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019 お節介な先輩

 二番手女のロベイアと幻影のナントカ事件、それは私にとって転機となった。なぜなら幻影の……、もういい。ミユキさんは気に入ったみたいだけど、この二つ名長いしめんどくさい。

ともかく、ミユキさんとはその後事あるたびに行動を共にするようになったからだ。そして、私が名前を覚えられない事にも理解を示してくれていた。


「まー私もね、数学の公式とか、外国の国名とか覚えるの苦手だしさ。人間誰しも不得意な事はあるよ」

「得意不得意で済ませられる事じゃないんですけどね……」


 一緒に昼食を取った後、学校の中庭でそんな話をしていた。名前を書いてもらった陶器の板を眺めながら、俯く私の頭をミユキさんはわしわしと撫でながら、ニカッと笑う。


「何言ってんのさ、出来ないことを出来ないと分かって、それで代わりのものを用意してるんでしょ?

 それが出来るって凄いことなんだよ? 出来ない事に文句言うだけで、他の方法で代用する事も考えない奴の方が多いんだから!」

「ありがとうございます。そう言って貰えると、少し気が楽になりました」

「ふふっ、頑張ってる子を見ると応援したくなっちゃうのよね。

 んー……、でもその板じゃ不便よね。あっ! そうだ、いいものあげるよ」


 そうして彼女の鞄から取り出されたものが単語帳だった。見たこともない薄くて透明な袋に入っており、表と裏の一枚だけが薄いピンクのものと、同じく薄い水色のものの二つあった。

それは小さな白い紙を金属の輪で留めたもので、表に問題、裏に答えを書いて覚えるのに使うそうだ。

けれど私の場合どうやっても覚える事ができないため、メモ帳として使ってはどうかと言われたのだ。


「ね、便利でしょ?」

「そんな、頂けませんよ! こんな高価なもの、買ったらいくらするか……」

「私はもう一冊使っててね、これは残りなんだよね。と言っても、今のところ見る事ほとんど無いんだけど」


 そう言って、表紙が薄い黄色のものを鞄から取り出して見せる。袋が妙にブカブカだったのは、三つセットで入れるように作ったものだったからなのだろう。

だからと言って、そのように貴重な物を譲り受ける訳にはいかなかった。なぜなら紙は、地域によっては同じ大きさの金と交換できると言われるほど貴重なのだから。


「でも、私手持ちのお金もそんなに持ってないですし……」

「お金なんていいのいいの。困ってる時はお互い様じゃない」

「そう言われましても、今の所助けていただいてばかりで……」

「じゃ、出世払いって事で!」

「でも……」


 納得させられる断り文句をぐるぐる探しても、彼女には通じない。本当は金銭面だけなら、父に助けを求めればなんとかなっただろう。けれどそれは避けたかった。

学校に入る時も無理言って入った事もあって、成績もギリギリ、魔術も結局使えずじまい……。そんな中で頼るのは忍びない……、というのは建前で、屋敷に連れ戻されるきっかけを与えたくなかったのが本音だ。

 そんな私の本心を知ってか知らずか、ミユキさんは物言いを強める。


「なに? アタシのプレゼントは受け取れないってワケ?」

「いえっ……。ありがたいのですが……」

「だいたいね、センパイの厚意ってのは“ありがとうございます“とだけ言って受け取っときゃいいのよ!

 後輩にいい顔したいだけなんだから!」

「うぅ……。はい、ありがとうございます……。でもいつか必ず、お礼はしますので!」

「……まっ、及第点ってトコかな!」


 まるで今までの怒気を孕んだ様子が嘘のように、彼女はニッと笑う。今のは怒ったフリだったんだろうか……。いまいち彼女の人柄が掴めない。

それに何より、彼女からはオーラが出てないのだ。いや、威圧感とかそういう類の“空気“は出す事もあるのだが、弱まった視力のせいもあるかもしれないけれど、魔力の気配が掴めない。


 もし彼女に魔力がないのなら、私と同じだ。けれど彼女は魔法を使うことができる。その違いはまさに“幻影の魔術師“と“無能“との大きな差である。

魔力がなく気配を悟らせる事なく行動できるのは、私も同じで武器になりうる。けれど、彼女がその状態でなぜ魔法を使えるのかが疑問だ。


 そんな事を赤い単語帳を受け取りながら考えていた。


「あの、どうしてこんなに私に良くしてくれるんですか?」

「んー? そりゃ困ってる人が居たら助けたくなるもんでしょ?

 それにほら、なんかあなたに突っかかってた女いたでしょ? あーいう女大っ嫌いなのよね」

「ロベイアさんですね……。あの人はいつもあんな感じなんですよ」

「なおさらムカつくわ。なんなのあの見下した物言い! 思い出すだけで腹立ってきた!!」

「でも彼女が優秀なのは事実ですし……。それに私が魔術の実技で特別待遇になってるのが気に入らないのかもしれません」

「なにそれ? どゆこと?」

「えっと……」


 私が入学できた理由と、そして無能と言われる理由を詳しく話す。

ミユキさんは優秀な魔術師だ。ギルド所属経験から理解は示してくれても、学生同士の心象は測れないようだった。


「はー? そんな事? くっだらない!!」

「でもそういうもんですよ。みんな試験を頑張って突破して入学したんですから、私が贔屓されてるって思っても仕方ないです」

「私が言ってるのはそこじゃないよ? だって考えてみなさいよ、この世界には学校の生徒数なんて比べ物にならないくらいたくさんの人が居て、その中にはここでは落ちこぼれ扱いになるような人でも立派に生きてるのよ?

 それこそ魔力は持たないけど一騎当千の働きをする冒険者とか、そんな目立った人じゃなくても、その人が手入れすると豊作になるような凄腕の農家さんとか、あとはすっごい商売上手な商人さんとかもいるわけじゃない?」

「そうかもしれませんが……。でも今はこの学校という枠で判断されますから……」

「その判断するのはあの高慢女でも、あなたでもないでしょ?

 それに特別に入学させたって事は、少なくとも入学許可出した人には認められてるって事じゃない!」

「うーん……」


 ミユキさんの言う事は正しいと思う。けれど彼女にとって正しい事が、誰しもにとって正しいとは限らない。

彼女はきっと理想主義者なのだろう。昔から“他人の本音“に触れ、現実の嫌な面を見てきた私にとって、それは眩しすぎた。


「それにね、私思うんだけどさ、あの子とあなたの違いってなんにもないはずよ。ただあの子は得意な事をあなたより先に見つけただけ。

 きっとみんな気付いてないだけで、それぞれに得意な事はあるの。それに早く気付いてうまく流れに乗れたか、まだ探してる途中か……。きっとそれだけの違いよ」

「そうでしょうか……」

「きっとね。私も魔術はダメダメだもん」

「えっ!? そんな事ないですよ! だってミユキさんの伝説は有名ですよ!?」

「伝説?」

「あっ……」


 今までの彼女らしからぬ、卑下したような言葉に、うっかり口に出してしまった。

私も友人が居ないとは言え耳にした事がある。彼女の様々な噂を。良いのも悪いのも……。


「詳しく聞かせて貰おうかなー?」

「えーっと……。今のを無かったことには….」

「できませんし、しません」


 眩しい笑顔が逆に恐ろしい事もあるのだと、私はこの時初めて知ったのだった。

次回更新は2/17(月)の予定です。



以下雑記



感情の起伏が激しい先輩。曲がったことが嫌いみたいですね。

陰湿な嫌がらせにはキレるけど、正々堂々一騎打ち仕掛けてきたら、むしろ相手と仲良くなるタイプ。

なんだその少年誌の主人公ポジは! 実際主人公でした。(過去形)


「私、クソラノベに召喚されたのであるある展開を制覇します!」

 →https://ncode.syosetu.com/n3295fy/


ダイマできたので私は満足です。ではまた次回!

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