運命ってやつ
「あ、新刊発売日……」
夕暮れに染まる街。仕事終わりにふと思うのは、好きな人……のことなんてことは無く、好きな小説家の新刊の事だった。
我ながら華の無いとは思うけど仕方ない。
そういう風に生きてしまっているのだから。
「っ!あーーー!今日サイン会だったじゃん!」
そして、唐突に思い出した。
滅多にというか、全く顔出ししない、年齢不詳、性別不明の素性が全く分からない天才作家。
私の好きな作家で『季節 終』。
そのサイン会が今日で、仕事終わりの時間で間に合うって考えていたのに!
くっそ、あのクレーム客め!次会ったらぶち殺してやる。
最近はあれこれ任され過ぎて好きな事を考える暇すらなくって忘れてしまっていた。
学生の頃の私が現状を見たら絶望してそうだ。
「あーあ、今から行ってももう終わってるだろうな」
かなり、悔しい思いをしながら帰路に着くことにする。
駅周辺が、尋常じゃない人が集まっている。
なんなら、警察も出張ってきてる。
「何かあったのかな」
遠目からめんどくせぇな、と思っていたら、いきなり袖を引っ張られた。
「えっ、なになになに!」
服を引っ張るその人物を見ると、年端も行かない子供だった。
どうして、この時、この子は私を選んだのだろうか。
理由があるにしろ、無しにしろ、私の運命が1つの才能に巻き込まれた瞬間だった。