願いする」

「お疲れのときは、【抱菜】で癒すと思う」

 

 二人は、目を合わせた。喧嘩腰ではないようだし、まずまずのいいコンビだと感心した。

 俺もやる気をポンするぞ。


「よし! この農場を『おおがみファーム』としよう!」


 いい感じにやりたいことができた。エモいスローライフに一味も二味も加わったな。

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