(32)はじめましてエステラ
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「あ。そうだ。ちょっと戻るから先に行ってて」
わたしはみんなにそういうと、さっきの場所に戻る。当然、エルラインはついてくるけど。
「黒いやつ、放置するわけにいかないしね」
死んだ1頭の黒狼を片付けようとする。
…いや待て。このまま収納していいもんか?
なんか嫌だったので、浄化して白くしてから収納する。
城門の方へ急ぐと、みんな待っててくれていた。
「あら、待っててくれたのね」
「いきなり戻るから、驚いたんだよ」
ザックが呆れたように言う。
「多分、さっきの黒狼の死体を取りに行ったんだろうって、すぐわかったからな。ユーミさんの事だからすぐ戻ってくるのはわかっていたしね」
ジョーイはカカカっと笑う。
「じゃ、このままギルドへ行くぞ。色々聞かないとな」
そのままギルマスについてギルドまで行く。
そう言えば、城門で身分証明書の検分もなくスルーだったけど、良かったのかな。まぁいいか。因みに、警備隊の人たちとは、城門を抜けたところで別れている。
エステラの街は、無骨なコレールとも、宿場町カラルの派手な感じとも違い、落ち着いたザ・中世の町並みって感じだ。赤い瓦の屋根に、レンガの建物が並ぶ。黒狼騒ぎは街には伝わっていなかったようだ。日も沈み始めたので、夕食の準備をしているのか、あちこちの家の煙突から煙が出ている。
「コレールとかカラルの家には屋根に煙突があるところは気が付かなかったけど、エステラは煙突がある家が多いのね」
わたしのつぶやきに答えたのは、マリアだ。
「コレールとかカラルは森に魔獣が多いから、クズ魔核が手に入りやすいの。エステラはダンジョンがあるけど、何故かダンジョンのザコ魔物は魔核落とさないのよね」
「そうなのです。ボスクラスは魔核が出るですが、ボスの魔核では価値が有り過ぎて、庶民には手が出ないです」
リンも補足してくれる。
「…だったら、大きい魔核を割ればいいんじゃないの?」
思ったことを言ってみた。
「そんなもったいないこと出来ないわよ。高く売れるのに。それに、大きいから割ればいいなんて、そんな単純な話じゃないわ。そもそも、ボスクラスの魔物の魔核は純度が高すぎてクズ用の魔法具には使えないのよ」
マリアが肩をすくめながら言った。
「コレールとかカラルとか、クズ魔核があるところから仕入れればいいのでは?」
さらに突っ込む。
「ご主人様。そもそも、クズ魔核であっても、魔法具に使える状態で手に入ることは少ないのです。一つ手に入れば、時々魔力を込めれば長く使えます。とれた街で消費するなら、それと程の数も要らず、輸送費もかかりません。他所の街に卸すとなると、それなりの数が必要になり、輸送費、手数料など色々経費がかさんで、結局高くて庶民には渡らないのです」
なるほどねぇ。流石、元商人に仕えていただけあってよく知ってるわ。
「更に言うと、魔核が出たとしても、庶民に渡る前に、魔法師協会や錬金術師協会などの研究機関が買占めてしまって、商店に並ぶことも難しくなります。商人ギルドもある程度は確保する様ですが、魔核だけ売るのではなく、魔法具に装着してから売るほうが、利益がでますからね」
わたしに説明していた、マリアもエステラの話にほうほうと聞き入っていた。
「エルラインさんは、山奥の里にいたのに、良く知ってるですね」
リンさん、察しがいい子は嫌いだよっ。
「…エルラインは里に来る商人の世話もしていたから、話を聞く機会が多かったのよ。…ね?」
エルラインにいらんことを言うなと目で脅す。
「はい。色々と」
エルラインは無表情で、頷く。
マリアとリンになんやかんやと、取り繕っているうちに、冒険者ギルドに到着した。
コレールやカラルのギルドと違ってとても大きい。平民街にある建物では一番大きいんじゃないだろうか。
わたしが建物に圧倒されていると、ギルマスが
「ここは、ウェーブルの冒険者ギルド本部だからな。俺は一応冒険者ギルドウェーブル支部の支部長でもあるんだ」
「ウェーブル?」
「…ユーミ、まさかこの国の名前知らなかったのか?」
ギルマスが呆れたように言った。
この国ウェーブルって言うのね。
「今知ったわ。田舎者のエルフだから」
笑って誤魔化しておく。
「ま、長命のエルフにしたら人間の治める国なんて興味が無いのもわかるな。俺もだしな。さぁ、入って」
ん?今『俺もだしな』って言わなかった?
ギルマスに真意を尋ねられないまま、ギルマスはさっさと行ってしまった。
ギルマスが入った途端、青い顔をした執事っぽい人が駆け寄ってきた。
「マスター!黒狼はっ?!」
「エド、心配いらんよ。さぁ、この人たちを俺の部屋へ案内してくれ。話を聞くから」
何がなんだかわからない様子の、エドと呼ばれた人に、ギルマスの執務室まで案内される。
執務室に着く頃には、エドは落ち着いており、執務机で何かしているギルマスを尻目に、わたしたちにお茶を淹れてくれた。
執務室は広く、10人前後と話ができる大きいテーブルと椅子があった。わたしたちはそこに座って、お茶を飲む。エドに対抗してお茶を淹れようとしたエルラインをなだめ、座らせた。
「すまない。これを探していてな」
ギルマスがやってきて、何やら手の平サイズの小箱の様な魔法具を見せる。
「これは録音ができる魔法具だ。今回の黒狼出現の話を共有する為に、録音させてもらう」
わたしたちは顔を見合わせて頷く。その前にと、わたしはコレールとカラルのギルマスからの手紙を渡す。
「わたしに問題があるようではないけど、一応見せるわね」
先に見せておいたほうがいいだろう。
「先に読ませてもらうよ。ちょっとまっててな」
ギルマスはわたしから手紙を預かると、腕まくりをして、手紙を読み始めた。
「…鱗?」
ギルマスの腕の外側に黒っぽい鱗の様なものがついている。
「ああ、ギルマス、龍族なんだ」
わたしのつぶやきを拾ったザックが教えてくれた。
「龍族?って竜人族とは違うの?」
「全く別物。もし、この場に竜人族が居たら、ギルマス見ながら泣いてるよ」
ザックが面白げに言う。
「おいおい。何を言ってるんだザック」
手紙を読み終えた、ギルマスがザックに突っ込んだ。
「ユーミ、ジョーイから聞いてたよりも、とんでもない人物だったようだな。我々龍族にも匹敵するかもしれない」
ギルマスは面白いものを見つけたような顔をしている。
「龍族と匹敵って…」「化物じゃねーか」「流石ユーミさんです!」「只者じゃないのはわかってたけど…」
失礼なジョーイはほっといて、驚いている白狼のみんなに聞いてみる。
「龍族ってのは一体なんなの?わたし、里から出たことがないから知らないのよ」
必殺里のせい発動。
「端的に言うと、ギルマスはエンシェントドラゴンなの。そもそも人族じゃない」
ドラゴン?!
わたしは驚いてギルマスを見る。
「まぁ、ユーミはともかく、エルラインも色々と普通じゃないのはわかってる」
ギルマスには全て見透かされているようだ。これは敵に回してはイケナイ人物だ。
しかし、ギルマスがドラゴンってのは、合点がいった。黒狼が街の近くまで来てるってのに、駆けつけた人数少ないなって思ってたんだよ。ドラゴンのギルマスいたら人数要らんわね。
「俺がここの支部長兼ギルマスをやってることは、おいおい語るとして、取り急ぎさっきの黒狼の話だ」
そう言えば、シルバーウルフはギルマスがエンシェントドラゴンってわかってたのかな?わかってたから、ギルマスに話をしたのかもしれないな。それにしても、めっちゃシルバーフェンリルに媚び売ってなかったか?
「…フェンリルは気位が高いんだ。ドラゴンよりも上位だと思ってるし、下手に出た方が扱いやすいんだよ。…それができるドラゴンだから、こんな事やってられるんだ」
わたしの考えを察したのか、わたしをジトっと見ながらギルマスが答えてくれた。
ゴホンとギルマスが咳払いをする。
「では、先ず見つけた時の話からしてくれ」
ギルマスは魔法具を起動させた。




