(34)黒い長
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ザックから紹介された宿は気のいい女将さんのいる宿で、わたし達にちょっかいをかけてくる酔っ払いも追い払ってくれた。食事も美味しいし、いい宿だ。女将さんの前では、ザックはもちろん、スカした感じのジョーイまで子供扱いされるのがおもしろい。
落ち着いたと思ったら、あっという間に黒フェンリル調査の日になった。まだ陽も登りきらぬ早朝、エルラインに半分寝たまま支度され、北門へ転移した。
陰から北門へ出てくると、既に白狼の牙もギルマスも到着していた。
「あら。待たせたかしら?」
「いや…いても立ってもいられなくてな」
ギルマスが苦笑する。
「俺達もここがホームだからな。心配でどうしようもなかった」
ザックは頭を掻きながら言う。
「じゃ、さっそく行くぞ」
ギルマスの号令により、みんな動き出す。わたしだけ飛んでるけども。
「しかし、いまから山のぼりだっつーのに、エルラインはそのカッコでいいのか?」
ザックがエルラインを見て言う。
「この服はその辺で売っている防具よりも、優れた防御力と魔法防御が付与されております。鎧を纏うより安全かつ動きやすいのです」
エルラインは、ザックを見もせずスピードも落とさずに答える。
「…その服自体が魔法具のようなもんね。ユーミが付与したんでしょ?」
マリアが聞いてくる。
「まぁね」
実際は付与どころか、作ったんだけど。
しゃべりながら歩くうち、こないだの場所までたどり着いた。
「よし、ここだな。ユーミ、たのむ」
ギルマスに言われて、シルバーフェンリルが言ったように自分の髪を引っ張る。
『ウォォーン』
遠くから、狼の遠吠えが聞こえた。きっとあのシルバーフェンリルだろう。
しばらくすると、シルバーフェンリルと3頭のホワイトフェンリルがやってきた。
「人族の者たちよ。足労をかける。古龍も助かる」
シルバーフェンリルがわたし達を見回す。今回は念話じゃないのね。
「長の元まであないする。背中に乗るが良い」
わたしとエルラインはシルバーフェンリル、マリアとリンで1頭、ザック、ジョーイはそれぞれ1頭ずつホワイトフェンリルに乗せてもらう。ギルマスは飛行で行くそうだ。
「では、参る」
シルバーフェンリルを先頭に、すごいスピードで森をかける。スイスイと木の間をすり抜けていく。すごいスピードなのに、風が全然当たらないし、全く揺れない。おそらく、魔法で保護してくれているのだろう。
フェンリル達のスピードにギルマスも負けていない。あのスピードで木にぶつからないのはすごいな。
しばらくすると、森の雰囲気が変わった。瘴気に冒され、黒と灰色の森が広がる。
「…なにこれ」
時々、真っ黒い動物が横たわっているのが見える。
『この辺りは穢れに晒され、死の森となった。フェンリルのように精神も魔力も強い者でないと息絶えるのだ』
黒狼になれるだけ強いって事なんだね。普通は死んでしまうのか…。
「森がこんなんじゃ、食料にも困るんじゃないの?」
『ほとんどのフェンリルは魔力循環させ、眠りについた。魔力操作のできぬ若いフェンリルや、子を守ろうとしたフェンリルが黒狼となってしまったのだ』
「移住しようとはしなかったの?」
『フェンリルは地に着く。他では生きられぬのだ』
ふーんそう言うもんなんだね。しかし、この森はヤバイな。上から見たとき気が付かなかったけど、ルート上じゃなかったのかな。
しばらく瘴気の森を進むと、フェンリル達が立ち止まった。
「これより先は、普通の人族では死するか狂う。並の結界では耐えられぬだろう」
シルバーフェンリルに言われて、白狼の牙とエルラインに結界を張る。もちろん、自分にも。ギルマスは平気らしい。
「我について参れ」
ここからは、歩いて行くようだ。
わたしは飛んでいるからよくわからないけど、灰色になった落ち葉や枝を踏むと、粉々になっている。
「これが街まで広がったら、どれだけの被害になるか…」
ギルマスの眉間のシワが深くなる。
「うっ…」
拓けたところに出たと思ったとたん、まるで大きな壁にぶつかったように、瘴気の濃度が濃くなった。前に進むのすらままならない。
「あそこを見るがいい」
瘴気の渦の真ん中に、ひときわ大きな黒いフェンリルが横たわっている。
「あれが長だ。意識もない」
「まさか…マーレなのか…?」
ギルマスが驚愕の顔をする。
「古龍よ。なぜ長の真名を知っている?」
グルゥとシルバーフェンリルが牙を剥く。
「マーレ…」
ギルマスにはシルバーフェンリルの声が聞こえなかったようだ。フラフラと長に近寄っていく。
「ギルマス!危ない!」
ザックがギルマスの腕を掴んだ。
「状態を確かめもせずに近づくなんで、死ぬ気か?!」
ザックの強い言葉に、ギルマスはハッと我に返った。
「すまない…」
項垂れるギルマスの顔は青い。
「取り敢えず、わたしが近づいてみるわ」
「ユーミ!危ないぞ」
ザックが難色を示す。
「ここで、見てるだけではどうしようもないでしょ?ギルマスも使い物にならなそうだし。多分わたしは大丈夫だから」
わたしはスタスタと長に寄っていく。
「浄化」
長に浄化をかける。一瞬一部が白くなったが、またすぐ黒くなってしまった。
「あらら。ダメだわ」
『…だ…だれ…じゃ』
ものすごく弱々しい声が頭に響いた。
「わたしはエルフのユーミ。アナタの部下?のシルバーフェンリルに頼まれてアナタの様子を見に来たの。何で穢れに冒されてしまったの?」
わたしは浄化をかけ続けながら、頭に響いた声に問いかける。
『われらの…まもり…がみ…が…あくま…に穢された』
我らの守り神が悪魔に穢された?
『あがらう…こと…かな…わず…われ…まで…も…』
「その悪魔はどこから来たの?」
『わか…らぬ…しん…いき…に…とつ…じょ…あ…らわ…れた』
神域に突如現れた。神域って、普通は悪魔とか入れないもんでしょうに、ヤバイねこりゃ。
「このまま、浄化をしたら、アナタは正気に戻れる?」
『まもり…がみ…をじょうか…せねば…おなじこと…』
うーん。守り神ってのを浄化しないと駄目なのか。
「守り神の所にはどうやって行ったらいい?」
『ひが…おつる…とき…われが…しん…いきの…とびらを…ひら…こう…ぞ…ただし…しんいき…にはい…るる…は…ひと…りのみ』
神域に入れるのは一人だけか。わたしが行くしかないわな。
『われは…その…とき…まで…ねむる。ひさ…し…ぶり…にねむれ…る。えん…しぇん…と…エルフ…よ。れい…をいう』
長が眠ったようなので、みんなのところへ戻る。
「どうだった?」
まだ青い顔のギルマスが尋ねる。
「長に浄化をかけるだけではダメみたい。神域とやらの守り神が悪魔に穢されたらしいわ。守り神を浄化しないと長も浄化されないって」
「なんとっ!守り神が?!」
シルバーフェンリルがショックでふらついている。
「神域に悪魔が現れるなど、聞いたことがない。一体何が起こっているんだ」
ギルマスの顔色が益々悪くなる。
「神域にはどうやっていくんだ?」
ザックに聞かれたので、長の言葉を伝える。
「…そんなところにユーミを一人で行かせるなんて」
「オレ達じゃどうしようもないんだし、ユーミさんに頼るしか無いだろ?」
「ほかに方法は無いのかしら…」
「もし、神域から帰れなくなったるどうするですか??」
「しかし、ユーミしか浄化することができないのだから…」
白狼のみんなと、ギルマスが真剣に話し合っているが、わたしは行くことをすでに決めている。
「みんな、心配してくれるのは嬉しいけど、多分大丈夫だから。わたしが行くわ」
「私が代わりに行くことは出来ないのでしょうか?」
珍しくエルラインが泣きそうな顔をしている。
「エルライン、心配いらないわ。わたしが大丈夫って言うんだから、大丈夫よ」
無理そうなら転移したらいいんだし。
「我も神域に踏み入った事はない。長以外が踏み入ることは出来ぬ場所なのだ。そこが穢されるなどと…」
シルバーフェンリルはまだショックが続いて居るようだ。
神域に入るまでは、しばらく時間があるので、キャンプしながら待つことになった。わたしが結界でドームを作る。昼間なのに暗く肌寒いので、焚き火をする。
火の周りを囲むように腰掛ける。その後ろにフェンリル達が寝そべる。火を見ながら、エルラインが淹れたお茶を飲みながら、持参した携行食を食べる。
「…ギルマスは長と知り合いなの?」
さっきの様子から、知り合いだと思ったんだけど。顔色が戻って来たので聞いてみる。
「…君たちには話しておこうか。口外は勘弁してくれよ」
そう言って、苦笑して話し始めた。




