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013 交渉

 夜の執務室。父は窓の外に輝く星空を見上げ、静かに一言「ならん」とだけ答えた。

それは私の願いに対する父の答え。そして初めて見た、何の議論も挟まぬ父の独断による答えだった。

 先生が私に投げかけた問い、私がどうしたいか、そしてどうありたいか。その答えはただ一言「強くなりたい」だった。そしてそのための方法は、冒険者ギルドで訓練を受ける事。


 冒険者に限定せず、冒険者ギルドは希望する住民に基礎的な戦い方の訓練を行っている。それは住民たちが自身で身を守れるようにしなければ、弱い魔物の出現でも依頼されてしまい、ギルドの仕事量が膨大になるためだ。もちろんそれはただの奉仕活動ではなく、筋の良い者を見つけ出しギルドへ勧誘する目的もある。

そしてその訓練は、この街にある冒険者ギルドでも行われている。魔物が弱い地域の特性上、あまり参加者がいないため不定期ではあるが、王都に行けば常設されており、冒険者学校という形で存在する。


 もちろん私は、いずれはそちらへとも思っているが、今回の進言に際しては領都内のギルドでの訓練を申し出た。いきなり王都に行きたいというのは、どうやっても了承されないと考えたからだ。

だが、即座に拒否されたため、私は交渉方法を間違えたと後悔した。いっそのこと「冒険者になりたい」と無理な条件を吹っかけておいて、その後に条件を少しづつ引き下げた方が良かったかもしれないと思ったのだ。

 けれど、その父の反応には大きな違和感を持った。理由を述べさせる事もなく、まるで私がそう言いだすことを予期していたかのような態度での否定だったのだ。


「どうしてですか? 私が弱いからですか?」


 私と先生を見ないようにするかの如く、父は背を向け続ける。窓に映る表情さえ見せぬように振る舞う姿は、いつもの父とはまるで別人だった。


「そうだ、と言えばお前はあきらめるのか?」

「いいえ。私は強くなるために訓練を受けたいのですから」

「だろうな。そして領主に強さなど必要ない、などと言ってもお前はあきらめるつもりはないだろう」

「はい。それは先生にも言われました」


 父の深いため息が、蝋燭で仄かに照らされた床にそっと落ちてゆく。どのように説得されようとも、私は曲げるつもりはない。例え父が屋敷に私を閉じ込めたとしても、逃げ出してやるつもりでいた。

黒き竜に行いの代償を払わせるのだ。私も家を捨てる覚悟くらいできている。


「お前は言い出したら聞かないのはよく分かっている。だが、それだけは許すことができない」

「ならば、せめて理由を聞かせてください。納得できる理由を」

「……では、お前が強くなりたい理由から聞こう。それが正しければ、私が言う事は無い」


 引っかかった違和感、それは思い違いだろうか。父はちゃんと理由を尋ねてきた。

しかし、なぜいつもよりきっぱりと先に断ったのか、それはまだ分からなかった。だからこそ私は、父を納得させられるよう、細心の注意を払って答える。


「守られるだけの存在になりたくはないからです。魔物に襲われた時、戦えなければただのお荷物です。

 私を守らせるために兵を失う事は、上に立つ者としてあってはなりません。お父様の後を継ぎ、この地を治めるのであれば、最低限自身の目の前に迫る魔物程度退けられなければ、示しも付きません。

 だから私は、戦う力を付けたいのです」

「……お前が想定しているのは、本当にただの魔物か?」


 言葉と共に振り返る父の目は、ひどく冷たかった。

父もまた、あの頃の私のように()を見る事ができるのかと思うほどに、それは私の本心を見透かしているような眼差しで、胸に氷の魔法を打ち込まれたかのごとく冷やりとさせられる。


「いいえ。再び黒竜が現れた時、戦えるように……。せめて抵抗し、時間を稼ぐくらいはできるようになりたい、そう考えています」

「……だろうな。お前が護身術を学びたいと言ってきた時、そんな事だろうと思っていた。

 そしてすぐ冒険者学校に、王都に行きたいと言い出すだろうとも思っていた。

 だが二年も続けたのだから、思い違いかと最近は安心していたのだがな……」

「すべてお見通しでしたか」

「そりゃそうさ。なにせ私はお前の父親を11年もやっているのだぞ?」


 冷たい目を緩め、父はゆっくりと私達の前へとやってくる。そして来客用のソファーセットへと座るよう私達に促した。廊下に待機させているお父様の専属メイドに茶の手配をさせ、向かい側の席に座ると、ゆっくりと話し出す。


「二年前の事件、忘れてはいないのだな」

「忘れられるはずありません」

「そうか。お前の飲んだ薬、それは未来を消したのか」


 二色のカップに入った液体。私がその片方を飲む姿を父は見ていた。

だからその薬が、私から何かを消したのだと父は理解していたのだ。それは未来……。


「未来とは比喩表現ですよ。消したのは色を見る能力。彼は壁越しでも見えてしまう良すぎる目を、見たくないものは見なくていいと調整してくださったのです」

「そうか……。お前はあれを見てしまっていたのか……」


 うなだれ、幾度目かのため息をこぼす。

父もまた、二年前の事件は話題にしなかったし、思い出さないようにしていたのだと思う。

あらゆる事態を想定し、対策を行うべき領主という存在でさえ予想だにしていなかった。それほどまでにあの竜は、この地では到底起こりえない厄災だった。


「だからこそ私は、再び訪れるであろう危機に向けて、やれることをやっておきたいのです。

 いずれ迫り来るであろうその時、後悔しないために」

「お前はどうして再び来ると考えている?」

「それは……」


 ちらりと隣に座る先生を見る。その白い毛並みに埋もれ、首元の黒い一筋の輪が蝋燭の明かりに照らされていた。

亜人の守り神である黒竜、そして亜人である獣人の奴隷。ならば彼が居る限り、かの竜は再びやってくると考えるのが妥当だ。


「あの竜が人間への罰ならば、このまま見逃される事はないでしょうから……」

「そうか……。お前にも説明せねばならないな、あの伝承の真実を」


 伝承、それは堕落した人間を見限った竜の話。この地に住む者ならば、誰もが知る御伽噺。

そこに何が隠されているというのだろうか……。


次回は2/6(木)更新予定です。



以下雑記。


色々な情報をどばっと出してるので、伝承とか言われても忘れてる人多そう。

俺も書く時に確認したんだけど「あれ?どこで書いたっけ?」ってなりましたよ。

これはひどい。えっと、008話目の最後あたりで書いてます。うん。めっちゃ探し回ったよ……。

今後のために必要な事リストは作ってるんだけど、入れれると思ったらその場でぽんぽん書いてるので、俺自身がどこで入れたか忘れるんですね。これはひどい。(大事な事なので二度 略)

はい、そんな感じですのでツッコミ等ありましたら、感想で書いていただけると助かります。

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