序章
『グラディウス』
その名を知らぬ者は居ない神話の英雄の名。
曰く、『グラディウス』は剣技に優れていた。
曰く、『グラディウス』は魔法に愛されていた。
曰く、『グラディウス』は最強であった。
そう語り継がれる『グラディウス』の伝説。それらは決して間違いではない。
何故なら、『グラディウス』は今でも最強として存在している。
それは、神話の英雄『グラディウス』の血族の総称として。
そして、『グラディウス』の血族は皆、人類最強の者の集いである。
そんな中で、私は『グラディウス』の直系にして、三大国家の一角である『グラディウス王国』の第一王女として、生を受けた。
私は、レイシア・ルウ・グラディウスと名付けられたが、今ではその名を呼ぶ者は誰も居ない。何故なら、私は『グラディウス』の欠陥品と呼ばれているから。
そう、欠陥品。
私は、剣にも魔法にも興味が無かった。もっと言ってしまえば、争い事が嫌いなのだ。
だから、欠陥品。
『グラディウス』において、否、全種族にとって向上心の無い者は疎まれる。
何故ならば、この世界は力こそが正義であるから。
私は、そんな中では異端でしかなく、また別の理由でも忌み子と呼ばれる以上、居場所など無い。
だから、これも想定の範囲内でしかなかった。
「レイシア・ルウ・グラディウス」
冷淡に紡がれる自らの名を、私はただ頭を垂れて聞いていた。
ここは、『グラディウス王国』王の間。その玉座に鎮座するのは、私の実母であり、この国の女王、シーラ・グラディウス。
「其方にファリシオン王国への無期限の遊学を命ずる」
それは、事実上の追放処分。その命令に、私は静かに目を伏せた。
「女王陛下の仰せのままに」
努めて冷静に吐き出した声は、何処か寂しげに聞こえた。