流氷2
南極都市の地下、その壁の向こうには氷や水がある。
ここを打ち壊して帰還するという案もあった。だが最終的には南極都市ごと沈没するという結論になり、廃案となった。
だから船を奪うという作戦になった。
南極都市を監視する船を奪うという作戦だ。脱出、発見、移動、制圧、生存、通信、交渉……いくつかの課題をクリアすれば、帰還できる。
そのために超能力者を集めた。
神々の文法の外で、力を振るえる存在を探した。
作り物の存在と知っても戦える適格者を探した。
そして、今、計画は実行できる段階である。
全員の協力が不可欠だ。
「話を進めましょうか」
マリアが手を叩くと、注目が集まる。
視線にはバリエーションがあった、期待や信頼、疑念、侮蔑、好奇など。そのすべてをマリアは受け流した。現時点での感情など、何のアテにもならない。
――事実を知った先に比べれば。
最初に確認するわね。
まず、当初はルイたち「組織」も帰還計画を進めていた。
帰還の意思があったのよ。もし最初から邪魔したいなら、やりようはいくらでもあったわよね。芽は早い内に……難しいなら土壌を壊してもいい。初期の混乱がある中なら、できたはず。
次に、なぜ玉髄を殺さなかったのか。
これはルイの意思とも、黒曜の意思とも分からないわ。でも殺す機会はあった。それに暗殺できた関係者は少なくないもの。私やケント、不撓だって殺せたはず。私たちへの攻撃的な意志、秩序の崩壊を望む意思もない。
中途半端なやり方よね。
でも外に出したくない、出ようとして欲しくない意思は感じる。
外に出ると何が起こるのか?
外の人が私たちを殺そうとする?
そうなるでしょう。でも最初から分かっていたことよ。
死んで欲しくない、としても、それならそうと言えばいい。少なくとも三賢者間ではこの世界の事実を知ってる。柘榴や不撓にだって、聞けば納得できる理由よ。正面衝突は避けられた。
なら、知られたくないの。
隠したい事実がある。
その事実はルイの価値観、信念、理想において、最強の理由になった。
ここで時期を振り返りましょう。
殺人銃の事件。
瑠璃という千里眼の超能力者が絡んだ事件。
彼女の死が不明瞭な事件。
あの頃に方針転換があった。
なんで?
彼女が外を見たのよね。
千里眼で、外の世界を見た。
その光景を語った。
瑠璃の嘘かもしれないけど、琥珀が心を読んで、裏取りした。
二人で嘘をついたかもしれない。
でも、可能性は高くない。
いえ、それ以上にリアリティがあったはず。
ルイの頭の中には根拠がいくらでもあったはず。
信じたくはなくても予兆はいくらでも見てきたわよね。
終わりの予兆。
終わりの戦争。
終わりの残滓。
――ルイはただ黙って待つ。
マリアは言う。
「もう人類は滅んでる」




