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063 旅の記憶[9]

「それで、その奴隷の人はどうなったの? まさか裏奴隷なのをいいことに……」

「んなわけねぇだろ!」


 私達のため息などどこ吹く風で、ポールの探しているという奴隷の話を聞こうとするミズキ。しかしその目は若干軽蔑の表情がこもっていた。

おそらく貴族のイメージのように、彼には奴隷というものにも何かしらのイメージを持っているのだろう。それはもう悲惨なイメージを。


「んじゃその救済処置的な制度を使ったって事かな?」

「あー……。結果から言えば、俺は奴隷登録しにいかなかったな」

「……」

「そんな目で見るなっ! そん時は色々あったんだよ!」


 あまりにも冷ややかな視線に、あわあわと焦るポール。そんな騒ぎに、黙々と歩みを進める馬のハロンも少しこちらを振り返った。それにすら慌てるのだから、面倒事があったのは想像がつく。


「いいでしょう、言い訳を聞きましょう。それから裁判長に判決を言い渡してもらいましょう」

「誰が裁判長よ」

「なんだ? 夫婦漫才か?」

「そういうのはいいから。私にかまわず続けて」

「あー、でですね裁判長。私は奴隷を売ったのであります」

「だからそういうのはいいから」


 話しにくい事だからと、私をネタに使いながら進めるのはやめて欲しい。

周囲の警戒で集中力を持っていかれてるのに、緊張の糸が切れてしまいそうだ。

そもそも私が裁判長だったとして、彼の元居た世界がどうであれ、こちらでは奴隷は登録さえすれば合法だ。そして「わざと登録しなかった」場合のみが違法なのだから、奴隷を拾っただけの彼が有罪になる事は無い。もちろん登録前の売買についてもだ。


「それで、奴隷を売った?」

「あぁ、ちょっとした事で知り合った奴が買いたいって言ってな……」

「薄情だなぁ……」

「いや待て! 話を聞け! 相場の10倍以上だぞ!? 日銭を稼ぐ冒険者に断れる訳ないだろう!?」

「裁判長、これは有罪ですな?」

「セーフよ。黒に近いけれどね」

「マジ?」

「えぇ。奴隷登録前の売買は禁止されていないし、その時の売買金額で登録されるもの。

 その後買主が登録しなかったら有罪だけど、その場合も売主は罪に問われないわ」

「へー。さすが裁判長、お詳しい!」

「はっ! 誰が裁判長よ!?」


 なんだかんだミズキのペースに呑まれてしまっていた。

まぁ、話の内容自体は間違ってないし、冗談にいちいち怒るのもバカらしい。


「はぁ、まあいいわ。それでその奴隷を探しているのはなぜ?」

「あぁ……。その時はさ、これで冒険者なんて危なっかしい仕事しなくていい、毎日飲み歩いてられる、なんて思ってたんだけどさ……。仕事してねぇと人間ダメなんだな。余計な事考えちまう」

「余計な事?」

「俺が売ったせいでアイツがひどい目に遭ってるんじゃないかって、今も拾った時みたいいに……。

 いや、それ以上に苦しめられているんじゃないかってさ」

「後悔してるのね?」

「……。だから俺は残った金で馬車を買って、アイツを買い戻す金を貯めるために商人やってんだ。

 それに行商人なら世界を巡る事ができるだろ? 探す事もできるし、一石二鳥ってモンよ」

「そっか……。見つかるといいね」

「あぁ。どれだけかかったとしても見つけてやるさ。なっ、ハロン!」


 声を掛けられたハロンは、鳴く事はなくただその青い尾を振って応えた。


「それなら私達も人探しで世界を回る予定だし、どんな人か聞かせてもらえるかしら?

 見つけたら商人ギルドを通して伝えてもらうようにするわ」

「……。いや、これは金に目がくらんだ俺への禊だ。だから頼る訳にはいかねぇよ。

 それに恥ずかしい話だが、俺は名前も聞かないまま別れたんだよ。だから手掛かりがな……」

「そっか、それは写真でもないと俺たちじゃ探しようがないねぇ」

「写真……?」

「あっ、こっちの話」

「そっ、それじゃぁこっちの人探しを手伝ってもらえないかしら?」


 ミズキがまた何か面倒な事を言い出した予感に、図々しいお願いを提案する。

話を変えるためだが、この際医神アスクの捜索を頼んでしまおう。


「あぁ、あの名前だけは有名な医者の捜索だな? でもどんな奴なんだ? 名前しか知らないぞ?」

「えぇ。私は6年前に会った事があるの。その時に印象は……。男の子だったわ」

「ん? 男の子? あの有名人が?」

「えぇ。朱色の髪の男の子。たぶん私より3歳か4歳くらい年上かしら?

 あ、という事はミズキと同い年くらい?」

「俺17だよ。3歳年上なら1コ上だね」

「……」


 ポールはその話に黙って険しい顔をしている。そして重々しく口を開いた。


「6年前って言ったよな? ソイツは一人だったか? 例えば……、姉がいたとか」

「姉? うーん、一人だったと思うけれど……。どうして?」

「いや、考えすぎだな。だいたい都合が良すぎる。気にしないでくれ。

 しかしあれなんだな、医神ってのは世襲制なのかねぇ?」

「確かに。俺と同い年くらいで医神の異名を持つのも異常だけど、その当時からなんだもんね」

「情報が少なすぎて確かな事は分からないけれど、想像するに彼の技術は一子相伝の秘術なのかしらね」

「それなら納得……か? まぁいい。それっぽい人捕まえたら魔導士ギルドに報告するよ」

「ありがとう、助か……」


 言いかけたその時、私の目はまだ遠くにある何者かの影を捉えた。


「何か居るわ、警戒して」

次回は6/12(金)更新予定です。

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