↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
52/139

051 元神官とチョコレート

 異世界人だと発覚した元神官ハシミを、森の精霊メシアは固唾を飲んで見守る……。状況の説明としては正しいが、やっていることはただのお菓子の試食会だ。

しかし異世界人なら馴染みのある菓子だからといって、ハシミにその違いというものが分かるのだろうか?

異世界の事情は知らないが、こちらでは菓子は高級品で贈答用や来客時に出す時くらいしかお目にかかれない。なんのためらいもなく食べた事から、彼は異世界でも相当の地位に居た人なのだろうか。


 そんな事をぼんやりと思っていれば、あまりの反応のなさに、何か言いたげなうずうずとしたメシアの魔力の色が流れてきた。しかしハシミの反応はない。もしや本当に失敗作だったのだろうか……。


「どうなのよ!?」

「……」


 ハシミは何も答えず俯く。そしてほろりと一粒涙を落とした。


「えっ!? 何!? 泣くほどなの!?」

「いえ……、失礼いたしました。こちらのチョコレート、非常に良くできておりますよ」


 ハンカチを取り出し涙を拭う彼だが、どうにもその心の内が読めなかった。幻術士である私が相手の心情を読めない時、それは妨害の術が掛けられている時、もしくは本人すら言葉にしづらい感情……。つまり混乱や感動、もしくは憤怒といった感情が昂り過ぎた時だ。


 よく出来た菓子という評価。たとえ感動したとして、美味しいものを食べた時の感情の昂り程度で読めなくなるとは考えづらい。それに評価を下せるほどに冷静さを持っているのならなおさらだ。


「何か気になる事でもあったんですか?」

「いえ、お気になさらず……。少し元いた世界を思い出しましてな……。

 昔、孫と一緒にチョコレートを分け合って食べたなと……」

「お孫さんがいらしたんですね。離れ離れになって寂しいですよね」

「……えぇ、そんな所ですな」


 彼の言葉選びに違和感を覚える。「そんなところ」とは、実際は少し異なっていると言うことだ。そして落ち着いてきた彼の出す魔力の色は、寂しさだとするならば少しばかり哀愁が深かった。

けれど彼が詳しく話すつもりもないようだから、私は触れない方が良いと考えたのだ。


「メシアさん、彼が昔を思い出すくらいですから、完成度はかなり高いと思います。

 やっぱり期待しすぎてしまったせいではないでしょうか?」

「そうよねぇ……。ちょっと残念だけど、でもちょうどいいわ。

 今度お父様がいらした時、お出しするために取っておきましょう」


 そう言いながら彼女は二つ減った箱の中身を整え蓋をし、どこからか取り出した深緑の布で包む。すると包まれた箱はふわりと宙へと浮かび、そのまま景色に滲み込むかのように姿を消した。


 それは彼女が人間臭い言動とは裏腹に、森の精霊としての力を持つ事を再確認させられた。

精霊にとって「とっておく」とは、亜空間かもしくはそれに類する場所へと隔離する事なのだ。人間である私達には到底真似できないことである。


 同時に、そのような力を持つ精霊の言葉の中に出てくる人物が気になった。彼女に「お父様」と呼ばれるそれは、少なくとも精霊より上位の存在であろう。

ただの興味が大部分ではあるが、どのようなものであるのかを知りたくなったのだ。何より精霊メシア自身が「話したい」という色を放っているのだから、ご機嫌とりも兼ねて聞いてみることにした。


「あの、度々出てくるお父様ってどのような方なんですか?」

「ふふっ、よくぞ聞いてくれました!」


 その瞬間森は冷たい静寂に包まれる。先ほどまでの鳥のさえずりも、木々のささやきもピタリと止む。そして周囲には気まずい魔力が立ち込める。

声にならぬ声たちの意識を読めば「余計な事を聞くんじゃない」と言っているように感じ取れた。

しかし時すでに遅し。精霊メシアは長く永い「お父様自慢」を始めようとしていたのだ。



 ◆ ◇ ◆ 



 それは遠い昔の話。まだこの世界に魔物も、魔族も、魔王も居なかった頃の話。世界には人間と動物だけが居て、人々を脅かすものは存在しなかった。

けれど彼らには明確な“敵”は居た。それは他でもない同じ人間だった。


 今は魔界と呼ばれる魔族の地。その地には遠い昔、巨大な帝国が存在していた。領地を拡大し続け、土地だけでなく人々を支配する、肥大化しすぎた組織。

それが当然のように、目の前にある全て、世界全てを飲み込まんと楯突く者たちを切り捨て、そして広がりゆく。


 だがその動きは自然の前に足止めをくらう。切り立った崖の海岸線が続く、一本の水の線。その海は海岸線が崖であり、そして海流も激しかったため超える事は不可能だった。そのため隔てられた先の小さな王国群は滅亡を免れていた。

しかしその青い線は、完全に両者を隔ててはおらず、帝国は線の切れ目を目指し侵食し続ける。

そして帝国と王国の接する大地は、戦火に呑まれた。


 しかしそこで帝国は思いもよらぬ抵抗を受ける。共に帝国を打ち倒さんと、弱小王国群が手を取り合ったのだ。この地を越えさせては帝国を止める事ができなくなる、その危機感こそが王国を連合国へと変容させたのだった。

だが、その結果戦火は一向に収まらなかった。大地は荒れ果て、多くの命がその地に沈んだ。そしてその者たちの無念は、大地に呪いをもたらした。全ての生きとし生けるものへの害意。それは人も、動物も、木々や草花さえも生きる事を許さなかった。


 血を吸い、荒れ果て、命の存在を許さぬ地。それはいつしか広大な砂漠へと変化する。

帝国も連合国も関係ない。立ち入ることのできぬ地、それは皮肉にも両者を隔てる壁となり、争いを集結させたのだった。


 ひとつの小さな種が空を舞う。風に乗り、鳥と共に空へと舞った小さな種。

何の因果か、もしくは運命か……。種は死の砂漠へと降り立った。

それが後にメシアと呼ばれる事になる、不幸の種だった。

次回更新は4/29(水)の予定です。



以下雑記



ちょっと今回短いですね。いや区切りの前半を前回に入れる予定だったんですよ。

それが長くなったので分割したらこんな感じに……。

いやはや、最近予定通りに進まない事が多すぎて泣けてきますね。

次回もちょっと中途半端になるかもしれないし、この後の調整で変わるかもしれない。

予定は未定。未定ミテイ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。