コックリさん・上
何故か続きが書けました、何故こんな題名なのかと言うと、
ちょっと強そうだけど絶妙にダサい名前
を考えた時にこれしか浮かばなかったからです。
ちなみに作品コンセプトはなろう系武井壮です
ジジジジジッ!ジジジジジジジジッジジッ!ジジッ!
薄暗い部屋の中で火花が散る。
それは金属を赤熱化させて金属同士を溶接する作業だった。
「ふぅ…こんな所か。」
垣谷がゴーグルを外し背伸びをする。
部屋には一般的なスクールデスクがひとつ、その足は床に敷かれた鉄板に溶接されていた。
そして机の上には儀式に必要な文字。
はい・いいえ・男・女、そして鳥居のマーク。
漢字で零から九までの数字。
そしてひらがな五十音が彫り込まれていた。
日本以外では同じような作法での降霊術が存在するがそれらはウィジャ盤と呼ばれ死後の世界の者と交信する為の道具とされている。
だが日本国においては狐の霊を呼び出す儀式とされており、学生達が複数人で集まり他愛の無い質問をしたり度胸試しに行われることが多い。
ピンポーン!
軽快な音が室内へ響き、垣谷の頼んでおいた荷物が届いたのが知らされた。
垣谷は足早に玄関へと向かい扉を開ける。
「あ、どーもぉ〜呉寿司です〜、ご注文のいなり寿司200貫ですねぇ〜…いよっとぉ〜、今日は宴会か何かですか?」
寿司屋の板前の様な格好にジャケットを羽織った中年の男は重たそうにそれを差し出す。
垣谷はそれを難なく人差し指と親指で持ち上げ、代金を支払った。
「あぁ、これが大好物らしいんだ。」
「へぇぁ〜変わったお方ですねぇ〜…あ!皿はまた回収にきますんで!それでは今後ともご贔屓にっ!」
そう言って慌ただしく男はエレベーターへと向かった。
それを見届けると垣谷も厳重に鍵を掛け、作業の続きを行う。
儀式開始前にこの大皿を部屋の四隅に置くのだ。
大皿1つにはいなり寿司が50貫ギッチリと詰められ、まるでいなりの絨毯の様になっている。
垣谷は10円玉硬貨をサンポールに付けて汚れを落としながら机にハンドルを溶接していった。
西日の差し込む部屋は茜色に染まり、いつもより少し暑く感じる。
垣谷はシャワーを浴びた後、真っ白い着物のような白装束に身を包んでいた。
机の上には鋼鉄製の手甲の人差し指の先に10円玉が溶接されており、机の端にはアームレスリングに使用するようなハンドルが取り付けられている。
机に直接彫り込まれた儀式用の文字は夕日を浴びて影をより濃く作り、その言葉をよりはっきりと映し出す。
垣谷はいなり寿司のビニール紐の封印を手刀でスパッと切り裂くとそれを遠くのゴミ箱へと柔らかく投げ、綺麗にそれは紙のゴミ袋より1つ奥のビニールのゴミ袋の方へと吸い込まれた。
鍛えられたごみ分別の能力を確かに自分の拳に感じ、自分のコンディションは完璧なものだと確認した。
垣谷は手甲に指を通し、ハンドルを握り机に人差し指を立てる。
「コックリさんコックリさん、おいで下さい。」
………。
最近デジタル時計に変えた垣谷の部屋は、コックリさんを呼ぶその言葉で音を終わりにした。
本気の垣谷は目をスッ─と薄く開き部屋中の気配を探る。
部屋の中は物音ひとつ、硬貨を1枚落としただけでも爆裂しそうな程張り詰め、全ての音を押しつぶすような息苦しさが2分〜3分と過ぎて行く、が。
コックリさんは垣谷の呼び声を無視する様に10円玉はその場からピクリとも動かなかった。
ふぅっ、と息をついた垣谷は鈍く黒く光る手甲を外す。
垣谷は部屋の北東側の隅へと向かい、いなり寿司をひとつ、ひょいとつまみ上げた。
まるで熟練の寿司職人の様な握りで持ち上げられたそれはまるで当然のように垣谷の口に運ばれることはなく。
ペチンッ!
机の上に置かれた。
そこには皿も何もなく、ただ机へ直に置いたのだ。
垣谷はその事を機にするそぶりもなく再び手甲に手を通し呪文を唱えた。
「コックリさんコックリさん…おいで下さいませ…。」
なおもそれにコックリさんが応じることはない、その態度が垣谷の闘争心に火を灯した。
「いいだろう…引き摺り出してみせる。」
今度は寿司を2貫、右手と左手に1つづつ、それをピタンッ!とコミカルな音を立てながら1貫目の稲荷の両脇へ並べられた。
そして呪文を唱える、そしてまた2貫、4貫、8貫と垣谷も大人気なく机の上にいなり寿司を並べ、置けるスペースが無くなれば稲荷の上へ。
垣谷は残りの稲荷の数に焦りを覚えつつも、しっかりとした意思で力強く断固として稲荷を机へ並べて行く。
桶の中の稲荷も最後、目の前に出来上がったいなり寿司のピラミッドの上に、垣谷が注文した200貫のうち最後の一貫がそのてっぺんへと乗せられた。
「コックリさんコックリさん…おいで…ッッッ!!!!!」
さぁ、闘いの始まりだ。