016 魔導士学校での日々
魔導士ギルド、それは海に浮かぶ島である。切り立った海岸線が続く、細長い湾の中に浮かぶ島であり、陸とはただ一本の橋で繋がれている。出入りするにはその橋以外に方法はなく、それはまるで何かを守るように、もしくは封じるように作られた場所。その一部が魔導士学校である。
橋の前には雑多な街が広がっており、大樹をくりぬいたような建物、火山を模したような小さな山から溶岩が流れる演出の建物など、さまざまな工夫を凝らされた建築物たちが所せましと集まっている。もちろんそれらは見た目だけでなく、ドアや窓も付いていて中で人が活動できるように設計されているが、外見の奇抜さは魔法によって維持されたものだ。
そのような工夫……、というか一件無駄な努力に見えるそれらは、自らの魔法の能力を示す事で、魔導士ギルドに取り入ろうとした結果である。
当然ながら石造りや木造の建物もあり、奇抜なものは目立つだけで数はそれほど多くない。といっても、やはり他の”普通”の建物でさえ統一感がなく、はちゃめちゃな街並みを形成している。
初めて来たとき私は、あまりの景色におっかなびっくりといった表情をしていたと思う。けれど、どんなものでも人間というのは慣れるもので、今では一つ道を違えただけで表情を変える街並みを気に入ってさえいる。それに……なにより魔導士学校の中は気が滅入るので、混沌とした街並みに紛れる方が落ち着くのだ。
学校という狭いコミュニティ、自らの力でこの場に居るのだという選民意識、そして強い者に群がる虎の威を借る狐達……。そのような人間の集まりの中は息が詰まる。多くの人の色を見てきた私だったが、これほどまでに”浅ましい”という感情を抱いた事は今までなかった。
いや、当然と言えば当然だ。まがりなりにも貴族と顔を合わせられる立場の者は、ある程度選別されているのだから。選民意識はあれどそれが当然の事であり、鼻にかけた雰囲気を出す必要すらないのだ。
つまり……魔導士学校に入れただけでは未だに自信を持てず、虚勢を張らねば自らの精神を安定させられない者たちなのだろう。そう考えると、少し哀れみすら覚える。
そういった事もあって、私は何かと理由を付けては街に出る事が多いのだ。今回ならギルドから買い物の手伝いを受けた。それは成績が良くない事の埋め合わせにもなるので一石二鳥だ。
もちろん私は学力に関しては問題ない。むしろ先生と父に指導してもらっていたのもあって、他の人たちよりも知識面に関しては優秀だと評価されている。けれど実技がダメなのだ。そりゃそうだ、私は魔術に関しては全くセンスのセの字もないのだから。
入学前から続く検査によれば、私は魔力の貯蔵ができないらしい。
魔力には生産・貯蔵・使用の三工程があり、生産では大気中や飲食物から魔力をどれだけ効率的に取り込めるか、貯蔵は自身の体内にどれだけ魔力を蓄えられるか、そして使用はその魔力をどの程度自由自在に操る事ができるか、という能力である。
それらは三位一体であり、どれが欠けても魔術は成り立たない。貯蔵がほぼ0であり、生産は一般人の平均の半分程度、そして使用だけは測定不能なほど高いらしい。つまりは手先は器用で素晴らしい彫刻を作る腕があるのに、彫る石材を持たないようなものだ。
しかしその結果に、ある種の納得感は得た。おそらくだが、私に備わっていた”良すぎる目”というのは、魔力を扱うために必要な流れを見極めるものだったのだ。見極めるだけで自身から出るものがなかったので、意味はなさなかったわけだが……。
そんなこんなで、結局私は実技試験をクリアできるほどに魔術を使えないのである。だからこそこうして手伝いで心象を良くして「個人の特性として実技はダメだけど、知識も生活態度も良い」という評価を貰う事で、なんとか除籍処分を免れているのだ。
けれど魔導士学校も二年目、さすがに来年卒業を迎えるにあたり、それだけでは乗り越えられないという不安はある。卒業試験は心象ではクリアできないのだから。
いえ、クリアできなくても家に帰されるだけなのだが、私の目標は強くなる事。おめおめと家に戻り、再び箱入り娘にされる訳にはいかない。できるならば卒業し、ギルドの末席に居座りたいのだ。そうすれば魔術はともかく、武術の腕を磨く時間を取れるのだから。
そんな風に考えながら街を歩く。目的地は木造の建物に、瓦という石材の屋根が目印の和菓子屋だ。どうやらギルドに商人ギルドの来客があり、その方にお出しする茶菓子が欲しいらしい。
和菓子と言えば超高級品で、趣向を凝らした見た目のものであれば金貨数枚の値がする。一般的な人々の一月の収入が金貨300枚くらいなので、かなり高い。団子や饅頭と呼ばれるものでさえ、金貨1枚程度はしてしまうのだから、ただの茶菓子としては贅沢品だ。
けれど魔導士ギルドにとって、商人ギルドは重要な取引相手である。なぜなら魔導士ギルドは、その運営費の多くが魔力を含まない紙、「無力紙」と呼ばれる紙の販売益で賄っている。そしてその販路を一手に担うのが商人ギルドだ。その上研究に必要な物資の調達や、施設の建設・修繕のための借り入れ金など、商人ギルドがなければ魔導士ギルドは運営できない。だからこそ商人ギルドと関係が悪くなることは、魔導士ギルドとしては絶対に避けなければならないし、厚いおもてなしをするのは当然だった。
そういえば先生に「商人ギルドは冒険者ギルドに頭が上がらない」というような話をされていたが、同じような関係がここにもあるようだ。
先生……元気にしてるかな……。結局家に帰っていないけれど、使いの者が代わりにやってきて、今は弟の先生をしてるって言ってたっけ。少し思い出に浸りホームシックになりかけたけど、店が見えたので何とか想いを振り払う事ができた。
目的地の和菓子屋。外見も落ち着いていながらも独特だが、内装も変わっている。飲食スペースがあり、畳とよばれる床材の上に靴を脱いで上がるのは、誰もが最初は抵抗があるようだった。けれど冬場には”こたつ”というテーブルに布をかぶせ、中を火魔法で温める暖房器具があり、一度入ると抜け出せなくなるという噂がある。私はお使いでしか利用したことがないから体験したことはないけれど。
店内に入れば、凛と静まり返った空気が出迎える。朗らかな男性店員の「いらっしゃいませ」という声が、静かすぎるゆえによく響いていた。
しかし前に来た時とは違う雰囲気があった。なにか見えるのだ。それは飲食スペースの一角、調整された今の視力でもはっきり分かるほどに、強い魔力が漂っていた。
なんとなく誘われるようにその一角をのぞき込む。そこには見知った人たちが居た。
そして私を見るなり、声を掛けてきた……と思う。
「―! ――――――――――! ――――――!」
それは防音魔法によって完全に口パクとなっていた。
あまりにも高度すぎる防音魔法、どうやら見えた魔力はこれだったらしい。
次回更新は2/11(火)予定です。
以下雑記
やっば、書き終わって気づいたけど今回会話率0じゃない!?
しかも章変わっていきなり2年飛んでるしな! やばみがやんばい。
うーん、でも場所が変わったらその辺の解説いりますし、シカタナイヨネ?
シカタナクナイカ……。うん、その分次回は会話激増な気がします。
気がするだけでそんなに多くないかもしれません。
はい、読みやすくなるように頑張ります。




