さくら編・12話
さくら編 12話。
大変長らくお待たせいたしました。さくら視点ございます。
【さくら視点】
__居た。
目を丸くすると共に全身の毛が逆立つように鳥肌が立ち、じわりと温かいものが心に流れ込んだ。
自分と7、8歳くらい歳の離れた男の子がギターを弾きながらママの歌を歌っている。
何十何百と本人の歌声を聞いてきた自分にとっては、特に歌が上手く聞こえる訳でもなかった。
でも…なんだろう……。
あの子も自分と同じくらいママの歌を聞いている気がした。
でなければあんな歌い方はしない。
何せ何度も本人の歌声を聞いた身だ。
癖や強弱なんて意識してなくても身に染み付いている。
どこか…耳に残る歌声……
_さくはあの歌声が好きだ。
一体どこの誰なのだろうか。
演奏が終わるまでその場に立ち尽くした。
歌い終わると拍手が上がった。
つられて拍手をする。
「ナラより彩色でした。ありがとうございました…!」
そう言うと男の子はぺこりとお辞儀をした。
歌いきったというような安心した笑顔を見せる。
「コウです!今回初めて路上で歌ったんですけど、皆さんの心温かい拍手を頂いて緊張も少しほぐれこちらも楽しく歌うことが出来ました…!」
__コウ…。
そうしてコウからの挨拶が始まった。
コウというのね……。
初めてだったんだ。通りでちょっと声が震えていたわけだ。
コウ「……本当にありがとうございました!良ければ名前だけでも覚えていって下さると嬉しいです…!」
再び拍手が起こり、コウは片付けの用意を始めた。
コウ…コウ……
何度も脳内でその名前を呼んだ。
とても冷えきっていたはずなのに、心はすっかりぽかぽかと温かくなっていた。
マフラーに顔をうずめ、はんてんの襟を抑えていたさくらが、寒さを忘れて顔を上げ、襟を抑えていた手を緩めた場面は個人的には名場面です。
ここまでご覧頂きありがとうございました。