三文芝居5
「銃の製造者周りはすでに調べてあるわ」
「……まぁ知ってたんですもんね」
マリアの発言を聞いて、瑠璃が呟く。責めるような拗ねるような声色だ。深くかぶった帽子の下から、覗き込むようにマリアを見ている。
玉髄はマリアの動きが一瞬ぎくしゃくしたのに気がついた。銃を机に置いたのだが、不必要に大きな音が立ってしまったのだ。案の定というべきか瑠璃が身を縮める。これでは脅しになってしまうと玉髄は不安を覚える。
(能力的には良いトリオだと思うんだけどな)
情報収集、意思決定、実力行使――それぞれに適した能力がある。
「成果はどうだったんだい?」
「何もないわ。強いて言えば露骨にガードが厳しくなってたけど……どのレベルまで隠したいのか分からないわ。そういう銃があること自体は私も知ってるし、そこの人だって目撃したわけでしょ」
マリアが瑠璃を睨む。余計なことをしやがって、という目つきだ。
「人殺しの銃自体はあまり隠す気がない?」
玉髄は戸惑い、口元に指をやる。バレても問題ないということだろうか。もしも彼女たちの陣営が南極都市の転覆を望んでいるなら、もう実行可能なのか。最悪の事態を考え始めてしまい、思わず舌打ちをしてしまう。品のない振る舞いに、慌てて口元を抑える。
「ならなんで私に銃を向けたんですか」
瑠璃の疑問に、マリアが答える。
「私は隠すつもりがあるのよ、これは切り札なんだから」
話を戻そうと、玉髄が大きな声を出す。
「さて、どうする」
「見通す能力があろうがなかろうが、銃の追跡をするしかないわ。ディーラーに関わった男を洗い直さないと……不幸中の幸いはすぐに死んだこと。そこの人の友だちが死んでから、ディーラーが死ぬまでは、ほんの数時間」
その数時間の間に銃を手にした存在がいるはずだ。
「千里眼、みたいな能力は過去視できたりしないのかな?」
瑠璃が首を横に振る。
「残念ながら」
現在の様子しか見えないと瑠璃は説明する。裏を返せば現在であればどのでも見ることができる、ということだ。
「ともかく、そこの人は帰りなさい」
マリアが玉髄に目配せをする。
「僕が送ろう」
「……ええ、どうも」
瑠璃はハンチング帽をさらに深くかぶった。
二人は車に乗り込み、瑠璃の家に向かう。玉髄は自動操縦に任せ、のんきにもあくびをする。機械の体には不必要なことだが、不必要なことを彼は好む。人間的だと感じるからだ。
「なんであの子に従うんですか?」
瑠璃の疑問に答える必要はない――だから答えた。
「恩がある」
「恩?」
「僕に道を教えてくれたんだ。……始まりの日は覚えてるだろう?」
南極都市の始まりの日はプレイヤーたちにとって悪夢の日であった。機械の体、怪物、四方を囲む壁、そして記憶喪失――多大なる喪失感が襲った。
「マリアの横にいるのが「僕」だと定義できた。そして「僕」を取り戻したいという意思を尊重してくれている」
「記憶を取り戻すと? そんなこと」
「できないだろうね」
〈できる〉
玉髄は発話では否定し、思念通信では肯定した。
瑠璃が平静を装う。千里眼のようにすべてを見通す超能力があるのなら、地獄耳のようにすべてを聞く超能力もありえるだろう。もっとも思念通話さえ盗み聞きできるのであれば意味のない警戒だ。
〈マリアには記憶がある〉
瑠璃はとっくにプログラムされた表情だ。とても自力ではコントロールできない。
〈いいかい、マリアと僕らとでは前提が違う。僕たちが何もできないのは何も分からないからだ。でもマリアは知ってる〉
玉髄は断定的な口調で続ける。
〈なぜ? 誰が? いつ? どこで? どのように? この状況はなんなんだ? 彼女はすべてを答えられる〉
〈嘘をついていたのは事実でしょう〉
〈これまでは信頼に応えてきたのも事実だ。最新のデータが必ずしも正しいわけじゃない〉
玉髄は瑠璃を横目に見る。
表情からは何も読み取れなかった。
〈……もっと詳しく聞いてもいいですか〉
〈もちろん〉
帰還計画において瑠璃の能力は役に立つ。マリアが玉髄に送らせたのは護衛や監視だけでなく勧誘も兼ねている。
玉髄は話を始める。




