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四、二人といじめ

どうも。約3か月ぶりに投稿します。本当に申し訳ございません。忙しかったのもあり、時間がかかってしまったので少しおかしなところもあると思いますが、長いので気楽に読んでいただければ嬉しいです。頑張って続きを書いていくので、応援よろしくお願いいたします。

    四、二人といじめ


 頭が痛い。どうやら、地面に頭を打ったようだ。利太は、痛みに耐えながらうつ伏せになっていた体を起こした。そして、視界がぼやけるなかで周囲の状況を確認した。ぼやけるなかで見た周りの景色は、自分の知っている景色とは違かった。利太は、ぼやけているからそう見えているのだろうと思った。しかし、ぼやけていた視界が回復してきて、はっきりと見える状況で見た景色はぼやけていた時に見た光景と一緒だった。

 利太は、建物の前にいた。どうやら、小学校のようだ。空は雷が落ちてきそうなほど黒い雲が広がっていて、また、空間に穴が開いたような黒い渦が出来ている。黒い渦は、絵画のようなものの真ん中に出来ていた。

 とりあえず、周りをもう少し探索しようと思い、小学校の周辺を歩き始めた。しかし、いつもよりも歩く速度が遅いことに気づいた。それに、目線がいつもよりも低くなっている気がする。利太は、もしかしてと思い、自分の体を見てみた。

 まず、手を見た。手は大人の手というよりも子供の手という大きさをしていた。次に、体を見てみた。上半身と下半身はバランスをとっていたが、手と同じく子供サイズの大きさだった。そして、顔を触ってみた。なんとすべすべなのだろう。髭が一つも生えておらず、しわも全くない。最後に足元にあった水溜まりに映っている自分を見てみた。それを見た瞬間、利太は自分がどうなっているかを確信した。

 ”子供の頃に戻ってしまった”と。

 小学生ぐらいの男の子の姿になってしまったのだ。どうしてこうなったのかはっきりは分からないが、何となくであれば分かった。

 ここは多分、絵画の中の世界だ。まだ仮説にしか過ぎないが、上にある黒い渦が自分がここに来た入り口で、あそこを通ればここから出ることが出来るのではないかと思った。何故なら、黒い渦は絵画の真ん中から出来ていたからだ。この世界に来る前にあった出来事を振り返ってみれば分かるのだが、利太は絵画の中に吸い込まれていったのだ。ならば、上に絵画と絵画の真ん中に黒い渦があったら、そこから入ってきたとしか考えられないだろう。

 (もし、本当にあそこから来たのだとしたら、どうやって戻るんだ?)

 黒い渦に戻るとしても、空にあるのなら戻ることは難しいだろう。それこそ、飛行機などの空を飛べるものが無ければ不可能だろう。

 (とりあえず、学校の周辺を探索しなければ。)

 水溜まりに移る自分を見て止まっていた足を動かし、再び探索を開始した。

 利太は、学校の周辺を子供の足で一周してみた。学校が広いのか、それとも自分の歩幅が小さかったからなのかは分からないが、周辺を歩くだけでも30分はかかった。学校の周辺を歩いてみて、とても妙なことに気づいた。

 ”人と一人も出会わなかったのだ”。

 いや、出会うことはなくても見ることはあった。しかし、見たのはすべて学校の中にいる人だけだったのだ。利太は学校全体を囲んでいる柵の外側を一周したのだ。外側には隙間なく家が並んでいた。それなのに、人と出会うことが無かった。天気が悪いのもあるだろうが、それにしても人がいる気配が全く感じられない。人がいなければ、ここから出る方法を聞くこともできない。けれど、人がいるからといってここから出る方法を知っているとは限らない。

 (だが、一人でどうすればいいか分かるわけでもないだろう。)

 人に聞かないことには何も始まらないと思い、小さい子供でも何か知っているかもしれないという可能性に賭けて、人がいる小学校の中へと入ってみることにした。

 幸い、誰にも疑われることなく入ることが出来た。多分、自分の体型が小学生になっているからだろう。とりあえず、学校の中に入ることが出来たのであちこち探索してみることにした。

 「利太、お前何してるんだ?」

 しかし、利太の足は自分の名前を呼ぶ人によって止められた。声のした方向へ振り返ってみると、そこには今の自分の身長と同じくらいのぽっちゃりな男の子がいた。

 「……君は…誰?」

 利太は、自分の名前を知っているこの少年に聞いてみた。

 「おいおい、忘れちまったのかよ。お前と小学校一年生の頃からの友達だよ。みんなからはグンチって呼ばれている。」

 「グンチ?」

 「そうだよ。」

 利太は”グンチ”という名前に聞き覚えがなかった。もしかしたら、ここの住人なのではないかと考えた。

 (ならば、話を合わせて情報を集めてみることにしよう。)

 そう思うと、利太はグンチのことを今思い出したような表情をして答えた。

 「ああ、グンチか。思い出したよ。」

 「ならよかった。記憶喪失になったのかと思って心配したよ。でも、そうじゃないなら安心した。じゃあ、教室に戻るぞ。そろそろ一時間目が始まるからな。」


  (・・・ん?)


 「…え?授業するの?」

 「当たり前だろ?俺も授業受けるの面倒くさいけど、ちゃんとやらないと母ちゃんに怒られちゃうからな…。ほら、早く行くぞ。」

 利太は、少し困惑した。とりあえず、自分がどういう立場になっているのか少し整理してみた。

 グンチという少年は、自分とは友達関係にあるらしい。また、グンチは教室に戻ろうと言ったことから、グンチと自分は同じクラスメイトなのだろう。時刻は一時間目が始まるということから午前八時過ぎと予想できる。そして、自分は今から授業を受けなくてはならない。

 (何故だ?)

 卒業したはずの小学校生活をもう一度送らなくてはいけないという事実に、利太は訳が分からずため息をついた。しかし、このままでは何も情報を集めることもできないため、グンチという少年の後を追いかけることにした。

 階段を上がって、最初にいた一階から五階に到着した。

 「遅いぞ。あと三分で授業が始まっちまう。急げ。」

 グンチという少年は、ぽっちゃり体型からは想像できないほど軽やかに廊下を走っていく。利太も後を追いかけるが、階段を全速力でのぼったせいで体力がなくなった。

 (今まで疲れなかったのに何故疲れるんだ?もしかして…)

 疲れたということに対して一つの仮説が確信に変わった。

 (やはり、ここは絵画の世界だ。)

 何故なら、黒い空間なら疲れることはないのだ。疲れるということは黒い空間とは別のことが起きていることになる。ならば、この世界は黒い空間とは別の世界と考えることができる。頭を回転させ、様々な情報をもとに思考した。

 いろいろと考えているうちに、気がつくと教室の中に入っていた。

 「利太、何してるんだよ。早く座んないと先生来ちゃうぞ。」

 グンチが自分の座っている席の後ろを指さして言ってきた。教室にいるほかの人を見ると、みんな自分の席に座っていた。このまま一人立ったままだと怪しまれると思い、とりあえずグンチの指さした席に座った。

 席の場所は、一番窓に近く一番後ろだった。

 (この席ならほかの人から目をつけられることもなく、周りを見ることが出来るだろう。) 利太はそう思い、教室の周りを見渡した。

 最初に外の景色を見てみた。下には校庭があり、校舎よりも二倍くらいの広さだった。上には黒い雲が空いっぱいに広がっており、これから雨が降るということを教えてくれているようだった。教室の中はというと、後ろにはランドセルを入れる棚や教材を入れる棚があり、前には黒板と教卓があった。このクラスの生徒の机の数を数えると、自分も含めて三十人ぴったりだった。教室のプレートは、ここが「六年四組」と書いてあった。廊下の突き当りに着く前の一番最後の教室であったことから、六年生は四組までしかないことが分かる。

 (ということは、六年生は大体一二〇人ということか。)

 そして、全学年同じ組まであるとすると、生徒数は全校で大体七二〇人くらいだろうと予想ができる。

 (その中に、この絵画の世界のことを知っている人はいるのか?)

 これだけの人数がいても、知っている人がいる気がしない。何故なら、彼らはこの絵画の世界の住人なのではないかと思ったからだ。この世界の住人が、この世界のこと以外を知っているとは到底思えない。試しに、グンチに聞いてみることにした。

 「なあ、グンチ。」

 「ん?どうした利太?」

 「あのさ、僕この絵画の世界から出たいんだけど…。」

 「…は?何それ?絵画の世界ってもしかしてここのことを言ってるのか?」

 「うん。」

 「はあ…。お前また頭おかしくなったのか。保健室行くか?頭のことまで診てくれるかは分からんけどな。」

 「いや、頭はおかしくなってないよ。ただ僕は、黒い空間に戻りたいだけなんだよ。」

 「何だよそれ、意味わかんねぇ。…あのな、ここ絵画の世界じゃねえ。普通の世界なんだよ。ここ以外にも世界があるなんてありえないことなんだよ。」

 やっぱりだ。グンチのように、ここの住人がこの世界以外のことを知っているわけがない。逆に、知っているほうが不思議なくらいだ。

 利太は、人に聞くという選択肢が消えたことに落ち込んだ。次の選択肢が思いつかず、どうすればいいか悩んだ。ああでもないこうでもないといろいろ考えていると、突然グンチが声をかけてきた。

 「おい利太、もう昼だぞ。早くご飯食べようぜ。」

 「…え?もう昼なの?」

 小学校といえば、四十五分授業で午前中は四時間目まであった気がするのだが、グンチが言うにはそれがもう終わったということになる。

「そうだよ。お前ずっとぼーっとしていたからな。何回かお前に声をかけたんだけど、気づいてくれたのはこれが最初だな。」

 利太は、そんなに長く考えていたのかと自分でも驚いた。それと同時に、声をかけてくれたのに返事を返すことが出来なかったことをグンチに謝罪しなければと思った。

 「グンチ、ごめん。声をかけてくれたのに返事できなくって。」

 「いいって別に。そんなことより飯食おうぜ。俺もう腹ペコペコなんだ。」

 「そうだね。じゃあ食べよっか!」

 「おう!」

 グンチはそう言うなり、自分の食事を勢いよく食べ始めた。その光景を横目に見ながら、利太はこれからのことを考えていた。

 (ここから出るためにはここの情報をもっと集める必要がある。それなら、昼休みの時間を使ってできる限り情報を集めよう。)

 昼休みに行動を開始することにし、利太も給食を食べた。

 昼休みが始まり、みんながあちこちに遊びに行ったので、教室は静まり返っていた。静寂が響く教室をスタート地点として、利太は学校探索を開始した。

 ぶらぶらと歩きながら、何かないかと五階から二階まで来たが、特に重要そうなものはなかった。あったことといえば、学校内で鬼ごっこをしてる人たちがいたとか、女子と男子が口論になっていたとか、「雨降ってきたねー。」「そうだねー。」という窓の外を見てぼーっとしてる人達の会話を聞いたことぐらいだ。本当はこんなことをするはずではなかった。しかし、図書館などの情報を得られそうな場所の扉は閉まっていた。だからこうしてぶらぶらして周りを見ることしかできないのだ。

 二階を端から端まで探索し終わったので、次は一階を探索することにした。

 (一階を探索しても、何かあるだろうか…。)

 ここまで何も情報を得ることが出来ていないため、利太は一階も同じことだろうと諦めかけていた。階段を下り正面を見ると、そこには、窓があった。外は、さきほど聞いた会話通りに黒い雲が雨を降らせていた。正午とは思えないほど暗く、少し不気味な雰囲気を感じた。

 何となく窓の外を見ていると、近くで「バタンッ」という何かが倒れたような音がした。利太は少し驚いたが、何があったのかを知りたくて音の方向へと足を進めてみた。どうやら、音が鳴った場所は昇降口らしい。利太は、下駄箱から顔を出してそっと覗いてみた。


 そこでは、一人の少女が四人の男子達にいじめを受けていた。


 雨が降っていて外で遊ぶことが出来ないため、あの人達以外の人が全くいない。よく見ると少女は地面に倒れて口から血を吐いていた。地面には血が飛び散り、どれだけ少女が痛い目にあわされたかを表しているようだった。

 「おいおい、もう終わりかよ。そっちから突っかかってきたくせに弱っちいな。ほら、早く立てよ。」

 いじめをしていた一人の男子がそう言うと、もう一人が倒れていた少女の髪の毛を掴み、無理矢理立たせた。そして、ほかの二人が髪の毛を掴まれて立たされている少女に向かって一方的に殴り続けた。少女が腹や顔に殴られて辛そうな顔をするたび、男子たちは狂気の笑みを浮かべ、さっきよりも素早く重く殴っていく。同じ人間とは思えないその残虐な行為に、利太は恐怖のあまり後ずさりした。すると、背中に何かが当たった感触があった。

 (もしかして、こいつらの仲間か?)

 恐る恐る後ろを振り返ってみると、そこにはグンチがいた。

 「グンっ…」

 「しっ。静かにしないとあいつらに気づかれちまうぞ。」

 名前を呼ぼうとした口を塞がれ、少し息がつらくなった。だが、グンチがいたことに利太は少し安堵した。

 「あいつらは俺らと同じ学年なんだが、クラスが違うんだ。あいつらのクラスは『六年一組』。通称【カーストトップ】と呼ばれている。この学校ではカースト制度を取り入れていて、一組がそのトップというわけだ。だから、やつらに歯向かうとこういう目にあわされてしまう。」

 「あの子は?」

 「俺らと同じクラスの〇〇〇だ。俺らは一番下の組だから弱者というわけだ。」

 名前がうまく聞き取れなかったのでもう一度聞こうと思ったが、グンチはとても震えていた。やはり恐怖が体を支配しているのだろう。グンチは「見つからないように逃げるぞ」と言い、ゆっくり後ずさりをした。

 利太もそれに続いて後ずさりをしようとした。その時、少女がまた口から血を吐いて地面に倒れてしまった。利太たちの方に顔を向ける状態で倒れた少女は、こちらを見ている存在に気づいた。


 「……助け…て…。」


 少女は血だらけの口から、懇願するように、祈るようにつぶやいた。利太達に救いを求めていたのだ。利太は、少女の体を見渡してみた。

 少女は満身創痍だった。白い服は血だらけでボロボロになり、体のあちこちから血が出ている。顔も殴られたせいで少し歪んでいる。生きているのが不思議なくらいだ。いつ死んでもおかしくない。そういう状態だった。

 利太は逃げ出したくなった。こんなことする連中からあの少女を助け出せるわけがないのだ。もし仮に助け出すことが出来たとしても、自分も同じことになるのではないかと思った。ならば、逃げたほうが関わらなくて済む。そう心に言い聞かせ、後ろに一歩下がろうとした。

 その時、突如頭が痛み出した。砂嵐のような雑音が耳に響き、立っていることも困難な状況に陥った。

 (…っ…痛いっ!…何故だ?何故いきなりこうなった?)

 訳も分からず痛みに耐えていると、ふと、頭の中にうっすらと砂嵐が混じったような映像が浮かび上がった。

 それは、この場面とよく似ていた。四人に殴られる少女が、下駄箱から顔を出している二人に向かって懇願するように「助けて。」と言った。しかし、二人は助けることをせずにその場から逃げ出してしまった。二人の姿が見えなくなってしまった後、少女は地面に倒れたまま意識を失った。


 映像はそこで途絶えた。


 映像が途絶えたのと同時に、頭の痛みがひいていった。しかし、利太の頭はエラーの嵐が起こっているかのようにある言葉が思考を埋め尽くした。


 ”こんなことに二度としたくない”と。


こんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにしたくないこんなことにだけは

「…もう二度と…したくない!」

 気づいたら、いじめている一人の男子を殴っていた。

 殴られた男子は、その衝撃で地面に倒れた。

 「…痛っ!…この野郎!」

 地面からすぐに起き上がり、利太に反撃をしてきた。拳が向かってきたことに気づいた利太はとっさに顔を腕で守ったが、殴られたのは腹だった。今まで感じたことのない痛さが腹の中に残り続け、その場にうずくまってしまった。

 「弱っちいな。相手にもならないぜ。おいお前ら、こいつも”やれ”。」

 すると、少女を痛めつけていた男子たちが利太の周りに集まってきた。そして、少女の次はお前の番だと言わんばかりに、うずくまる利太に向かって容赦なく襲い掛かってきた。足や腹、頭などを殴ったり蹴ったりして一方的に攻撃をしてくる。反撃をしようとしてもすぐに押さえつけられて殴る蹴るを繰り返される。いつしか反撃する気力すら消え、一方的な攻撃が終わるのを待っていた。

 利太は反撃も何にも出来ないことに怒りや悔しさを感じた。しかし、そんな感情のなかに一つだけ喜びの感情があった。

 ”彼女を少しでも守れたこと”だ。

 自分が攻撃を受けている間は少女への攻撃はない。つまり、少女がこれ以上傷つけられることはないということだ。利太はその事実に安堵し、殴られていても負の感情が少しずつ減っていった。感情がおさまっていくのつれ、怒りを見せていた顔がリラックスしていく。

 「なんだこいつ、殴られているのに笑顔になってやがる。気持ちわりぃ。」

 殴っていた連中が、口々にそう言い始めた。利太はその言葉にそれはこっちのセリフだと言うところだったが、もうそんなことを言う気力も起きなかった。たしかに、殴られながら笑顔になるやつは気持ち悪いかもしれないが、殴ることに快感を覚えている奴らの方が数百倍も気持ち悪い。

 「おい、こいつはもういい。もう一度そいつを”やれ”。」

 連中の一人がそう言った途端、利太への攻撃がぴたりと止まった。

 (そいつって誰だ?……まさか!?)

 連中が向かって行ったのはボロボロの状態になっている少女の方向だった。

 「……お…い、やめて…くれ…。少女には…手を…出さないで…くれ。

 かすれた声で言った言葉は連中の耳には届いていない。連中が少女に向かっていくたび、利太の心に恐怖が宿っていく。これ以上殴られたら少女は本当に死んでしまう。その事実が心のとげのように刺さって抜けない。

 「…おい…。」

 ”絶対に死なせたくない。助けたい”

 「……やめて…くれ。」

 ”少女を守れないくらいなら、いっそのこと”

 「…くっ!…やめろーーー!!!」

 ”この身が滅びても構わない!”

 利太は満身創痍とは思えない状態からなんとか立ち上がった。

 「ほう、まだ動けるとはな。その状態で俺らと戦うつもりか?」

 連中は罵るようにケラケラと笑い、こちらを向いて攻撃の構えをしていた。利太に勝ち目などありはしない。だが、抵抗せずに終わるのだけは、それだけは絶対に嫌だった。利太も連中に向かって構え、戦う覚悟を決めた。連中の一人が利太に向かって攻撃しようとしたその時、何やらこちらに向かってくる音が聞こえてきた。

 「うおおーーー!!!」

 下駄箱から昇降口へと向かってきたのはグンチだった。グンチは止まることなく、一直線に走ってきた。そして、向かってくるのに気づかなかった数人の連中を吹っ飛ばした。

 「何だ?何が起こったんだ?」

 いきなりの出来事に、吹っ飛ばされた連中は混乱をしていた。

 「利太をいじめるやつは、俺が許さねえぞ!」

 怒りを込めた大きな声で、威嚇するようにグンチは言った。

 「…また邪魔が入ったか。おいお前ら、こいつも”やれ”。」

 その言葉が合図かのように、連中とグンチの殴り合いが始まった。人数差があるにも関わらず、グンチは連中と互角に戦っていった。

 数分が経過し、戦いは激しくなっていった。すると突然、下駄箱の方から女性の声が聞こえてきた。

 「ちょっと!何をしているのあなたたち!」

 服からして先生らしい。この騒ぎを聞きつけて来たようだ。

 「ちっ…先生が来やがったか。おいお前ら、行くぞ。」

 連中の一人がそう言うと、その仲間たちは慌てて逃げ出した。

 「こら!待ちなさい!!!」

 連中が逃げて行ったので先生は後を追いかけ、そのまま階段の方へと消えていった。まるで嵐が一瞬にして消えたかのような状態に、残された二人はただ呆然としていた。その時、もう一人の人物の少女が意識を取り戻した。

 「ゲホッゲホッ」

 口から血を吐きながら何とか息をしようと必死に悶えている。その苦しそうな状況を見て、利太は少女を助けに行った。うつ伏せで倒れている少女を抱え、息がしやすいように仰向けにしようとした瞬間、利太の体がいきなり宙に浮いた。

 「何だよこれ!?」

 いきなりのことに、宙に浮いている手足をバタバタと動かしたが、そんな抵抗も意味はなく、利太はそのまま壁をすり抜けて空にある絵画へと吸い込まれていった。

 「うわぁーーーー!!!」

 ……気がついたら、黒い空間に戻ってきていた。床にたたきつけられたらしく、体が床に倒れていた。

 「…ねぇ、大丈夫?」

 横を見ると、黒い空間の少女がこちらを心配そうに見ていた。

 「…あぁ、なんとかね。」

 利太はそう言って、床から体を起こした。

 「いきなりびっくりしたわよ。あなたが絵画の中に吸い込まれたと思ったら、すぐに飛び出てきて床に倒れこむんですもの。一体何があったの?」

 「…自分でもよくわからない。一体何が起きたのかさっぱりなんだ。」

 どのような出来事があったかは言えるが、何故かこの少女には話してはいけない気がした。

 「…そう。まぁ、分からないことを聞いても仕方ないわね。先に進みましょうか。」

 少女は少しつまらなそうな顔をしながらも、先に進んで「こっちよ。」と手招きをしながら呼んでいた。しょうがないなと思いながら利太も向かおうとしたその時、黒い絵画に変化が現れた。誰かが描いているかのようにどんどんと色が追加されていき、何かの情景が浮かび上がった。

 その絵は数人の男が一人の少女を殴っていて、それを遠くで見ていた二人の少年たちが逃げ出すシーンであった。

 その絵を見たとき、利太は何か違和感を覚えた。さっき経験した事柄に似ているが、少し違う。だが、何か嫌な気持ちが溢れてくる。とても嫌な、忘れたい、そんな感覚だ。

 「早くしなさいよ。先に行くわよ。」

 少女が待ちきれなくなって先に進みだした。それを見て利太は慌てて少女を追いかけた。

 (とりあえず、絵のことは置いておこう。また後で分かるかもしれないしな。)

 そう思い、先の道へと歩み始めた。

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