(45)拠点の確保
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人通りが多かったため、冒険者ギルドには転移ではなく、歩いていくことにした。さぁ歩きだそうと言うときに、エルラインからストップがかかった。
「ご主人様。本日は宿を取り、冒険者ギルドには明日向かいましょう。お休みになられませんと」
有無を言わさぬエルラインの無表情が迫る。
「眠けを回復ポーションで抑えるのはいかがなものかと」
あ。バレてた。宿ではなく、自分の快適空間で寝たいがあまり、悪魔と戦った徹夜明けなのに柄にもなく耐えていた。よくよく考えれば、エルラインも徹夜明けだ。明らかに過重労働だ。雇い主としてあるまじき行為だった。
「…そうね。エルライン悪かったわ。アナタも休ませないといけなかったわ」
「私はこの体になってから、疲れを感じなくなりましたので、お気遣いは不要にございます。ご主人様のお体に障ります」
ホムンクルスって寝なくても大丈夫なんだ。知らなかったわ。
「私の為に頑張ってくれたのに、悪かったわ。私も今の人族の宿に興味があるし、宿に泊まりましょ」
微笑むマーレとエルラインに引きずられて、宿に泊まることになった。マーレの「豪華なところがいいわ」の一言により、高級店が多い地区で宿を取った。一見さんお断りっぽかったが、マーレの金級の身分証明書を見て態度が変わった。一番いい部屋を用意してくれた。
「ご主人様。湯浴みを。浄化魔法ばかりではいけません。お疲れを癒やすためにございます」
「へ?」
ベッドに倒れ込もうとしたわたしを、あっという間に脱がせ、部屋に備え付けられた大きな風呂に連れて行かれた。エルラインにされるがままにしていると、猛烈な眠気に襲われる。
「ご主人様。眠っていただいて構いません」
そう?エルラインが言うなら任せるわ。
口に出したかどうかも覚えてないが、そこで意識を手放した。
「…様、ご主人様。夕餉にございます」
わたしがエルラインに起こされたのは、日もとっぷり暮れた夜だった。晩御飯が出る宿だったようで、ギリギリの時間まで待っててくれたらしい。エルラインはわたしをこのまま寝かせておこうと思ったらしいが、マーレが食べたいと言ったそうだ。
「私とエルちゃんだけ食べたら、明日ユーミに何言われるかわからないからね」
…エルちゃん?
微笑むマーレに引っかかることは多少あったが、確かに豪華な宿の晩御飯を食べ損ねたら拗ねる自信がある。この世界のご飯は美味しいのだ。
私の身支度が整うと、部屋に食事が運ばれてきた。何とも豪華な食事に胸が踊る。フランス料理とイタリア料理とスペイン料理を足して割った様なかんじだった。パンはハード系とソフト系と2種類あって、どっちも美味しかった。相変わらずエルラインは後で食べようとしたが、わたしとマーレが一緒に食べたいと説得すると、渋々一緒に食べ始めた。マーレもエルラインも所作がキレイだ。主であるわたしが一番出来てない気がする。
翌日は早速冒険者ギルドに顔を出した。先触れしてなかったが、受付に行ったらすぐにギルマスの所に案内された。
「やぁ!マーレ!」
扉を開けた途端、ギルマスとマーレが熱い抱擁を交わす。あのー、わたしたちも居るんですが。
いい加減、長い抱擁に焦れたので、二人を素通りしてイスに座る。エルラインも座らせる。エドがやっぱり二人を無視してお茶を淹れてくれた。
「先触れもなくてごめんなさいね」
エドに謝っておく。
「いえ、お気になさらず。マーレ様が一緒なら」
エドはそこで区切って、チラッとまだ抱き合っているギルマスを見た。
「どんな仕事をしていても、お会いになるでしょうから」
「…でしょうね」
ズズッとお茶を飲んだ。
「やぁ、待たせたね」
「…ホントに(ボソ)」
「ん?何か言ったか?」
「いえ、何も」
ギルマスは満面の笑みで向かいに座った。
「で、今日はどうした?商人ギルドで何かあったのか?」
わたしは、囲いの外に家兼店が欲しいことを話した。
「なるほどな。まぁ、ユーミ達なら街の外に居を構えても危険はないだろう。転移が出来るなら街の中だろうが外だろうが関係ないしな。どこかいい所ねぇ」
ギルマスが腕を組んで考えていると、エドが何か思いついたようだ。
「お話中、恐れ入ります。マスター、あそこはいかがでしょう?例の魔女の…」
「魔女…?ああ!あそこか!ユーミ達ならなんとかするだろう」
ギルマスは1人で納得してウンウン頷いている。
「マーレ、覚えてないか?ダンジョンに挑戦する前に、『滝魔女の館』の話を聞いたろう?」
「ああ、古代の魔女が呪いを掛けたっていう館ね」
呪いの館を勧めるなんて、ヒドイ販売者だと思う。
「その、呪いの館はどんな謂れがあるの?」
一応聞こう。
「何でも、古代の魔女がって、多分俺は生まれた後だろうけど。その魔女が館の主に騙されて、己諸共、館に住む人間すべてを閉じ込めて時を止めたって話だ。強力な結界魔法が掛かってて、今まで近づくだけで、誰も呪いを解くことが出来なかったんだ」
「…ギルマスやマーレなら出来るんじゃ?」
「できるだろうな」
ズコッ。ズッコケた。
「なんでそのままなの?」
どうせなら、呪いは消してほしい。
「いや、マーレとダンジョンに満足したら、館の呪いを解いて、コレルに戻る予定だったんだ。だが…」
ああ、例のスタンピードね。
「ここのギルマスになった後も、何かと忙しくて手を付けてなくてな。昔は見に来る人も居たが、何も変わらぬ館が建っているだけだし、人も来なくなってな。特にあっても邪魔な場所でもないし放置していた。街の外の土地は法律で売ることが出来ないから、借地となるが、呪いも掛かってるし、破格で貸してやるぞ」
ギルマスがニコニコとご機嫌に勧めてくる。
「…内見はできないわよね?大きさはどんなもん?価格は?」
値段によるよね。
「そうだなぁ。内見は結界を解かないと無理だな。昔の貴族の別荘だったらしいから、大きさは結構あるぞ。建物とか改築しようが、建て直そうが好きにしたらいい。滝の近くだし、日当たりもいいし、大きな木で陰になっていて立地としては最高だぞ。期間は俺が領主としてある間。料金は一括白金貨3枚でどうだ?」
ギルマスは笑顔で勧めてくる。
「私も場所は良いと思うわ。ノンビリできるわよ。街ともそこまで離れてないから、冒険者とか旅商人なんかは街に入る前に寄るんじゃないかしら?」
マーレも微笑みながら同調する。
場所を見ていないから、なんとも言えんなぁ。
「『滝魔女の館』はエステラに来たことがあるなら皆知っています。あの館が手に入るなら、白金貨3枚は破格だと存じます」
エルラインもそう言うなら決めちゃうか。
「分かったわ。その『滝魔女の館』とやらを戴こうじゃないの。わたしも魔女を名乗るなら持ってこいね」
決めたら早速とばかりに、商人ギルドに行く。ギルマスは用事があるらしいので、エドを伴って。転移で。
契約書を交わすには、基本的に商人ギルドを挟むらしい。商人ギルドを挟むことで、法的に効力のある契約になるんだと。商人ギルドが介在していない契約書は裁判で覆される事もあるんだとか。
商人ギルドに入ると、エドが繋いでくれた。こないだのいい部屋に通された。
しばらくすると、商人ギルドのギルドマスターでは無い男の人が現れた。
「商人ギルドにご足労いただきありがとうございます。副ギルドマスターのアルバンと申します。お見知りおきを」
人好きのする、柔和な感じの人だ。でも、この人も商人ギルドのマスター同様、気を抜くとペースに乗せられる気がする。
と、警戒していたが、エドが全部話をしてくれて、わたしはサインするだけだった。わたしは身分証明書カードをアルバンに渡す。商人ギルドがお金を引き落として、領主へ振り込むらしい。手数料とかは年間で冒険者ギルドから払われている為、この契約では要らないとのこと。
「これで、只今から、『滝魔女の館』はユーミさんがお使いいただけます。こちらの契約書は、この複製の魔法具で3枚に致します。原本は商人ギルドにて保管いたします。1枚は領主様へ、1枚はユーミ様に。この契約書は魔法が施されており、3枚のうちどれかが、破られたり、改ざんされたり、契約書に記入された人物以外が手に取ると、すべての契約書から警報が鳴り、衛兵に通報されます」
ああ、さっき契約書に記入する人物をエドに聞かれたな。エルラインとマーレを加えておいたし、大丈夫よね。しかし、契約書すげぇな。
笑顔のアルバンに見送られ、商人ギルドを後にする。
「ユーミ様、早速向かいますか?」
「エド、アナタ忙しいでしょ?マーレもエルラインも場所を知ってるみたいだし、案内は大丈夫よ」
「左様でございますか?では、お言葉に甘えまして、ここで失礼いたします。色々済んだらマスターまで報告いただけると助かります」
エドが深々頭を下げる。
色々って、結界解除して呪い解いたり?
「分かったわ。マーレを連れて報告に行くわ」
ホッとした顔のエドを見送り、新居へ向かうことにした。道とか知っておきたかったので、城門からは歩いていくことにした。
遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。細々更新して参りますので、今年もよろしくお願いします。




