表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/139

010 獣人と奴隷

 奴隷の証、それは奴隷を守るための解呪の首輪。厳密には呪いは解かれていないが……。

主人に逆らったり、逃げようと離れれば死に至る奴隷の呪いを弱体化させる道具。

生命を危険に晒す命令を無効化し、主人から離れても死に至る事がなくなるそれは、奴隷の位置を知らせる機能も持つ。つまり命は落とさないが、逃げる事もできなくなる。


 それは昔、奴隷が完全に物として扱われていた時代から、現在のように地位は低いが人間として認められた存在になった時に用意されたものだ。

魔導士ギルドの奴隷取り扱い所に登録する事で支給され、公認の奴隷となる。代わりに奴隷の値段も登録され、その値段分を稼ぐ事ができれば、奴隷が自身を買い戻すという形でその身分から抜け出す事ができる制度だ。

 そのような話は父に昔聞かされていた。屋敷に来る者の中には奴隷を連れている者がいるため、知らぬがゆえに失礼な事を口にしないように教えられていたのだ。


 しかし、父はそういった奴隷にも希望のある制度とはいえ、奴隷制度には反対していた。

奴隷にもさまざまな事情がある。例えば病気の身内の治療費のために、自身が奴隷となってお金を作るだとか、孤児として育てられ、養育費代わりに奴隷として働くなどだ。

けれど、そのような者たちであればただ金を貸し与えれば済む事であって、奴隷にするのは返済逃れを恐れた者たちの身勝手だと父は考えていたのだ。


 そんな父が教育係に奴隷を寄越した、その事実に私は少なからず不信感を募らせていた。

それも獣人だ。対等に接しなければならないはずの、亜人の一種である獣人なのだ。

あの時父が何のためらいもなく黒竜を攻撃したことも……彼が関わっているのではないだろうか。


「申し訳ありません。見ているつもりはなかったのですが……。

 何か事情があっての事でしょうから、話していただかなくて結構です」

「はい。あまり気持ちのいい話ではありませんから、これを付けるに至った経緯は話しません。

 けれど私は、奴隷になった事をもう恨んでなどはいません。今は希望がありますから」

「希望……ですか?」

「えぇ。私の主人は道を指し示してくださいました。ですので例えどのような立場になろうと、私はその希望に向かい歩み続けるのです」


 彼の希望が何なのか、そして奴隷と言う立場に絶望しないのはどうしてなのか。到底そのような事にならないであろう環境で育った私には、想像すらできなかった。

けれど彼の今の発言は、父が主人であるとすれば少し違和感がある。それだけは確認しておきたかった。


「あの、貴方の主人というのは、お父様ではないのですか?」

「ええ、違います。私は主人の元を離れ、こちらで働かせていただいているのです。

 事情を理解してくださり、給金を多めに頂いておりますので、とても感謝しております」

「そう……ですか……」


 よかった、父は奴隷を積極的に徴用するような人物にはなっていないようだ。

そう安堵した私であったが、大事な事を思い出す。給金……。


「でっ、でしたらお茶の代金などいただけません!

 いえ、そもそも首輪に気付いていたのですから、先に言うべきでした!」

「いえいえ。奴隷というものは、生活にかかった費用を給金から引かれるものですよ。

 それに、お嬢様の教育係にしていただいたことで、一般の奴隷とは比べ物にならないほどの額を頂いてますからね」

「ですが! これは私のわがままです! 私のお小遣いから出すべきです!」

「ふふっ、そうはいきませんよ。しかしここで押し問答していても埒があきません。

 この件は後日旦那様と相談いたしましょう」


 そう言われると引くしかない。けれど、どうにかして彼の負担をなくしたかった。お茶の代金も高いが、それ以上にお昼を一緒に取ろうと言っているのだ。そちらはもっと高くつくだろう。

使用人たちと質素な食事であればそれほどでもない。けれど私と一緒にとなると、そのようなものを出せないとなるのは目に見えているのだから。

ならばどうにか言いくるめて、私が使用人たちと食事を取るようにしようか……。そのように考えながら、午前の授業は過ぎていったのだった。


 結局昼食は、私と同じものを彼も食べる事となる。この事が奴隷からの脱却を引き延ばしてしまっていると思うと、申し訳なさでいっぱいだった。

だが、それ以上にやはり彼の様子に見入ってしまっていた。見事なテーブルマナー、そして人間と変わらず器用にナイフとフォークを使う姿……。

獣人の生活レベルは知らないが、彼を基準とするならもしや獣人とは、人間よりもよっぽど文化的な生活をしているのだろうか……。本当に何の間違いがあって奴隷になってしまったのか、そう言いたくなる仕草なのだ。


 そして彼は、食事をしながらも私が罪悪感を抱かないようにか、いくつもの話を聞かせてくれた。それは亜人の事であったり、王都の事であったり、冒険者ギルドで依頼を受けた時の話など……。

私は屋敷からもほとんど出たことがなく、そして領都から出る事などまずありえなかった。窓の外には、私の知らない世界が広がっているのだ。それがどのような所なのか、興味が無いわけなかった。


 それに……私は世界を見なければいけないと考えていた。目的のためには強くならなければならない。ならばいずれこの屋敷というゆりかごを出て、力を付けなければ……。

そのためには父を説得し、外に出る理由を作らなければいけない。そのためにも彼の話は、私の知らない世界を明らかにする重要なものだった。


 午後からは護身術の鍛錬の予定だった。しかし、昼食後すぐに動くのは良くないと、一時間ほど午前の続きで勉強をする事になる。

その時もまた彼は言うのだ。それはまるで、いずれ私が外の世界へ旅立つ事を想定しているかのように。


「冒険者ならば、食事は少なめに取らなければなりません。満腹であれば、素早く動く事が難しくなります。しかし、食べられるときに食べておかないといけないのも事実。どの程度がちょうど良いか、それは自身で調整し、そして感じ取る他ありません。

 そして食事でもう一つ大切な事、それは相手の素性が良く分からない場合、出された食事には多少警戒した方がよいという事です。貴族などの力ある者は、毒を盛られる場合もあります。旅人であれば金品を奪うため油断させるために振る舞うという事もあるかもしれません」


 それは冒険者としての経験に基づくものだろう。けれど……毒を盛られる? そのような事を警戒する冒険者はまずいないと思う。なぜなら、冒険者を殺して奪える金品などたかが知れているし、もし気づかれればギルドを敵に回す事になるのだ。それはギルド所属の者たちからの報復を意味する。

 だからこれは、私の立場を考慮しての発言か……。であれば、ただの貴族が良く知りもしない相手の作る料理を口にする機会はまずない。発言の意図は読めなかったが、いずれこの屋敷を出てゆくつもりである私にとっては有用な情報だった。


 外に出るもっともらしい理由を作り上げねばならない私は、もっと彼から外の世界の情報を引き出さねばならないのだから。

次回更新は2/3(月)予定です~。



以下雑記



って事でですね、前回のあとがきで書けってハナシなんですけど

なんで後書きで雑記書くかの理由を今回は書いときますね。

というのも、いつも活動報告で更新のおしらせを出してるんですね。

その時に多少内容に触れたり触れなかったりしてるんですけど

でも活動報告って見てる人少ないと思うんですよ。

なんで裏話はここでした方が読みやすいカナ?なんて思ったんですね。


それに最近なろうの仕様が変わって、各話ごとに感想書けますから

この裏話に関係する事もコメント付けやすくなったかなーなんてね。

あ、でもでも、感想欄は感想書くところなんで、ある程度の範囲でお願いします。

あとがきに対する感想なんで、書いても大丈夫だと思うけどネ。


で、この雑記要らないって人が多いようだったら、元に戻そうかなとも思ってます。

その辺も感想か、もしくは今後は更新のおしらせだけになるけど活動報告にどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ