さくら編・10話
さくら編 10話。
さくらは静かに万紅のいた部屋を去った。
強くなったはずなのに、賢くなったはずなのに、
ボロボロと涙は溢れてくる。
徐々に足を運ぶ速さが速くなっていく。
さくらは外へと走り出した。
その時、ドンと誰かとぶつかった。
蔦善「おっと…すみませ……さくら様?!どうなさったのですか?」
蔦善はさくらの泣いている姿に目を丸くした。
蔦善(さくら様が泣くなんて珍しい……)
さく「てふ、どいて。」
蔦善「さくら…様?」
蔦善(ここで退いてはならない気がする…)
そう思った蔦善はしゃがみこみ、俯くさくらをじっと見つめた。
さくらも顔を上げ、頬を緩ませてみせた。
さく「……ごめん、なさい。てふは大丈夫だった?」
蔦善「ええ、私は……。さくら様は…」
さく「さく、さくはね!」
さく「………」
さく「……さく、」
さく(……ああ、やっぱダメだ…。)
和らいだ顔は嘘のように消え、頬に大粒の涙が伝った。
さく「うわぁぁん」
そしてとうとう泣き出してしまった。涙はボロボロと満点のテストに落ちた。
結果や数字が全てのはずなのに、何故か、こんなにも寂しくて悲しい。
蔦善「さ、さくら様?!」
蔦善(…さくら様が持っている紙…これって…今日蘭夜様が行っていたテストの用紙……?)
蔦善は100と書かれた点数に驚いた。
蔦善(…なぜさくら様が?しかも満点……)
蔦善「さくら様、これは一体……?」
さくらはもう一度俯き、一息ついて顔を上げる。
さく「…にいにがいつも受けてるテスト」
蔦善「そのようですね…」
さく「さくも受けた」
蔦善「それは一体何故…?」
さく「さくだってね、こんくらい出来る」
蔦善「でもさくら様、お勉強なんて…?」
さく「1人でした。誰も教えてくれなかったから」
蔦善はもう一度テストの用紙を見る。
さく「でもズルしてるって…」
そこには確かに計算した後や何度も書き直しているあとが残っていた。
蔦善はその時初めて気付いた。
_いや、本当は気付いていた。
さくらが勉強や武術を教わりたがっていたのを。
ただ、見て見ぬふりをしてきた。
自分をよく見せたかった。
そして、今回でようやく痛感した。
蔦善「…そうですか…そうですね…さくら様」
蔦善はさくらの頬を優しく撫でた。
さく「てふ…?」
蔦善「お勉強、1人でなさっていたんですね」
さく「そうだけど…」
蔦善「凄いですね…よく頑張ったんですね」
さく「え?」
蔦善「あ!申し訳ありません!お気に召しませんでしたね」
さく「ううん。もっかい、もっかい言って」
蔦善「頑張りましたね……?」
さく「うん!」
蔦善はさくらが笑顔になる度に心が痛んだ。
精霊も所詮こんなもんです。
人間と何も変わらないのです。
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