(54)人生最大の屈辱
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〈?視点〉
俺は特別な人間だ。この世に生まれ落ちたときからな。俺はとある領主の次男として生まれた。
「いいか?私達は神に選ばれし特別な人間なのだ。愚民どもは、我々の為に生きるのだ」
父はよくそう言っていた。尊敬できる偉大な父だ。
「お館様。エギ村の村長から、雨続きでガラン草が納品量に届かない為、減らしてほしいと陳情が来ております」
執事のメレンスは優秀だ。父の忠実な臣である。
「なんだと?雨だから採集に行けないと申しておるのか?まこと愚民どもは使えぬやつが多い!侯爵家との売買が決まっておるのに、減量など認められぬ!」
父は、考え込むように顎に手をやった。
「そうだな。くだらぬ陳情をした罰として、いつもより1割多く納品せよと伝えろ。但し、来月はいつもより1割少なくても許そう」
何と慈悲深い。上に楯突いた愚民など、首を刎ねてしまえば良いものを、翌月の減量まで許すなど!父は神のようなお人だ!
「愚民は確かに愚民だが、愚民がおらねば、我々の暮らしも成り立たぬのも事実なのだ。愚かな者たちの教育も我々の責務なのだ」
父はそう言って、俺に笑いかけた。
俺の生まれた地の森では、ガラン草と言う避妊薬に使われる薬草が豊富に採れた。ガラン草は人工的に栽培できず、希少な薬草な為、国内外から取引を希望されている。その為、近隣の地に比べ、我が領地は裕福だった。そのガラン草が群生していることを発見したのは、祖父だ。偉大な父の父もまた偉大である。その血筋である俺も即ち偉大なのだ。
「何?この地を出たいと?」
俺は偉大な血筋の力を領地だけで使うのは勿体ないと思っていた。世界中に名を轟かせたい。この地は兄が立派に治めてくれるだろう。
「父上、弟は我が家の名を世界中に轟かせたいと思っているようです。この地は私が治めるので、心配はいらぬと話しております。どうぞ弟の希望を叶えてやってください」
兄上は俺にも優しく、そして優秀な男だ。なんの憂いもない。
「そうか…。お前がそう言うなら、許さぬわけにいかぬな。思う存分に羽ばたいてこい。手助けはいつでもしてやろう」
「父上!ありがとうございます」
そうして俺は誰の力も借りず、己の力だけで成り立つ冒険者になることに決めた。我が領地だと、自立にならないので、隣の領都にしよう。
冒険者として走り出した俺は、がむしゃらに頑張った。どういうわけか、下賎な女どもに慈悲をかけて、パーティーに入れてやったりしたのに、抜けていくやつが多かった。
「この依頼はパーティーでしか受けられません」
全く、ギルドの受付ってのは、本当に腹が立つやつが多い。女のくせに。俺はこの地であと少しで銀級に上がれるという時に、パーティーを解散する羽目になった。俺の言うことを聞いていれば、金級パーティーも夢ではないのに、全くアイツらは…。どうもここはやりづらい。いい武器が手に入りやすいコレールに移籍しよう。
コレールに移籍してからは、中々スムーズだった。何故かパーティーは続かなかったが、俺が臨時パーティーを募集すればすぐ集まったしな。問題はない。実力のある人間が妬まれるのは世の常だ。全く、愚民どもは可哀想な奴らだ。コレールの領主は父の友人で、何かと良くしてくれた。選ばれし人間は、同じ選ばれしものの気持ちがわかるのだ。
腹が立つのが、何かと歯向かってくる、エステラ所属の白狼の牙の奴らだ。同じ頃銀級に上がったので、俺がパーティーに加わってやってもいいって言ったのに断りやがった。あの4人は絶対にできてやがる。イチャイチャしたいがために、俺が邪魔なのだ。盛りのついた者どもは猿以下だな。まぁ、俺はヤツらと違って実力でのし上がって来たからな。お先に金級に上がらせてもらった。ギルマスが昇級するのにまだ実力が足りないとか、ふざけたことを抜かしやがったから、領主に頼んで罰してもらった。全く俺を誰だと思っているんだ。俺は特別なのだ!
金級の俺様に断りもなく、あのギルマスは登録のない新人を鋼級から始めさせようとしていると聞いた。
「それは本当か?!」
ギルドの酒場で話しているヤツらを問い詰めた。
「何でも、エルフの女らしいぜ。ギルマスに呼ばれてったみたいだ。詳しいことは受付のマーシャにでも聞きな。ヤツが対応してたみたいだぜ」
「おい!マーシャ!」
下賎な獣人の女の受付に声を掛ける。
「な、なんですか?エルビスさん」
「エルフの女ギルマスに呼ばれたって話だが、一体なんの用なんだ?」
「そんな事、お話できません」
「俺はここの金級だぞ?聞く権利があるだろう!」
「そんな、無茶苦茶な…。エルビスさんが金級だろうと話せない物は話せません」
「まだ登録もしていない女をいきなり鋼級から始めるとか聞いたぞ。ギルマスはそんな越権行為を俺に断りもなく、していいのか?新人を殺す気か?領主に話すぞ?」
「どうしてエルビスさんに断らないといけないんですか?それに、あの方は物凄い実力の方です。鋼級には納まりませんよ」
「…鋼級の試験ってことは、実技があるな?」
「…ありますけど」
「見に行くのは自由だろ?」
俺がニヤッと笑うと、マーシャは嫌そうな顔をした。本当に失礼な女だ。
「俺にやらせろ!」
□□□
「一緒に上を目指そうぜ」
「ええ…」
この女は今日から俺の女だ!
「…ぶふっはははは。あのエルビスが?」
「マジで?うーわ。俺だったら恥ずかしくて生きていけねぇ。ぶふふふふ」
ん?なんだ?ここは…?
「あのエルビスが気を失いながら、ヨダレ垂らして、ウヒウヒ言ってたって?」
「まだ、登録も終わってない新人の女エルフ相手に、瞬殺だったってよ」
俺が瞬殺?
「ウヒウヒしながら、救護室に運ばれたらしいぜ。やべぇ。次にエルビスみたら絶対に吹き出しちまう」
「マトモに顔みらんねえな。ぶはははは」
ここは…救護室か?
俺は我にかえり、ガバッと起き上がった。
「起きたんなら大丈夫だろうけど、幻惑の魔法を受けると、しばらくフラフラするから気をつけな」
救護室の救護員に哀れな目で見られた。俺は一瞥すると、救護室から走り出た。
許さねぇ。あの女絶対に許さねぇ!!!
怒りに震えながら、家に帰った。
翌日、受付のところに来ると、忌々しい白狼の牙と一緒にあの女も居た。
「おい!エルフの女!」
俺様が声を掛けているのに、女は無視している。どれだけバカにしたら気が済むのか。絶対に許さない!
「無視するなって言ってるだろう!」
俺が女の肩を掴んだ瞬間、目の前が真っ暗になった。
…くっ。
全身の酷い痛みで目が覚めた。
「初級ポーションは無料だけど、それ以上は確認が必要だからね。どうする?」
救護員の間の抜けた声が、俺をさらに苛立たせる。
「金はだす。さっさと中級をだせ!」
俺は銀貨投げつけると、中級ポーションをひったくった。
中級ポーションを飲み下したながら俺は誓った。
俺はあの女に復讐する。選ばれし特別な俺様に恥をかかせた事を後悔させてやる。誇り高き竜鱗族である俺を怒らせた罪は重い。泣きすがりながら、俺の女にして欲しいと言うまで許してなどやるものか。




