033 見送り
日が出て間もなくの頃、晴れ渡る空の下に私達を見送る人たちが集まってくれていた。実働部隊の面々、そしてギルドの他部署の人たち。その中にはアスカ先生も、司書班のノアさんの姿もあった。
けれどその中に、ミユキさんの姿はなかった。
「帰ってきたら、どれほど強くなっているか模擬戦で見せてもらいますわ。
だから、無事帰ってきてくださいね。あなたはわたくしの一番のライバルなのですから」
「ありがとうロベイア。あなたも元気でいてね」
「もちろんですわ。特訓して、今度こそ勝ってみせるんですから」
「楽しみにしているわ」
ロベイアと私は笑いあう。こんな風になるなんて、学校に居た頃は思いもしなかった。
けれど今は、一番のライバルで、一番の友人だ。別れを惜しむように彼女はぎゅっと抱き着いてくる。
今までもずっと「私の中の一番であればそれでいい」そんな思いが魔力から伝わってきていたが、私は気付いていないふりを続けていた。
そんな私達を見て少し遠慮気味に声を掛ける人物が一人。
「まったく、お前らは仲が良いな。あの試合が嘘のようだぜ」
「ナガノさん、今までお世話になりました」
「おう。頑張って来いよ。んでもって無事帰って来いよ。帰るまでが旅だからな。
無茶はすんな……、つってもお前は突っ走るトコあるからなぁ。ミズキ、お前が止めろよ」
「僕ですか!? うーん、がんばります……」
私の隣に立つ青年、ミズキは困ったように答える。彼が共に旅する人物だ。
前に異世界人達が集まっていた茶屋で出会った人で、本名は橋本瑞樹。彼がこの世界を見て回る目的もあるため、私と二人で旅立つ事となったのだ。
そしてもう一つの、本来の目的が、医神アスクを探す事。
医神アスクとは、魔王不在時にのみ世界に広がる病、魔王の呪いとも呼ばれるものを治療できる唯一の人物である。その行方は基本的に誰も掴む事はできず、さらにどの様な姿か知る者も少ない。
しかし病は着実に広がっており、病の特徴として魔力を多く有する者の方が罹りやすいというものがある。それは魔力の多い者が在籍する魔導士ギルドにとって、魔王以上の脅威である。
そのため、魔導士ギルドは捜索隊を編成し、捜索する事となったのだ。そしてその医神の姿を知る私は捜索隊に志願したのだ。
魔力を多く持つ者ほど罹りやすい病ならば、魔力を持たない私には疾病リスクが少ない。探索隊が病に罹る事はあってはならないので、私の意見は聞き届けられ、こうして旅立つ事になったのだ。
病の特徴はもう一つあり、それは「異世界人は罹らない」という点だ。そこで異世界人からも一人選出する事になったのだが、それは私が志願する前から彼、ミズキに決まっていた。彼の能力であれば旅の安全はほぼ確実に守られ、ついでにこちらに来て間もない彼に、世界の様子を教えるために見て回る事もできるという事だ。
本来であれば、私の立ち位置はミユキさんが担うはずだったのだが、私の立候補により除外された。
それは彼女が冒険者ギルドに登録しているためで、彼女は魔導士ギルドのギルド員であると共に、かなりの高ランク冒険者なのだ。それを魔導士ギルドの都合で動かすのは、冒険者ギルドとの確執を生みかねない。そのため他に候補者がいるのならそちらに……、という流れで私に決まったのである。
ミユキさんが医神アスクを知っている理由、それは魔導士ギルドに入る前、医神アスクと共に旅をしていたからだ。彼女はそんな相手だと思っておらず、いたって普通の旅人だと認識していたらしい。
そして、その旅の途中で私とも出会っていた。けれど私は、ずっとその記憶を失っていたのだ。そしてミユキさんも、私と直接顔を合わせていなかったため、その事に気付いていなかった。
その出会いこそが、黒竜事件である。あの時黒竜を退け、私と父の命を救った人物こそがミユキさんだった。そして獣人奴隷の主人、つまり私に護身術を教えてくれた虎獣人の先生の所有者が彼女だった。
だから先生、名をソーンさんと言うが、彼は私を魔導士学校へと入るよう仕向けたのだ。そして父も、ミユキさんの存在があるからこそ了承したのだろう。なぜなら彼女を魔導士ギルドに推薦した人物こそ、父なのだから。
その事実と旅に出たいと申し出た時、ミユキさんも初めて聞かされたようで、非常に驚いていた。
おそらく父も先生も、私がギルド内で特別扱いされる事がないように情報を伏せていたのだろう。特に父は公正である事を望む人だったのだから。十分すぎるほどに、ナガノさんたちに特別扱いしてもらっていたが、それは父とは無関係のようだ。
ミユキさんは私がこうして無事であることや、その後のソーン先生の話を聞いて喜んでいたのだけれど、それと同時にもう一つの大事な事実にも気づいてしまったのだ。私が復讐を決意した魔物、それが黒竜である事に。
これ以上誤魔化す事も、嘘をつく事もしないと決めた私は、ミユキさんにその事実を確認された時偽ることなく肯定した。その時の彼女の心配、不安、そして怒りの混ざったような表情を忘れることはないだろう。酷く強い言葉で、そんな事は諦めろと諭された。
その震える声と、同じく震えながら強く握りしめられた拳は、怒りから来るものではなかった。私を心の底から心配し、そして自身もまたあの厄災に未だ恐怖しているのだと言うのだ。
様々な伝説を持つ彼女でさえ、黒竜という存在は太刀打ちできるものではなく、退けられたのも彼女の力ではない、何らかの外部の力があってこそなのだと言う。
そんな存在を、私がどれだけ強くなろうとも敵うはずないと、考えを改めよと諭されたのだ。
けれど私はそんなつもりはない。できるかできないかじゃない、やらねばならないのだ。
そんな私達の平行線のまま交わらない水掛け論だったが、それを制したのは共に居たナガノさんだった。
彼は今の私では絶対に無理だという事と、そしてそれと旅とは別であると諭し、その場を治めた。
先の事は旅を無事終わらせてから考えればいいと、結論の先送りではあるものの落としどこを提示してくれたのだ。
「ナガノさん、ミユキさんは……」
「あぁ、あいつはなぁ……。意地っ張りだからな、顔合わせづらいんだろ。
まぁ適当になだめておくからお前は気にすんな」
「はい……。ありがとうございます」
喧嘩別れしてしまったようで、少し寂しさを覚えた私に対し、ナガノさんはその大きな手で頭をぽんぽんと撫でてくれる。ずっと頼りっぱなしで不甲斐なさを感じるけれど、この旅を通して強くなって、誰もが安心して送り出せるほどになろうと決意を新たにした。
そんな私に、いつものように優しい雰囲気でアスカ先生は語り掛けた。
「これ、みなからの餞別。きっと役に立つと思うから」
その言葉と共にそっと箱を私に手渡し、微笑みかける。
「ありがとうございます。開けても構いませんか?」
「えぇ、どうぞ」
中からは手のひらサイズで、平べったい銀色で円形の金属製の何か。細い鎖が繋がれており、首から掛けられるようになっているようだ。
私には何か分からなかったが、異世界人にはピンとくるもののようだった。
次回更新は3/16(月)の予定です。
以下雑記
本来はミユキさんとのシーンは場面を書こうと思ってたんですがね……。
長くなるのでこんな形になってしまいました。うーん、地の文マシマシ!
ライトノベルとしては失敗してる気がするけど、まーいっかー。(諦め
いや二章がですね、想定以上に長くなってるんですよ。
はよ三章行きたいのに……。てか本来三章から始めるつもりだったのに……。
想定とは狂うもの。予定は狂わせるもの。うーん、執筆ってムズカシイネ。
次回で二章は終わります。いや終わらせます。
その後は少しお休みをいただいてから、三章(本番)を始めます。
三章開始前に人物紹介を挟む予定ですが、予定は未定!




