飲める苦さに苦笑いってやつ
黒曜さんの自宅に行って事情を聞いて話してとかするとなるとフォーマルな格好じゃないと示しがつかない。
どうやら黒曜さんは家へ帰りたくない様子だし、かと言って無断で置いておくとおまわりさんの厄介になりかねない。
「でもちょっと待ってね」
「はい?」
黒曜さんは今すぐ行くと思ったのか、食べるペースを少しだけ早めていた。
「ゆっくり食べな」と言い、私も腰を下ろす。
普段と違うことをするのは体力と、精神力を使う。
「準備しないと……ふぅ」
ため息をついて珈琲を1口飲む。
高級豆なだけあってちゃんと珈琲自体の苦味は残しつつ、少しの香ばしさと苦味と調和する酸味に心落ち着く。
「あ、あの……」
「どうした?」
「ご、ごめんなさい。お疲れ、ですよね」
黒曜さんがモジモジしながら俯きがちに、遠慮がちにそう口にした。
彼女からしたらそりゃ、気を使うか。
無理もない。けど、なんと言うか甘えを知らない気がする。そういう事が出来ない環境にでもいたのかもしれないな。勝手な憶測だけどそんな気がした。
「そうね、疲れてるけどそれでもね優先して動かないと行けないことがこの世にはあるよ」
「…………」
黒曜さんは俯いた。攻めてるように聞こえたのだろうか。まだまだお互い理解度が低い。
これでは黒曜さんの親に何を言っても信じて貰えなそうだなと考える。
「黒曜さんはまだわがままを言う歳よ。甘えなさい」
という私も口下手だ。本心や伝えたいこととは違うことになって言葉にしてしまう。
なさいって、偉そうに。
それでも黒曜さんには何かしらが伝わったようでグッとカップを傾け珈琲を飲み、あどけなさの残る顔に驚きが現れて、勢いよく私と目を合わせた。
「はい。あ、あのっ!」
「ん?」
「珈琲、この珈琲なら飲めます!」
珈琲を飲んでくれた事も嬉しかったけど、何よりも感想を言ってくれたことが嬉しかった。
友だちと言うには遠い距離感でも、確かに近づいた、そんなきがした。
「美味しぃ?」私が問うと「でもまだちょっと苦い」と言って苦笑いをしたのだった。




