大腸から追放されて、今から排泄されるゴボウだけど、腸の調子がおかしい。
「ゴボウ、お前は体の消化に悪い不純物だ。この大腸から追放する、さっさと肛門から外に出るんだな」
――あぁ、またか。
俺は、もう心底うんざりしていた。
食道、胃、小腸、十二指腸、……今まで通った器官、全てで追放を言い渡されていたのだ。
それが最後の最後、大便として、排出直前の大腸にまで罵倒されるのは笑えない。
俺が、お前のガンの予防に効果があるかもって言われているのを知らんのか?
「なんだその顔は?文句があるのか?糞にも成れない半端者が!!どの器官もなぁ!お前に長時間居座られて迷惑していたんだよ!これだけやっても、見た目変わってねぇじゃねぇかお前!」
「……先に出ていった、コーンだって見た目変わってないだろ」
「黙れ!!!」
脈打つ大腸。そんなに急激に、ぜん動運動を起こすなよ。
下痢になるぞ。
しかし、やれやれ……感情論か。まぁ確かにコーンの野郎はコンパクトで肛門を傷めないし、元が種子だから、同情的になる部分もあるのだろうな。喰われたのが、人間でなければ何処かで発芽できたもしれないわけだし……。そういえば、マヨネーズの奴は何処で消化されたのだろうか?あいつは、マジで一瞬で消えたな。
――あぁ、本当に損な役回りだ。そりゃあ、俺は食物繊維が多いから、消化には悪い。だからと言って体にも悪いわけじゃないんだ。
ゆっくりと消化される事で、この人間の血糖値の急激な上昇を抑えてやったし、老若男女問わずバカうけのポリフェノールだって豊富に含まれている……。なのに、この人間が大量に俺を摂取した事によって、いわれない罵倒を受け続けてきた。大体もっと小さく切っておけっつうの!デカ過ぎるわ!消化の良いニンジンと一緒にしてんのか?あと、ちゃんと口の中で噛めよ!あれじゃどんなもん喰っても意味ねーだろ!
――ダメだ、だんだん腹が立ってきた。最後に、俺の一番の効能でこの体を分からせてやる。
□
先ほどから脈動を繰り返していた大腸が、ついに異変に気付いたようだ。
「……なんだ!?何故、ぜん動が止まらんのだ!!おい!大脳は何を考えている!!漏れるぞ!!」
脂汗流して震えても、もう遅い。
やれやれ……種明かしをしてやるか。
「大腸よ、俺の周りを見てみろ」
目を見開き、さらに激しく脈打つ体で、震えながら腸壁が便に包まれた俺に近寄ってくる。
「なっ!?」
驚くのも無理はない。
触れて初めて気づいたのだろう。俺の周りの便の、その殆どが、ヌメリとした水分であった事を。
俺の最強の効能「軟便」を前に恐怖を感じているに違いない大腸の顔が歪む。
「こっ……こんなに便を柔らかくして、貴様どういうつもりだ?」
「……下痢に決まっているだろう。喰い過ぎだ、馬鹿が」
絶望の表情を浮かべる大腸。もうぜん動運動が止められないことを悟ったのだろう。
いい気味だ。
「お前は分かっているのか!こんな場所で糞を漏らしたらどうなるか!!」
「知らねーよ。追放だって言ったのはお前だろ」
「くっ……頼む今は……今はまだっ! はうっ!」
加速する脈動がついに臨界に達したのだろう。直腸から肛門までの道のりが一直線に開いていた。
青白い顔をして、膝をがくがくと震わせている大腸は、無様で見るに堪えない。
もう、こんな場所に未練はない、俺は大量の下痢便と共に外に出ていくだけだ。
「じゃあな。お前の主が、望んだ結末だ」
「やめろ!おい!待ってくれ!ここはパッ――」
大腸の断末魔の叫びは、激しいうねりと便の奔流にかき消された。
腸内の老廃物を巻き込みながら俺は進む。最後に全部綺麗にしてやるか、それも役目だし。
しばらくして、見えてきたのは体内最後の砦、肛門括約筋。
あーあ、内門も外門も完全に開き切っている。俺を止めるすべはもう無い。止まる気もないけどな。
俺は、おおよそこの世で最も汚く一つの救いも見出せない、「ブボッ!」という大量に水分と空気を含んだ、恥ずかしい音と共に体外に排泄された。
視界が悪いな、まだ排便も止まってないし……あっ。
ここ、パンツの上だわ。
便秘で大分溜まっていたから臭いだろうなぁ、まぁこの教訓を活かして、次は量を考えて食べてくれると良いが……。