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天蓋崩落9

 不撓(ふとう)が率いる大盾部隊(ファランクス)と、柘榴(ざくろ)が率いる亡霊(ゴースト)たちが正面からの撃ち合いをしている。実弾と信号が飛び交う。

「おいおい隊列が隙だらけだぜっ!」

「将軍、煽らないでください」

 言う通りに隙だらけなら「軍」側は決して見逃さない。「組織」は十分に訓練を積んでいる。そのことがはっきりと分かる。実弾銃や爆弾への対処も慣れてきている。

 実弾や爆風を、盾や遮蔽物で防いでいる。

 投げ込む爆弾も……ボウガンで打ち落とされる。実弾銃の代替品、下位互換としてのボウガンが、南極都市での使われ方だ。それがこんな形で高い実用性を誇るようになるとは、誰も想像していなかった。

 そして途中で打ち落とされる爆弾は、そうそう投げられない。

「どうしますか、将軍」

「これでいい……時間を稼げばこっちの勝ちだ」


黒曜(こくよう)が死にました」

「最期は玉髄に?」

「はい」

「なら、彼も本望だったのかな」

 部下から報告を受けても、ルイの心は揺れなかった。黒曜ほど同情を煙たがった者はいない。だが、不撓たちが――本人たちが言う通り、ある種の同情を拒むのであれば――自分は間違っているかもしれない。

「いずれ玉髄がやってくる」

 そうなれば戦争の結果は彼が、ひいてはマリアが決める。

 生殺与奪の権のすべては、その手中にある。

「逃げたければ、逃げるといい」

 来る者拒まず、去る者追わず。

 排斥こそが人を罪に走らせる。で、あれば決して拒まない。秩序はあれど、正義は作らない。思想はあっても、理想を押しつけることはない。

 せめてもの逃げ場所として「組織」を作った。

 地下は燃え、プレイヤーは死に、大義さえも霞んで見えないほどの煙である。死の弾丸が、死の信号が飛び交って、十数度に一度だけ、その役目を果たす。

 今や「組織」こそが半ば死地と化した以上、捨て去るのは理にかなっている。

「嫌です」

「今さら言われてもなぁ?」

「つーか俺らもう亡霊だし」

「拒まず、追わず、笑わず……でしょう、ルイ」

 死も拒まず、栄光を追わず、自分たちを笑わない。

「なら急がないとね」

 玉髄やマリアを、不撓やケントを笑うこともない。彼らは知らないのだから。

「非合理でも、()()()()()()()()

 

 急激に「組織」の勢いが増した。

 物量に任せた雑な突撃である。爆弾の良い的だが、それを上回る狂気があった。ボウガンで打ち落とすどころか、わしづかみにして投げ返したり、抱きかかえて盾に突っ込むのだ。

 大盾部隊にほころびが生まれる。

 その隙間から死の信号が差し込まれるのだ。

「焦ってるなぁ、おい! 玉髄が来るんだろう? そうなんだろ? 踏ん張りどきだぞ!」

「了解っす!」

 突撃する人間爆弾を、体当たりで兵士は止める。互いの腹が吹っ飛び、四つの塊になる。

「持ちこたえろ、ここが死に場所じゃねぇさ! もっと見晴らし良いところで死にたいもんだ!」

「うるさいぞ」

 柘榴の声だった。

 あでやかさとは無縁の、怒気をはらんだ声色である。

「殺してやる――度重なる侮辱は死に値する」

「やってみろやアホが。()()()()に負ける俺らじゃねぇぞ」

 亡霊たちと共に、柘榴が駆ける。

「触れるなよ! 触れたらそこから壊される、あいつの手に触れるなよ。遠いうちに殺せ」

 弾丸は柘榴に集中する。

 その分だけ自由になった亡霊たちは、隙のある兵士を殺していく。

 銃を捨てて取っ組み合いをしかける者たちもいた。

 そして柘榴と不撓の距離は、わずかに数メートルとなる。




「なんだ、これ」

 どよめきが起こる。

 罵声は消えた。銃声も消えた。

 燃える音がする。電気の音がする。

 だが動く者はなかった。

「透明な――壁?」

 動きを阻まれている。戦場にいる誰もが指一本動かせない。時が止まったようにさえ感じられるが、思考も発声もできる。

「遅いぞ、探偵」

 不撓は言った。




 聞こえていたわけではないが、

「言っておくけど、ヒールへし折って来たのよ?」

 マリアはこう呟いた。

 そのそばには玉髄がいる。

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