(21)ワイバーンのお値段
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「みんな聞いて頂戴!」
扉の向こうから、ギルマスが冒険者に向けて話すのが聞こえる。ギルマス声に、ざわめいていた冒険者達が黙った。
「たった今報告を受けたわ。エダの森を通りがかった高レベルの冒険者が、ワイバーンを倒してくれたらしいの」
それを聞いた冒険者達がまた騒ぎ出す。「通りがかりでワイバーン倒すってどんなやつだよ」「せっかくの稼ぎ時をじゃまされたじゃねーか」「ひゃー助かった。ワイバーンとか無理すぎ」
冒険者達の感想は各々違うようだ。
「ワイバーンは討伐を見た(した)冒険者(本人)の話を聞いて、兵士が(ここで)確認したので、間違いはないわ。ワイバーンの素材は既に(マジックバッグで)運ばれてるので、(後日)解体されるわ。集まってもらってありがとう。脅威は去ったとみんなに伝えてちょうだい」
うまい事大事なことは言わずに、嘘をつかずみんなに話している。ギルマスさすがだ。ガヤガヤしながら、冒険者たちが去っていくのがわかる。
「ユーミ、アナタは銀級に昇格。エルラインも鋼級で身分証明書を作るわ」
ギルマスは執務室に入ってくるなり、そう告げた。
「え?でも、銀級になるには推薦とか試験とか必要よね?エルラインが鋼級になるのも試験が…」
「この手紙には、コレールのギルマスと白狼の牙の推薦がされているとあるわ。銀級昇格にはワイバーンを無傷で2頭倒せば十分よ。エルラインもね」
ギルマスは、はぁーっと溜息を吐いた。
「アナタたちには討伐報酬として、白金貨3枚支払われるわ。それで、素材の方なんだけど…」
ワイバーンの肉は美味しいらしいし欲しいかも。革とかも何かに加工できればいいなぁ。
「1頭分は全てもらいたいけど、後の2頭分は買い取りで」
わたしがそう言うと、ギルマスは引き攣った顔をしながら言った。
「…違うのよ。あのワイバーンはキレイすぎて、1頭買い取るのがやっとよ。冒険者達がみんなで倒せば3頭いても買い取りできたでしょうけれど。オークションに出すとか、錬金術協会や魔法師協会、商人ギルドに売れば、もっと高くつくかもしれない」
…なんか、同じような事をコレールでも聞いたな。
「それは、買い取りたくないってことかしら?」
「そうじゃないわ。ここで売ってくれれば冒険者ギルドの貴重な収入になるから助かるわ。でも、強要は出来ないってことよ」
「ここで買い取ってもらったとしたら、1頭でいくらになります?」
わたしがそう言うと、副ギルマスがギルマスに何やら見せて、ギルマスが頷く。
「ワイバーン1頭で水晶貨10枚で買い取るわ」
「…」
わたしが処理落ちしてしまった。水晶貨って1枚1000万円だったよね?って事は、1頭いちおくえん??
「…ごめんなさい。そんなに高値とは思わなくて」
「無傷のワイバーンの素材なんて、市場に出た事なんて無いのよ。傷だらけのドラゴンより価値は上ね」
ドラゴンより価値があるなんて、どんだけだよ。
「ただし、この値段は魔核以外の見積もりよ。魔核の代金は白金貨50枚は覚悟してるわ。魔核の状態によっては更に上がるかもしれないわね」
全くやべぇヤツを倒してしまったよ。でも、解体はしてもらいたいし…よし。
「じゃぁ、魔核の代金は要らないので、一体別で解体してもらえるかしら?」
「…それでいいの?」
「迷惑かけたみたいだし、それでいいわ。ワイバーンの代金は、わたしの口座に振り込んでもらえるかしら?討伐報酬の内、白金貨2枚はわたしに、1枚は大金貨でそのまま貰うわね。白金貨1枚はエルラインの口座に振り込んでちょうだい」
わたしがギルマスにそう言うと、エルラインが驚いて目を剥く。
「ユーミ様!わたくしに報酬など必要ありません!」
「何を言ってるの。これは正当な対価よ。貴方は奴隷じゃないんだから、貰わないといけないのよ」
わたしがエルラインに言うと、ギルマスもうんうんと頷く。
「奉仕精神は立派だけど、報酬を拒否することは主に失礼に当たるわよ」
わたしとギルマスの説得に、エルラインは渋々了承した。
「取り敢えず、一体だけ出して貰うわね。一気には無理だし、痛むから」
話はまとまったので、また倉庫に戻り、ワイバーンを一体出した。
「…頭が潰れてるやつで」
ギルマスが怖気づいた。
まぁ、いい。頭が潰れてるヤツをだした。
「…これでもヤバイくらいキレイなんだけどね。内蔵も無傷だろうし、錬金術協会、薬師協会、魔法師協会、商人ギルト…うふふふ」
ギルマスが皮算用に没入して気持ち悪い笑いをしている。何か、意地悪したくなって来た。
「…商人ギルトは買わないかもね。わたし近々登録するつもりだから」
わたしがそう言うと、ギルマスはワイバーンを見ていた顔を、ギュインっとこっちに向けた。
「どういうことっ?!」
ち、近い…
「元々、ポーションとか薬の店を出すつもりなのよ。冒険者は素材を取りに行く為になっただけよ」
わたしがそう言うと、ギルマスはふらっとよろけた。
「アナタたちほど腕の立つ冒険者が、冒険者をやらないなんて…。っいうか、素材!お願いだから商人ギルトに卸すのは待ってくれない??」
更に詰め寄って来た。エルラインさん、ぐーはしまって。その、蹴りそうな足も。
「冗談よ。商人にはなるけど、ワイバーンの素材を商人ギルトに卸すつもりはないわ」
わたしがそう言うと、ギルマスはホッと肩をを降ろした。
「んもぅっ!意地悪言わないでちょうだいっ」
オネェだけど、元々の造形がいいので、膨れた顔は可愛い。
「ゲインとエバンに気に入られるくらいだから、よっぽどだと思ったけど、なるほどなかなかの根性してるじゃない」
ギルマスがフフンと笑う。ゲインとエバンって誰だっけ?
ギルマスは、わたしの目が泳いだのに気がついた。
「まさか、コレールのギルマスと副ギルマスの名前忘れた訳じゃ無いわよね」
あ。
「…そんな訳ないじゃない。ゲイン達とは知り合いなの?」
「何だか誤魔化された気がするけど。いいわ。ゲイン達とは同じパーティーではないけど、同時期に活躍した冒険者同士なの。共闘したこともあるのよ」
昔なじみってことか。
「大事なことをいい忘れていたわ。ワイバーン、討伐してくれてありがとう。今ここの街に居る冒険者達だけでは、無傷で帰る事が出来た者は少なかったでしょう。命を落とす危険もあったわ。報酬が無くなったなんて、虚勢を張っていたヤツもいるけど、みんな内心死ぬかもしれないと覚悟していたのよ」
「お役に立てたならよかったわ」
「ええ。本当にありがとう」
ギルマスはわたしたちを見つめて、一人ずつぎゅっと握手した。
「解体には3日はかかるから、3日後にもう一体出しに来てちょうだい。買い取りも3日後になるから、報酬もその時でいいかしら?」
「ええ。問題ないわ。ところで、いい宿を紹介してくれるかしら?」
「それなら任せて。宿代はギルドで持つから、好きなだけ逗留して」
さっきと打って変わって、ニッコニコのギルマスだ。宿は奢ってもらえるようなので、お言葉に甘えよう。
副ギルマスのアネッタに伴われて、冒険者ギルドを出る。既に外出禁止が解かれたようで、人が行き交っている。
やっぱり活気のある街だったんだね。アネッタに宿まで連れられている間に、そんな事を考えていた。




