(9)宿と屋台と古着屋と
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冒険者ギルドから大通りに戻り、冒険者ギルドと反対側の通りへ向う。大通りから少し入ったところの宿屋の前で止まる。
「ここだ」
『鋼のゆりかご亭』
…硬そうだな。おい。
中に入ると、いかにもファンタジーの宿屋と言う感じだ。奥にカウンターがあって、前にテーブルと椅子が並んでいる。カウンターの横に2階へ上がる階段がある。半端な時間だからか、テーブルに客はいない。カウンターにも誰も居なかった。
カウンターの階段側へ近付くと、『御用の方は鳴らしてください』と書かれた札と、ベルが置かれていた。
ザックはベルを鳴らした。
「はいよ。おまたせ」
奥から現れたのは、三角巾にエプロン姿のふくよかな女性だった。
「女将、俺の友人も泊まりたいんだが、部屋は空いてるか?」
「あら、ザック。もう帰ってきたのかい?ザックの友達かい?」
「ああ。ユーミだ」
ザックに促されて前にでる。
「ユーミよ。ザックにコレールで泊まるならここだと勧められたの」
「おや、キレイなエルフの魔法師さんだね。ザックも嬉しいことを言ってくれるねぇ。ちょいとお待ちよ…」
女将さんは宿帳を捲っている。
「そうだねぇ。部屋は空いてるけど、貴族用の部屋しか空いてないんだけどいいかい?」
「この宿、貴族用とかあったのか?」
「やだねぇ。一応あるってだけだよ。偶に貴族用の宿がいっぱいの時に貴族が泊まることもあるんだよ」
貴族用か。でもまぁ、金持ちになったし大丈夫だよね。
「構わないわ。1泊お願いするわ」
「はいよ。ありがとうね。ええっと、大銀貨1枚と銀貨2枚。先払いだよ。朝ごはんは付いてるからね」
…しまった。今は持ち合わせ無いんだった。作るか。いやでも流石にそれは
「んじゃ、これで」
ザックがお金を出した。
「ザック!それは…」
私は慌てて止める。
「だってユーミさん、まだ金ないっしょ?それに、これくらいさせてくれ。ユーミさんには返せないくらいの恩が出来ちまったんだから」
ザックの言葉に、他の三人もうんうんと頷いた。
「さっきユーミさんが稼いだお金にしたら大したことはないけど、わたし達にはこれくらいしか出来ないし」
「気にしないで、泊まってくれ」
「お役に立てて嬉しいです!」
「…みんな。ありがとう。お言葉に甘えるわ」
転生してきて最初に出会ったのが、白狼の牙のみんなで良かったな。
「ユーミさんは、何だかザック達の恩人みたいだね。アタシもサービスするよ」
女将さんは笑いながら、カウンターから出てきた。
「部屋は2階の奥だよ。ついてきておくれ」
女将さんの後に続こうとして、女将さんのスカートから、もふもふの尻尾が生えていた。
「尻尾?」
思わず声に出してしまった。
「あははは。アタシゃ熊獣人なんだよ」
熊獣人!三角巾の下に可愛いクマ耳があると思うと、萌える。
階段を上り、奥の突き当りの部屋へやってきた。他の部屋が、片扉なのにこの部屋は両扉だ。
女将さんが扉を開ける。
「さあ、どうぞ」
部屋は広いワンフロアだ。ダブルサイズのベットがある。
「はい。これ鍵ね。お湯が必要なら言っとくれ」
女将さんは部屋から出ていった。
「流石に貴族用は広いな」
「ベットもデカイ」
「バスルームとトイレも部屋にあるわ」
「このお宿にこんな部屋があったんですね!」
泊まる私よりはしゃいでませんか?
ザックがどかっとベットに腰掛けた。
おい。普通なら許さん。でもまぁ、君ならいいよ。
「試験までまだ時間があるけど、どうする?晩飯には早いけど」
正直、りんご1個食べただけなので、お腹ペコペコだ。
「この街を案内しましょうか」
リンが提案してくれた。
「小腹が空いているの。何か軽くつまみたいわ。後、マントを買いたいんだけど、いい店知っているかしら?」
マントが欲しいと思っていた。作れるんだけど、マント何て見たことないから、はっきりした形状が分からないんだよね。だったら、良さそうなマント買って色々付与するか、それをベースに新しく作ってもいいしね。
「じゃぁ、市場街の屋台で何か食べて、その後服屋へ行きましょう」
リンが笑顔で請け負う。
「オレは用事があるから、後で合流するよ。ユーミさんの模擬戦見たいしな」
ジョーイが言った。
「わたしも後で合流するわ」
マリアも用事がある様だ。
「ザックも時間まで自由にしてていいんですよ」
リンが言うとザックは困った顔をした。
「…俺は一緒に行ったらダメか?」
「ユーミさんとデートしようと思ったのに」
リンがぷぅっと膨れる。
「ザックも一緒に行きましょ。いいじゃない三人で」
わたしが言うと、リンは渋々了承した。
用事がある二人と別れ、市場街を目指す。
「ここは鍛冶屋が多いから、片手で食べられる物を売ってる屋台が多いんだ。鍛冶をしながら食べられるようにね」
市場街へ来ると、通りに所狭しと店が並んでいた。野菜を売る店、果物の店、ドライフルーツの店…。少し歩くと雰囲気が変わって、食べ物の屋台街になった。
「さぁ、何食おう?」
あ。お金ないんだっての。
「気にしないで好きなもの食ってくれ。但し、晩は宿で上手い飯が待ってるから程々にな」
ザックがニカッと笑う。
「ユーミさん、お金は気にしないで大丈夫です。屋台は安いですし」
リンが察して言ってくれた。
「何から何まで、申し訳ないわ」
「何を言ってんですか。ユーミさんは命の恩人ですよ?これくらいでも足りません。さ、何食べます?ここの串焼き美味しいですよ!」
リンがわたしの手を引いた。
リンが勧める串焼きの店は、所謂焼き鳥の店だった。
醤油あるんだ!
甘辛い馴染みの香りがする。
「食欲をそそる匂いね」
「メルベのタレがたまらないんです!」
「メルベ?」
「メルベ知りませんか?メルベって言う豆です。メルベから作るソースと蜂蜜のタレなんですよ」
「やぁ!お客さん!ウチの串焼きは絶品だよ」
おじさんの笑顔が眩しい。
「三本くれ」
ザックがおじさんに言う。
「はいよ!銅貨3枚ね!」
このデカイ串焼きが1本100円?!安い!
ザックから串焼きを貰う。一口食べると、甘辛いタレと鶏肉の肉汁が広がって、マジウマイ!
「…美味しいわ」
「でしょう?ビッグバード美味しいですよね!」
「…ビッグバード?」
鶏じゃないの?
「ビッグバード知りませんか?大きな鳥の魔物です」
…わたし魔物食ったんか?
「…魔物って食べられるの?」
「まぁ、屋台のビッグバードは家畜化したやつですよ。この辺じゃ普通の鶏は魔物にやられますからね。家畜はほぼ魔物です。ビッグバードとかユニホーンブルとかマウントボアとか。ビッグホーンシープも居ますね」
「みんな大きいの?」
「そうですねぇ。ビッグバードは普通の鶏の10倍位の大きさです」
でかっ。…まぁ、いいや。美味しいし。
その後、他の屋台でユニホーンブルの串焼き、煮豚ならぬ煮ボアを食べ、蜜がけの果物を食べた。全て美味しかった。醤油は神だ。異世界物でよくある、食べ物が味気なくて、主人公が地球の知識でご飯作って大人気!みたいなのは無さそうだ。十分ウマイ。
ただ、テンプレなのが、砂糖は高級品で貴族しか口にしないらしい。庶民は蜂蜜なんだとか。但し、養蜂されていて、蜂蜜は割と安価で手に入るらしい。だから、甘味を売る店も多い。因みに蜂もデッカいらしい。
屋台で腹ごなしした後、服屋に向う。
「ユーミさんは気品溢れているので、庶民の古着屋ではなく、貴族の古着屋に行きましょう」
「貴族の古着屋?」
リンの説明曰く、貴族の古着屋は、庶民からは中々手の届かない憧れの店で、貴族からすると仕立てた物を売らなくてはいけなかったり、仕立てられなくて、そこでしか買えない屈辱の店らしい。
貴族と庶民で真逆の店なのね。
とは言え、貴族が来るからか、店は庶民街と貴族街のちょうど境目くらいにあった。店構えは落ち着いていて、今まで見た店より高級感がある。
「いらっしゃいませ」
姿勢がキレイで、片眼鏡の女性が近づいてきた。
「お買上げですか?お引き取りですか?」
あ、そうだ。目安にする為に、ワンピース売ってみるか。
「マントを見に来たのだけれど、先にわたしの持ち物を売ろうかしら。見てくださる?」
「では、こちらへ」
女性店員に促されて、店の奥へ入る。
「ここへ引き取り品を置いてください」
猫脚の大きなテーブルに、白いワンピースと紫のドレスを出した。
「拝見いたします」
女性店員は白いワンピースから確認し始める。
しまったな。洗浄しとけばよかったな。
ちょっと後悔しながら、鑑定を待っていた。




