(39)一方その頃コチラでは
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〈ザック視点〉
ユーミが揺らぎに消えた後、誰も黙り込み、消えた空間を見つめていた。
「そう緊張していても、保たなくなってしまう。取り敢えず変化があるまで、座って待とう」
ギルマスがそう言うので、真っ黒な長を囲むようにして、座った。
しばらくの間、沈黙が辺りを支配した。
「来るぞ!構えろ!」
誰の声だったか。ギルマスかジョーイか。俺だったかもしれない。見つめていた長に纏わり付く瘴気がぶわっと濃くなった。
長から流れ出るように地を這った瘴気から、コウモリの羽を持った、小さなヤツが次々と現れた。
「インプだ!小さいが悪魔だぞ!気を抜くな!」
ギルマスの声に皆が頷き、倒していく。俺は剣で真っ二つにし、ジョーイは両手のダガーで切り裂く。リンが魔法で焼き、マリアは弓で貫いた。いつの間にか、ギルマスは腕と足がドラゴンのそれに変わっていた。ドラゴンの鋭い爪でインプを次々と屠っている。
「うむぅ。いつまで湧くのだ」
噛みつき、足で切り裂いていた、シルバーフェンリルが唸っている。
「ユーミが浄化し終わるまでだ。きっとすぐ終わる」
たまたま近くに居た俺は、シルバーフェンリルのボヤキに付き合ってやった。
ここにいる皆が銀級以上だから、こんなにやすやすとインプをやっつけているが、一匹でも見逃して街にたどり着けば、街は蹂躙されてしまうだろう。青銅級では複数で一匹がやっとだ。
「ギルマスはドラゴンになった方が戦いやすくないのか?」
腕と足だけじゃ無駄に体力を消耗するんじゃないかと、聞いてみる。バサバサとインプを切りながら。
「そりゃ、人化を解いたほうが強いのは確かだが、力の加減が難しいんだ。ロウソクを吹き消すつもりのブレスで、辺り一帯吹き飛ばしてしまう。龍体だと大きさは変えられても、力は同じなんだ」
ギルマスは右手でインプを切り裂きながら、苦笑する。
ドラゴンやべぇ。マジやべぇ。
ギルマスには絶対に逆らっちゃいけねぇ。うん。
ふと、インプが湧かなくなった。
「終わったか?」
「いや。まだだ!」
ジョーイの言葉に一瞬気が緩んだが、そうではない。
ドロリとした黒い瘴気が流れ出て、ニョキニョキと黒い塊が伸びていく。あっという間に、俺の背丈の倍はある悪魔が現れた。
「くっ!デーモンかっ」
ギルマスが警戒しながら臨戦態勢を取る。
「…我が主たる、サルガタナス様を滅せんとするもの…ぐふぉぶぅわがっ」
デーモンが話し終わる前に、エルラインがデーモンを殴り飛ばした。
え?
皆キョトン。
立ち上がろうとするデーモンの首をエルラインが踏みつける。
「主の安否が分からず、気が立っております。悪魔は黙って死になさい」
デーモンは蹴り上げられ、なすすべなく落ちてきた所に、エルラインの拳が胸を貫いた。
灰になったデーモンはさらさらと風に飛んでいった。
…エルライン、コワイ。
「…俺ならまだしも、普通、鋼級が単独で殺せるレベルの悪魔じゃないんだけどな」
「…銀級でも無理でしょ」
ギルマスも呆れている。俺も引く。
デーモンと言えば、災害級の悪魔だ。現れれば間違いなく金級に指定される。それを瞬殺…。
「みてくださいです!長が!」
リンの言葉に、皆が長を見る。
辺りに広がっていた、瘴気が長に吸い込まれるように戻っていく。
全ての瘴気が吸い込まれた途端、長が光った。あまりの眩しさに目を閉じる。
「これは…」
次に目を開けると、辺り一面、生命力溢れる緑の森になっていた。
「やったのか…?」
「ユーミさん、やったです!」
「終わったな」
「流石だわ」
白狼の牙が感心していると、ギルマスが長に近寄った。
長は綺麗な白金の毛並みになっていた。
「マーレ…」
ギルマスは、そっと長の横に座った。シルバーフェンリルは少し離れて座っている。
「…カシアス。見つかってしまったわね。穢されながら貴方達の事は感じていたわ。ありがとう」
ふぅっと息を吐いた。
「まだ、体力が戻らないの。この体勢でごめんなさいね」
「気にするな。君が無事だっただけでよかった…」
「貴方達のおかげよ。さぁ、ユーミを戻すわ。あの子も大活躍よ。うふふ。笑ってしまう活躍の仕方だったけど」
長が少し顔を上げ、鼻をヒクヒクさせると、さっきの揺らぎが現れた。
「ユーミ!」
俺は駆け寄ったが、いつの間に移動したのか、揺らぎから出てくるユーミの手を取ってエスコートしているのはエルラインだった。
「やっと出られたわ」
ユーミはやれやれといった様子で、腕や肩を回していた。
「ここの穢れも消えたようね。よかったわ」
「ユーミ殿!」
ユーミの前に、シルバーフェンリルを先頭にホワイトフェンリル達も集まり、頭を下げる。
「ユーミ殿のおかげで、この渓谷は救われた。我らこの渓谷のフェンリルは、貴殿を永遠の友として迎える」
ユーミすげぇ!聖獣を味方につけちまった。
「あら、友達にしてくれるの?もふもふ好きだから嬉しいわ」
ユーミはイマイチ分かってないみたいだが、嬉しそうだからいいか。
「ユーミ、本当にありがとう…」
まだ横たわっている長がユーミに声をかける。
「いいえ。アナタが力を振り絞って助けてくれたおかげよ」
ユーミはそう言いながら、長に近づく。
「これ飲んで」
ユーミは長にポーションを飲ませる。アレは俺達が出会った時に飲んだ体力回復ポーションだ。アレなら長もすぐ元気になるな。
「これは…」
長は目を見開いて驚いている。
長はみるみる回復していく。長の魔力や神聖力が回復していくのが、俺にもわかった。
「ああ…長が、長がお元気に…」
シルバーフェンリルが涙を溢している。
すっかり元気になった長は立ち上がり、ユーミを含めた俺達に頭を下げる。
「皆様には本当にお世話になりました。お礼は後ほど。申し訳ありませんが、先に済ませていきたい事がございます。ここでお待ちいただけますか?」
長の言葉にみんな頷く。
長はフェンリル達に向き直り、
「只今より、長継承の義を執り行う!頂へ向かうのだ!」
「そ、そんな!」『ウォーン』『ウォーン』
歓喜に湧いていたフェンリルが、悲哀の声に変わる。
「ジラルよ!洞穴で眠りにつく同胞を起こして参れ。我は頂にて準備をいたす」
あのシルバーフェンリルの名前はジラルと言うのか。凄く動揺してるが。
ジラルは覚悟を決めたのか、グッと歯を食いしばり、渓谷の方へ走っていった。
「洞穴ってどこにあるですか?」
リンがギルマスにこっそり聞いている。
「恐らく、渓谷の壁に洞穴があるんだろう。そこをねぐらにしていると聞いたことがある」
「なるほどです」
長は俺達を向き直り、頭を下げると走り去った。
「さ、取り敢えずお茶にしましょ」
ユーミの声に振り返ると、どこから出したのか、テーブルと椅子が用意され、エルラインが、お茶を入れている。
「…座ろうか」
ギルマスに促され、森の中でのティータイムとなった。
…さっきまで死に物狂いで戦ってたんだけどな。
妙なギャップに戸惑ってしまった。




