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047 捨て置かれた依頼

 森の中を私達三人は進む。一通り私の幻術士としての話をしたけれど、まだ目的地にはたどり着くことはないようだ。

だけど話をしているうちに、私がこの森に居た理由についてはうやむやになっていた。少なくともハシミにとっては。


 キュウの魔力を読めば、未だに私がこの森に居た事を怪しんでいる。けれど彼からその事を問いただす様子はなかったので、このまま触れさせないようにハシミに問いかけた。


「ところで、しばらく歩いてるわけだけど、目的地にはまだ着かないの?」

「それなら大丈夫ですよ。この森は『迷わずの森』という別名がありましてな。

 精霊様に気に入られなければ、まっすぐ歩いていても森の外へ出てしまうのですよ。

 つまり森の中に居るという事は、精霊様は迎えてくださっているということですな」


 しかし答えはまるで他人事だ。というよりも、道も知らずにただ歩いているだけのような返答……。

それってただ森で迷っているだけなのでは……。

けれど彼の言うように迎えられているという感覚はある。なぜなら、ここを通れと言わんばかりに道があるのだ。もちろん整備されているわけではない。遮るもののない空間が一本続いているのだ。


 そもそも狼に追われている際も必死で気付けなかったが、その時だって逃げ道を木々に塞がれたりはしなかった。それもまた森の精霊が私を導いたというのだろうか?


「随分と詳しいのね。それに事故とはいえ、森の魔物を倒してしまったのを詫びに行くなんて、普通の冒険者一行にしては律儀というか……」

「あぁ、そういえば言っておりませんでしたな。我らは近隣の村の依頼で来ていたのです」

「それは私から説明させていただきますね」

「そうですな。一応私は部外者ですので、キュウから話してもらいましょうか」


 魔弓士キュウが話に割って入った。色々と交渉などの対外的な事は商人ギルドのお爺さんが行うのだと思っていたけれど、彼らは行動を共にしているもののギルドは別というのもあって、ある程度線引きしているのだろう。


「依頼というのは、あなたを追っていたあの魔物の討伐だったのです。

 村の植林場で度々目撃されており、今まで村の者への被害はなかったものの、知らずに近づいた旅人が被害に遭っているとの事でした。このままでは、いずれ村を襲う可能性が高いと討伐を依頼されたのです」

「なるほど……。人の味を覚えてしまった魔物は危険だもの、当然の判断ね。

 けれど依頼とはいえ、精霊に詫びを入れるのはあなたたちの仕事なの?」

「その点を踏まえて普通なら断る依頼です。被害が出ていると言えど精霊の配下の魔物、討伐してしまえば怒りを買うだろうと……。

 魔物が強い事もあって、受ける者がおらずしばらく捨て置かれた厄介な依頼だったのです。

 見かねたハン、ルッツと共に私が受けることにしたのですが、その上で精霊との交渉役としてハシミさんに白羽の矢が立ったのです」

「え? どうして商人のハシミさんが?」

「彼は元神官でして、その界隈では有名な方なんですよ。

 精霊を相手にするのです、それなりの立場の方でないと務まりませんからね」

「まぁ、現職の神官達が現場に出る事はありませんしな。

 今は商人、冒険者に依頼されれば受けざるを得ませんな」


 なるほど、服装がそれっぽいのも元神官なら納得だ。そして商人ギルドは冒険者ギルドに強く出られない力関係にある。もちろん理不尽な要求なら突っぱねるだろうが、出来る依頼なら受けて恩を売るのは当然の流れか。かなり難易度が高いと思うけれど。


 ただ二人は互いに信頼している関係なのか、そんなハシミの話に「神官を続けていても受けてくれましたよね」とキュウは笑っている。ハシミもまた「どうでしょうな」と冗談めかした返事をするのだから、それなりに長い付き合いなのだろう。


「事情は分かったわ。けれどまだ着かないっていう事は、精霊に歓迎されていないのかしら?」

「どうでしょうな。もしくは我々を試しているか……。ともかくここらで休憩にいたしましょう。

 精霊様がその気にならない限り、歩いていても辿り着かないわけですからな」


 そういってハシミはちょうどいい木の根本へ腰掛け、人数分のハーブティーを用意してくれる。

その時見えた彼の背負うリュックの中身は、さすが商人ギルドの関係者だけあって色々なものが入っているようだ。といっても商品が詰まっているわけではなく、普通に生活しているなら手に入りにくい貴重な物を多く持っているという意味だ。特に旅を便利にする魔道具が揃っていた。

森に入る前に討伐した狼を収納した札も魔道具のひとつだが、それも彼が拠出したものなのだろう。


 それでもやはりよく使う消耗品はそういった高価な保管法を使う事は無い。淹れてくれたハーブティーも、カップはそのまま入っていたし、ハーブも乾燥させたものだ。

唯一使った魔道具は、液体を貯蔵する事のできる水魔法のかかったチャームと、同じく温めるための火魔法のチャームのふたつだ。これらも高価であるものの、使用用途が限られており供給も必要で、使い捨てではないという点から、懐事情に余裕があるなら旅人が使っていても不思議なものではない。


 それでもそのような物を持っている事から、彼らがただの冒険者でない事は確かだろう。

なにより、なんのためらいもなく聖なる森から出てきた魔物を狩り、そしてその森へと向かう依頼を受けた事からも疑いようはない。

そして、ハシミはともかくキュウは魔力を読むことはできても、思考までは読み取る事ができない。それは高度な魔導技術がなければなしえないものだ。


「何から何までありがとう、助かるわ。それにとってもおいしいわ、このハーブティー」


 私は二人がただ者でない事に緊張しながらも、それを表に出す事は無い。といっても、今までの生活でもそうだったのだから変わりはないと言える。魔導士ギルドに居た時だって、周囲の本音と建前を全て知りながらも気づかぬふりをしていたのだから。


 けれど今度の休憩は、ハシミだけじゃなくキュウも少し警戒を解いてくれて居心地が良くなった。少なくとも「見張っているぞ」というメッセージにも似た空気はなくなったのだ。

しかしマティナも心配だし、のんびりしている訳にもいかないのだが……。

次回は4/21(火)更新予定です。



以下雑記



前日に今回の内容分全部すっ飛んでる事に気づきまして……、書きなおしました。

いやね、うん。「人に色々聞いておいて何も自分たちの事言ってないよこいつら!?」

って主人公がツッコミ入れる展開になってたんですね。

読みなおし大事!確認大事!気づいてヨカッタネ。予定狂いまくったけど!!

はい、いつもの事です。もうちょっとしっかりしないとナー。

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