(29)ハクマイ試食会
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翌日、約束の時間に冒険者ギルドへやってきた。みんなに分けるために、エルラインは昨日せっせと作業してくれた。わたしは炊飯器(魔法具)でご飯を炊いたけど、みんなの分作るわけに行かないので、鍋で炊く方法をエルラインに伝授した。みんなにはエルラインから教えることになっている。
ギルドに入り、キョロキョロしていると、アネッタが声をかけてきた。
「待ってたわよ。みんなもう揃ってるわ」
いつものギルマスの執務室に案内された。
執務室に入ると、白狼の牙のメンバーがいた。あれ?オクトーも居る。昨日、オクトーは胡椒の話にいなかったけど。エルラインを見ると、
「念の為全員分用意しましたので」
すました顔でそう言った。
「わざわざ悪かったわね」
ゴキゲンなギルマスが、着座を勧める。オクトーは立っている。
「じゃぁ、早速」
わたしは、空間収納から袋を次々出した。
「なっ?!」「えっ?」「!!」「やっぱりユーミさんは凄いです!」
あ。白狼のみんなは空間収納知らないんだった。しまった。
気を取り直して、袋の1つを開けて、エルラインが中身を説明する。
「この大きい袋が、『白米』と言う物です。炊くと昨日のものになります。ワイバーンのお肉も少し入れておきました。それから、この小箱に入っているのが」
小箱の中には小さい陶器の壺が3つ入っている。
「胡椒、ワサビ、柚子胡椒です。大袋、米袋、陶器の壺には時間停止、さらに大袋には軽量化も付与されて居ますので、持ち運びにはご注意を」
「ええっ?!付与ってこの入れ物魔法具になってるの?」
「ただで貰うわけにいかなくなった…」
「その上ワイバーンの肉まで…」
「こっちが世話になってるのにもらうわけには…」
「いくら払いましょうか…」
「この大袋だけでどれだけの価値があるかしら…」
エルラインが説明すると、パニックになってしまった。腐らないようにとか、重くないようにとか、せっかくだから肉もなんて思ったのが間違いだったのか。一人だけ皮算用してる人がいたけど。
パシッと言う手を叩く音に、みんな驚いて黙った。エルラインがみんなを大人しくさせたようだ。
「この土産は、ご主人様がお世話になった皆さんへの感謝の気持ちと、少々規格外な我々の事を他言しないでくださった、ご配慮へのお礼です。お気になさらず、受け取ってくださいませ。そうでないと、ご主人様のお気持ちが無駄になってしまいます」
エルライン、なかなかやるな。感謝とかお礼とか言ってるが、今後も私たちの事の口止め料も入ってると匂わせ、受け取りやすくすると共に、釘を刺している。
「そうまで言われると、受け取らないわけに行かないわね」
ギルマスはふぅっと息を吐いた。「ありがたく戴くわ」そう言って、袋の1つを受け取った。
ギルマスが受け取ると、次々みんなも受け取り始めた。
「ありがとうございますですっ!」「本当に嬉しいわ」「ウマイ飯が楽しみだよ」「いい旅が出来そうだ」「ありがとう。袋は返さなくていいのよね?」「ありがとな。妻にいい土産ができたよ」
一人、袋売る気満々な副ギルマスが居たが、みんな喜んでくれたようで良かった。
「ここのキッチンを貸してくださったら、白米の炊き方を伝授しますが」
エルラインが提案すると、アネッタが二つ返事で了承した。
アネッタに連れてこられたのは、家庭科室のような、お料理教室のような、広い部屋にいくつもコンロやシンクが設置されている部屋だ。
「ギルドにこんな部屋があったのね」
わたしは感心して言った。
「街に有事があったとき、炊き出しする為とか、ポーションを量産するためとか、冒険者が携行食を作るために貸し出したりとか、色々用途はあるのよ。商人ギルドの方が、大きい部屋があるわ」
なるほど。有事の際はわかるが、冒険者が携行食を作るためってのは、思いつかなかったな。宿に泊まってたら作れないもんね。
エルラインは真ん中のコンロで、作業を始める。
「まず、袋の中にこのカップが入っています」
木で作った、米用の計量カップだ。
エルラインは計量の仕方、洗い方、浸水、水加減、火加減などわかりやすく教えている。
わたしは離れたところで座りながらお茶を飲んでいる。
「炊いている間、決してフタは取ってはいけません。『初めチョロチョロ中パッパ、赤子泣いてもフタ取るな』これは白米を炊いているときの言葉です。チョロチョロとかパッパとは鍋の中から聞こえる音を示しています」
エルライン、わたしが言ったことを忠実に話してるわね。
エルラインの言葉に、みんなフンフンと、真剣に聞いている。みんな同じタイミングで頷くので、見ていて面白い。
「しばらく待ちます。座ってお待ちください」
みんなは、やれやれと近くの椅子に座る。エルラインがすかさずみんなにお茶を淹れる。わたしのお茶も替えてくれた。デキる女、エルラインね。
「あのウマイ、ハクマイが出来るまでには、なかなかコツがいるんだな」
ザックが感心したように言った。
「でも、そんなに難しいコツでも無かったわ」
「火加減とフタに気をつければ出来そうだ」
マリアとジョーイも頷く。
「今度、野営でも炊いてみるです」
リンはやる気だ。
「ユーミ、このハクマイは、どこで作られているの?種は手に入るかしら?」
アネッタは冒険者ギルドの副ギルマスなのに、金になることへの執着が凄くないか?
「わたしは里から出てきたばかりだから、他の場所で栽培されているかはわからないわ。それに、白米を作るには大量の水が必要だし、炊き方以上に育て方にコツが必要よ。だから、種を手に入れたとしても、知識のない人間に栽培は難しいわ」
わたしがそう言うと、「そうなのね」と考え込んだ。
稲は上手くやらないと、すぐ病気になるからね。土作りも大変だしね。種はすぐ手に入るけども。
「そろそろいいでしょう」
エルラインが火を消した。
「このまましばらく蒸らします」
「まだフタを開けないのか?ハクマイってやつは光が苦手なのか?」
ザックが面白いことを言っているが、蒸らしは大切。
ご飯炊けたら、おかずが居るよね。なんか作るか。
クリエイト、塩昆布、椎茸昆布、鮭そぼろ、海苔の佃煮、肉そぼろ
『クリエイトします』
わたしが言ったそばから、空間収納へご飯のお供が出来上がっていく。
わたしとしては、納豆とか明太子とか出したいけど、この世界の人にはハードルが高そうなのでやめておく。
ご飯が炊き上がった。カニの穴もあるし、ふっくら粒立って美味しそうだ。
「試食をしてみましょう」
部屋にあった食器を借りて、ご飯をよそう。モチロン、エルラインが。
ご飯のお供も出す。
「白米によく合う珍味だから、食べてみて」
わたしが陶器の壺に入れた各お供を出すと、
「ウマそうな匂いはしてるけど、全部なんか黒いわね」
ギルマスに指摘された。文句言うなら食べんでいいぞ!
各壺には木の匙を入れておく。塩昆布と椎茸昆布はフォークだけど。
「この黒いインクみたいなやつ、めっちゃハクマイに合う!」
「…マリア、それは海藻の海苔ってやつをメルべのタレで煮詰めたのよ」
「確かにメルべだわ」
結局、みんな、全てのお供を美味しそうにご飯とかき込んでいる。
「ユーミ、この珍味を売る気はない?」
アネッタさん、商魂たくましいですね。
「これは、里からあまり持ち出せなかったし、海の物を使っているから、手に入りにくいの」
「…残念だわ」
目に見えてがっかりしている。
「全体的に、白米はメルべのタレと相性がいいから、メルべを使ったものと一緒に食べてみて」
わたしがそう言うと、みんな、なるほど、と喜んでくれた。
みんな、あっという間にご飯を食べ尽くした。寧ろもっと食べたいと名残惜しそうだ。
「ユーミさん、これからどうするんですか?」
リンが尋ねる。
「そうね、明日にはここを発って、次の街に行こうと思うわ」
「明日?早いわねもっと居てくれてもいのよ?でも、フォローが大変そうだから、定住は遠慮するわ」
ギルマスは無視する。
「明日発つなら、一緒に行きませんか?」
リンがキラキラした目で見てくる。
うーん面倒くさいなぁ。エルラインと空飛んでいけば、1日で行けるんだけど。
「ちょっと考えさせて」
わたしがそう言うと、リンはがっかりしていたけど、「明日、発つ前に声をかけてくださいね」と、諦めてないようだ。
どうするか、エルラインと相談しよう。




